メイドのいる日常 3
多くの果実を採取した一行は妖精たちと共に採取した果実を頬張りながら昼食を取っていた。
「思ってた以上に時間が掛かったけど、どれも美味しいねぇ~」
≪はい、ブドウやリンゴにアケビにナシや洋ナシに柿まであるとは驚きました≫
「イチジクが美味しいわよ」
「どれも王都で売っていましたが味が濃く甘い気がします」
「ルビーの言う通りなのじゃ。酸味が少なく甘みと香りが濃いのじゃ」
「懐かしい味ですな……ドランやカリフェルにも届けてやりたいですな……」
「そうだねぇ~あとで僕が届けに行くよ~サキュバスやゴブリンたちにもお世話になったし、もしかしたら、もうすぐお酒も完成するかもしれないからねぇ~楽しみだなぁ~」
ゴブリンの村で作っている異世界初の米を使った日本酒製造を心待ちにしているエルフェリーンは微笑みながら取れたての洋ナシに齧り付く。
「どの果物も一級品ですね~あむあむ……香りも歯応えも今まで食べていたリンゴとは違います~」
「それが梨だからじゃないかしら?」
「ごっふぇるっ!?」
ビスチェに間違いを指摘され盛大に咽るメリリ。慌ててクロが水を差し出し、喉に詰まりそうになった梨を飲み込む。
「あ、ありがとうございます……はぁはぁ……」
≪完璧なタイミングのツッコミでしたね!≫
「だから咽たんだろ……はぁ……まったく……それよりも俺は作業を続けないとな~」
秋になり多少は涼しくなった事もあり、本日は採取した果物を昼食代わりに食べる一行。クロは果物の皮を剥き薄く切りサルに並べてドライフルーツを作っている。日の当たる風通しの良い場所に置き三日ほどで完成するのだが、
「こらっ! それを食べるな! あっちにカットしたフルーツがあるからそっちを食え!」
妖精たちのイタズラなのかスライスしたリンゴを嬉しそうに強奪して行くのだ。
「アイリーンに頼んで網を設置した方がいいかもな……」
≪それなら任せて下さい! 妖精さんたちでも切れないような糸を出しますよ~≫
キャッキャしてスライスしたリンゴを強奪していた妖精たちはアイリーンがザルの上に糸を張ると逃げ出し、これ以上盗まれることもないだろう。
「ありがとな」
≪いえいえ、クロ先輩は私の恩人ですからねぇ~あの時クロ先輩に拾ってもらわなかったら、こんなに幸せな現状がありませんから~≫
ブドウの房を持ち口に入れるアイリーンは手を振りながらテーブルに戻る。
「恩人ねぇ……そんな心算はないが……色んな人と出会って今があるんだよな……」
手を動かしながら召喚に巻き込まれた時の事を思い出していると、エルフェリーンとルビーが現れ笑顔を向けて来る。
「僕もクロには感謝しているぜ~」
「私もです! クロ先輩がいなかったらあの時、死んでいたかもしれませんし……」
「えっと……結局は何が言いたいのですか?」
「私は白ワインが飲みたいわ! フルーツと白ワインの相性はとっても良いのよ!」
痺れを切らしたビスチェが本心を告げ、エルフェリーンとルビーの口からは「ウイスキー」の声が重なる。
「昼間から飲むのもたまには良いじゃろ?」
「そうですな……私はウイスキーの香りをまた楽しみたいですな」
ロザリアとラルフも話を聞きクロの元ヘ足を運びリクエストをすると、白亜が作業台に使っていた樽を縦に置き、板をまな板代わりに置いた上に乗り甘えた声を上げる。
「キュウキュウ~」
「白亜さまは美味しいジュースが飲みたいのだ! 私も飲みたいのだ!」
白亜の甘えた鳴き声を通訳するキャロットは胸を張りジュースを所望した。
「まったく……夜はメリリさんの歓迎会をしようと思っていたのに……あまり飲み過ぎないで下さいね」
アイテムボックスから作り溜めているウイスキーと白ワインにオレンジジュースを出すと一斉に大喜びをして目当ての物を取り乾杯の声が重なる。
「あの、クロさま! 私の歓迎会と聞こえたのですが……」
「ええ、ですからあまり飲み過ぎないようにと」
「いえ、私はお役に立てていないのにその様な事は……」
朝は寝坊し、掃除や皿洗いはアイリーンに取られ、果実の採取の際にはワイバーン討伐をビスチェに取られ、果実の採取は上手くいったものの、役に立っているかと問われれば立ってはいないだろう。
「人には向き不向きがありますし、ここの人たちは優秀……いや、優秀過ぎる人が多いですから……魔術なら師匠やビスチェ。狩りや戦闘ならアイリーン。鍛冶作業ならルビー。俺は」
「ゴリゴリ係ね!」
「ああ、ゴリゴリ係として優秀だからな!」
やや投げやりに合いの手を入れたビスチェに言葉を向けるが、等のビスチェは満足そうな表情で白ワインを口にする。
「メリリさんも何か合う仕事があると思いますよ」
「キュウキュウ!」
「私の紹介がなかったのだ! 私はお風呂をピカピカにするのだ!」
名前が出なかった白亜とキャロットが抗議の声を上げ、仁王立ちでお風呂掃除担当だと声高に叫ぶキャロット。
「白亜は癒し担当だもんな~」
「キュウキュウ~」
癒し担当という新しい役職に就任した白亜は嬉しそうな鳴き声を上げ歯応えのある柿を口に入れる。
「ありがとうございます……私にできる事なら何でも致しますのでご教授のほど宜しくお願い致します」
深く頭を下げるメリリにクロは何か飲み物を進めようと缶入りのレモンハイを渡す。
「これはレモンという果物の果汁を入れたお酒ですが飲みませんか? みんな飲んでいますし、これならそれほど強くないお酒なので」
そう言いながら差し出すと両手で受け取るメリリ。開け方を説明するとプシュと心地の良い音が鳴り注目を浴び、ひと口喉を通すと炭酸が弾け口の中に爽やかな香りが広がる。
「これは炭酸ですね。昔、火山帯の近くの井戸水がこのように喉をシュワシュワと……あら、どうしました?」
皆の瞳を集めている事に気が付いたメリリは逆に皆を見渡し口にする。
「缶ビールとも違うようだねぇ~それは美味しいのかい?」
「はい! 爽やかな口当たりで酸味が強く、喉がシュワシュワとして後味に若干の甘さを感じ、とても美味しいです~」
微笑みながらレモンハイの缶を両手に持ち顔の近くまで上げるメリリは、まるでCMの様であった。
「さっぱりとした味わいですので甘く匂いの強い果実とも相性が良いと思います」
そう言いながらクロがスライスしていたリンゴを一枚口にしてレモンハイを口にするメリリに、エルフェリーンとルビーが真っ先にクロの前に現れ笑顔を浮かべ、後にはロザリアとビスチェにアイリーンが並ぶ。ラルフはウイスキーが気に入ったようで自身で氷を魔法で作り出しガラスのグラスに入れて香りを楽しみ、白亜とキャロットはアルコールには興味がないのかジュース片手に果物を口にする。
「箱で出しますからみんなで分けて下さいね。ああ、師匠の氷を桶に出して下さい。そこに水を入れて缶を沈めますから」
アイテムボックスから大き目な桶を取り出し段ボール箱で魔力創造したレモンハイの缶を入れると、エルフェリーンが天魔の杖を取り出して氷を出現させ杖で軽く叩くと粉砕され、桶いっぱいに氷が降り注ぐ。
拍手が巻き起こり白亜はそれに合わせて鳴き声を上げ、キャロットは地面を尻尾で叩きリズムを作る。
「果実だけじゃアレだよな……何か簡単なおつまみでも作るか」
ある程度ドライフルーツのカゴをいっぱいにしたクロはBBQ用のコンロを取り出すと肉を焼き始め、テーブルで果実を食べていた面々はその香りに引き寄せられるように集まり、妖精たちも加わり本格的な宴会が始まる。
「今日は良き日ですな……」
「うん! ラルフもいるし、新しい仲間も加わって果物も豊作だよ~」
「そういってもらえると頑張った甲斐がありますな……」
「果実を採る時も巨大イナゴを退治する時も、手を貸してくれて助かったよ~」
「ははは、あれはクロ殿のお陰ですな……今日の酒や料理も……」
「そうだね~あの頃は誰も料理ができなくて困ることが多かったからね~あの頃にクロがいたらどれだけ助かったか……当時の仲間たちにも食べさせてやりたかったよ……」
「そうですな……これからは若い者たちを育て……おや、メリリ殿……」
「ぷはぁ~クロさま~このお酒は美味しいですよ~本当ですよ~えへへ~美味しいです~」
メリリの近くには空いた缶が散乱しメイド姿の下半身が大蛇へと変わり、蜷局を巻きながらレモンハイの缶を飲み干す姿が見て取れ片手で目を覆うラルフ。
「メリリはラミア族だったのか!? 真っ白い蛇皮が綺麗で凄いな~カッコイイな~」
目を輝かせるエルフェリーン。アイリーンも魔化すれば下半身が蜘蛛になり共感が持てたのか、魔化して蜘蛛の下半身を見せつける。
≪私は下半身が蜘蛛ですよ~何だか親近感が湧きますね~≫
こちらもお酒を飲み過ぎているのか若干フラ付く足取りでその場に座り込むが、レモンハイを飲むことは止めず、寧ろ飲み干している。
「何だかカオスだな……」
白いラミアのメイドは蜷局を巻きメトロノームのように左右に揺れながらレモンハイを飲み、アイリーンが蜘蛛の下半身で座り込み、妖精が酒を飲みフラフラと飛び交う中庭で、クロは呟きながらも肉を焼き続けるのだった。
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