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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第六章 大規模討伐と秋の足音
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メイドのいる日常 2



「ふぅ、お腹いっぱいです」


 メリリはお腹を摩りながらクロの入れた紅茶を飲み干すとテーブルに残るジャムを見つめる。


「キラービーの蜂蜜も美味しかったですが、他のジャムも大変美味しかったです」


 皆のトーストを焼いていたクロはまだ食事をしておりトーストの上にベーコンエッグを乗せ落ちないように気を付けながら口に運ぶ。


「そりゃ良かった。メリリさんも甘党なら紅茶にジャムや蜂蜜を入れても美味しいですよ」


「そ、そのような贅沢をしても良いのでしょうか……」


 そう言いながらも目ではハチミツとジャムをロックオンしており空になったカップへと視線を戻す。


「皿を片付けながら紅茶を入れて参りますが、クロさまはおかわり如何ですか?」


≪それなら私が入れてきますよ~≫


 アイリーンが先に立ち上がると皿を重ね動き出す。


「あ、あの、私も働かなければメイドとしての……光っていますね……」


 止めようとしたが薄っすらと輝くアイリーンに驚くメリリ。


「あれは浄化魔法ですね。トーストを食べるとどうしてもパン屑が落ちますからアイリーンが気を利かせてくれたのでしょう、って、こっちまで輝いてるな」


 アイリーンから薄っすらとした輝きが広がり屋敷中が輝くとテーブルの上に散乱していたパン屑や床に落ちていた抜け毛などが浄化され、メリリの大きな胸に乗っていたパン屑も消失する。


≪エリア浄化魔法です!≫


 皿を片付けながら文字を飛ばすアイリーンにメイドとして皿洗いを手伝おうとしていたメリリは顔を引き攣らせる。


 浄化魔法をエリアで使用するとは……これでは皿洗いを手伝う事も……いえ、家の中を掃除する事も……紅茶も入れて頂いているのに……メイドとしての存在意義が全くない……皿洗いや掃除に参加できなくとも他にもメイドとして活躍できることがあるはずです!


≪熱いので注意して下さいね~≫


 アイリーンの入れた紅茶が届き紅茶に合うだろうと思っていたブルーベリーのジャムを手にすると、スプーンですくい紅茶に入れ口にする。


「紅茶の香りにジャムの香りと甘さが加わり美味しいですね……」


≪私はリンゴのジャムを入れたかったのですが、≫


「それなら出すぞ」


 ジャムの瓶を複数手に取り悩んでいたアイリーンにクロが魔力創造でリンゴのジャムの瓶を作り出し、メリリはその光景に目を見開く。


「い、今のは……アイテムボックスとも違い、魔力でジャムを創造したのですか!?」


「ああ、俺のスキルです。作れる物には制限がありますが便利ですよね」


≪便利ですよね~ありがとうございます~≫


 リンゴのジャムの瓶を受け取り、お礼を文字にするアイリーン。


「俺としてはさっきの浄化魔法や糸で何でもできるアイリーンの方が便利だと思うがな」


 そう言いながらパンを口に入れ紅茶で流し込むクロ。


「お二人とも凄いです……魔力で皿洗いや掃除ができるアイリーンさま、魔力で甘味が作れるクロさま……どちらも素晴らしいです……これではメイドとして雇って頂いているのにする仕事がないのでは……」


 手にした紅茶へ視線を落とし若干落ち込みながら話すメリリにクロは口を開く。


「それなら洗濯かな。アイリーンが浄化魔法を掛けたものを干して下さい。あとは……」


≪お風呂掃除はキャロットさんの担当ですし、料理全般はクロ先輩が担当です。メイドさんらしい仕事は何かありますかね?≫


「あの、魔物討伐とか解体とか門番も得意です! どうか、どうか、ここに置いて下さい!」


 急に立ち上がり頭を下げるメリリ。手にした飲みかけの紅茶の存在を忘れていたのか残りを床にぶちまけ、あわあわする姿にポンコツという単語が頭を過るクロとアイリーン。


「師匠が雇った人を俺が解雇する権利はありませんし、メリリさんは美味しそうに食べてくれるので作り甲斐がありますよ」


≪私もメリリさんは話しやすいので、ここにいて欲しいです。浄化の光よ~≫


 床に溢した紅茶が浄化され顔を上げるメリリは薄っすらと涙が流れるが、それも浄化の光の影響下にあったのか光り浄化され急な眩しさに目を擦る。


「何でも手伝いますので声を掛けて下さいね!」


 ティーカップをテーブルに置き気合を入れるメリリ。


「それなら果樹園で果実の採取を手伝ってよ」


 先に食べ終わり歯を磨いていたビスチェが声を掛け「お任せ下さい!」と応じるメリリ。


「私も手伝うのだ!」


「キュウキュウ~」


 キャロットと白亜も参加したいのか両手を上げ大声で参加を希望する。


「ドライフルーツや酒造りをするから、あんまり食べ過ぎるなよ」


「わかっているのだ!」


「キュウキュウ~」


「うむ、我らも手伝おう」


「寝て食べているだけでは体が鈍るのじゃ」


 昨晩から宿泊しているラルフとロザリアも参加を表明し、クロは自身が使っていた皿とカップを片付けに動きながら、果実酒なら強い焼酎に角砂糖と一緒に漬け込むのもいいなと思案する。

 所謂、焼酎を使った果実酒作りであり梅酒などが代表的だろう。


 一行は動きやすい服に着替え果樹園へと向かっていると妖精たちが現れクロの頭や肩へと舞い降りる。


「クロ~灰をいっぱい撒いたよ~」


「クロ~蔓芋がウニウニしてるよ~」


「クロ~果実がいっぱいだよ~」


「クロ~蜂たちと遊ぼうよ~」


 クロに話し掛ける妖精たちに「蜂は怖いな……」と口にするクロ。


「何というか、クロは妖精たちに慕われておるのじゃ」


「オークの村でも子供たちとすぐに仲良くなっていましたな」


 『豊穣のスプーン』の二人が感心しながら妖精に話し掛けられるクロの様子を見つめ、横からアイリーンが文字を浮かせる。


≪オークの村や王都でも子供たちと仲が良さげでしたね。飴を配っているからかもしれませんよ≫


「クロの飴は美味しいよ~」


 文字を見た一匹の妖精がアイリーンの前に飛来し、手を前に出すとそこへ着地し笑顔を向ける。


≪私も妖精さんたちと仲良くしたいです~≫


「わーい!」


 文字を見たアイリーンの手に乗っていた一匹が両手を上げて喜ぶと、ワラワラとアイリーンのまわりに集まって来る妖精たち。


「アイリーンも友達~」


「クロと一緒~」


「アイリーンにも秘密のお酒を分けてあげるね~」


 頭や肩に乗る妖精たちにアイリーンは注意深く歩きながら果樹園へと到着する。多くの実のなる果樹園には妖精たちが果実を収穫しているがサイズが小さい事もあり消費する量もたかが知れており、気合を入れて作業に取り掛かる面々。


「葡萄酒を作るには十分な量がありそうだぜ~」


 葡萄の木には多くの赤黒い実がなりその粒も大きく、一粒味見をしたエルフェリーンは甘酸っぱい味に満足気な顔をする。


「白亜さまは皮むきが美味いのだ! 私も頑張るのだ! ギャー!?」


「キュウキュウ~」


 以前、クロから皮の剥き方を教わったグレープフルーツを得意げに剥く白亜。キャロットもマネするが勢い良く爪を立て果汁が目に入り悲鳴を上げ、近くにいたビスチェが水魔法を使い水球を浮かせキャロットへと近づけると急ぎ顔を荒い目を擦る。


「白亜との出会いを思い出すな……」


「キュウキュウ~」


 甘えた声を上げクロの胸に飛び込んでくる白亜を受け止めると懐かしみながら果実を見上げ、視界の隅に小さく映るワイバーン。


「げっ!? ワイバーンだ!」


 クロが声を上げた次の瞬間にはロザリアとメリリがレイピアとタルワールを構えるが、ビスチェのまわりに光が輝き精霊たちが騒めき「ワイバーンの首を落として!」と精霊魔法を発動する。


 風が駆け抜けこちらへ飛来していたワイバーンの首が一瞬にして刈り取られるとバランスを崩し真っ逆さまに墜落する。


「やはり精霊魔法は素晴らしいですな」


「うむ、少しぐらい出番があるかと思ったのじゃが……」


「私もメイドらしく剣を振るえると……」


 メリリの発言にメイドとは何なのだろうか、と思うクロはワイバーンを回収に走り出すのだった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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