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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第六章 大規模討伐と秋の足音
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メイドのいる日常



 メイドの朝は早い。


 誰よりも早く起き音を立てずに掃除を完了させ、主に新鮮な空気を吸わせるべく部屋の空気を換えて優しく起こすのである。




「メリリ! 早く起きなさい! 折角、クロが朝食を用意してくれたのよ! 早く起きないと貴女の朝食はその辺の雑草にするわよ!」


 メリリに宛がわれた部屋のドアをノックと程遠い威力で叩くビスチェ。その音と振動は下の部屋にも伝わりリビングテーブルに付きお腹を鳴らすキャロットと白亜は目の前に広がる料理に涎を垂らす。


「ふわわぁ……こんなに朝早くに朝食ですか……」


 大きな欠伸をしてドアから顔を出すメリリはまだ頭が起きていないようで、寝ていた姿のままビスチェの前に現れ眉を吊り上げる。


「半裸で出て来るな! 痴女! 変態! 無駄に胸を揺らすな!」


「えっ……あらあら、私ったら……」


 パジャマのボタンは止まっておらず大きな胸を揺らしながら部屋へと戻り着替えを始めるメリリに額を押さえて怒りを押し込むビスチェ。この間にもクロが作った料理が冷めると怒りのボルテージを上げていたのだ。


「お待たせしました~」


 メイド服に着替え終えたメリリだがビスチェが待っている訳もなく急ぎリビングへと向かう。


 そう一直線に……


 長い紺のスカートを押さえ二階からリビングに降り立つメリリに視線が集まり、朝食を食べ始めて者たちの視線を集める。


「お待たせしました~」


 再度、待たせたことを詫びる言葉と笑顔を向けるメリリにビスチェは青筋を立てて声を荒げる。


「お待たせしました~じゃないっ! 食事中に二階から飛び降りるなっ! 埃が立つ! 胸を揺らすな!」


 席から立ち上がり指差す先には揺れる胸があり殺意ある瞳を向けるビスチェ。ルビーとアイリーンも無言だがうんうんと顔を縦に振る。


「あれぐらい普通なのだ」


「キュウキュウ~」


 キャロットは二階から飛び降りてやってきた事なのか、大きな胸が揺れた事なのか、言及せず話すと白亜も鳴き声を上げ手にした食パンを口に入れる。


「あれが普通……これだからドラゴニュートは……」


「ドワーフには無理な芸当です……」


「アラクネ種は……いえ、私は……」


「うむ……我も胸は大きくないが……」


 食事の手を止めた貧乳ズ+ロザリアは自身の胸を押さえて軽く絶望するなか、クロが焼きたてのトーストとスープをテーブル置きメルルが座るだろう場所の椅子を引く。


「温かいうちにどうぞ。ジャムも色々な種類がありますし、お勧めはトーストの上にベーコンエッグを乗せて食べてみて下さい」


「うふふ、ありがとうございます」


 微笑みながら椅子に座るメリリはテーブルに並ぶジャムの瓶の多さに驚く。どれも見た事がないものばかりで、以前勤めていた貴族の屋敷でもジャムは高級品であり口にした事はなかったのだ。


≪イチゴ≫≪オレンジ≫≪ハチミツ≫≪ピーナツバター≫≪ブルーベリー≫


 と、アイリーンがショックから復帰し、ジャムの瓶の上に文字を浮かせる。


「これはアイリーンさま、ありがとうございます。こんなにも沢山の種類のジャムを見るのは初めてです」


「どれもクロが作ってくれたものだからね~お勧めはブルーベリーかな~ああ、ぱんの上にはマーガリンを塗ってからジャムを乗せるといいよ~あむあむ」


「マーガリンですか?」


≪植物由来の油ですね。少し塩気がありますからそのまま食べても美味しいですよ。あと、さまは要らないです。私もメリリさんと呼びますから≫


 ピーナツバターをこれでもかと塗ったトーストを口にするアイリーンからの文字に「では、アイリーンさんと呼ばせて頂きます」と微笑みながら口にし、トーストにマーガリンを塗るとブルーベリーのジャムを乗せ口にし表情を溶かす。


「これは美味しいですね~冒険者時代に美味しいものは多く食べてきた心算でしたが、これはキラービーの蜂蜜よりも口に合う気がします~」


「キラービーの蜂蜜もありますよ」


 ルビーが手にしていた蜂蜜の瓶を目の前に置かれ口をあんぐりと開けるメリリ。高価で甘いの代名詞であるキラービーの蜂蜜は市場に出回れば貴族がすぐに買い占めてしまい口にできるのはキラービーの討伐をした者たちだけである。それも危険が伴い命がけの討伐になるのだ。

 メリリもキラービーの討伐に参加し勝利を収めた事があるのだが、その時に数名の仲間を失っている事もあってか口にはしなかったのだ。


「キラービーの蜂蜜が……これは……」


「うん? これは契約しているから定期的に蜂蜜を分けてくれるんだぜ~妖精たちとも仲良くなったと聞いたから、来年にはもっと多くの蜂蜜が手に入るかもしれないねぇ。あむあむ」


「わ、私はとんでもない所に就職してしまったのかもしれませんね……」


 若干震える手でキラービーの蜂蜜を手に取ったメリリは新たなトーストにマーガリンを塗り蜂蜜を垂らす。


「ああ、これを取るために仲間を失いましたが……あむあむ……はい、美味しいっ! すっごく美味しい! これは仲間の一人や二人失う味です!」


 涙しながらキラービーの蜂蜜を塗ったトーストを口にするメリリ。


「パンやスープのおかわりもありますから言って下さいね~」


 クロがキッチンから叫びキラービーの蜂蜜の味に呆けながらも会釈するメリリ。ビスチェとアイリーンは大きく手を上げ「トーストをお願い!」≪私もトーストとあんこをお願いします≫と文字を飛ばす。


「はいよ~ん? あんこはとマニアックだな……小倉トーストとは名古屋人かよ」


 そう言いながらも魔力創造で缶詰のあんこを作り出し器に入れ替えてテーブルに運ぶクロ。


≪ありがとうございます~≫


「これは……泥ですか?」


 お礼の文字を飛ばすアイリーンが紅茶を吹き出しそうになるがメリリの発言に「泥はないだろ……」と声に出すクロはあんこの説明をすると、皆がトーストにマーガリンを塗りあんこに手を伸ばす。


「新しい甘味だね! 前に食べた饅頭の中身に似ているよ!」


「これはアリですね!」


「塩気と甘さにサクサクのパンが癖になるのだ!」


「キュウキュウ~」


「泥にしか見えませんでしたが豆を甘く煮るとは……あむあむ……これは!?」


 目を見開くメリリは急ぐように小倉トーストを食べ終え、新たなトーストにマーガリンを塗るがあんこは終わっており涙目でクロを見る。


 アイリーンと一緒に……


「ああ、新しいのを持ってくるよ。スープも美味しいから食べてくれよな」


 野菜多めなスープのおかわりの声がない事に少しだけ凹んでいたクロだったが、皆が和気藹々と食事を取る姿を見ながらメリリの歓迎会のメニューを考えるのだった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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