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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第一章 王家の試練
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釣りへ行こう



「ふわぁ~これは何と奥行きのある料理なのでしょう~エルフェリーンさまにビスチェさまはいつもこんなにも美味しい料理を食べているのですか。クロさまのお料理はとても美味しいです!」


 呪いを解呪した翌日には精神的にも落ち着き、クロの作った料理を口に運び驚きながらも表情を綻ばせ口にするハミル王女の姿があった。


「これはコーンスープという料理に、ニョッキと呼ばれるチーズを入れた料理に、ポテトサラダね」


「どれも胃に優しく消化のよい料理じゃないかな。君に早く治ってほしくてこのメニューにしたのだと思うよ。違うかいクロ」


「そりゃ、早く健康的な体系に育ってほしいからな」


 メニューを自慢げに紹介するビスチェとクロの本心と口にするエルフェリーン。痩せたハミルを見て高カロリーでも食べやすく消化の良さそうなメニューを提供するクロ。


「うう、ありがとうございます。ハミルはとても嬉しいです」


 天使の様な笑みを浮かべるハミルに対して、ビスチェは唇を尖らせながらもカテゴリー的には病人というハミルを思い、口を開く事はなくコーンスープを流し込む。


「おやつはロールケーキを出すからな。食休みが終わったら少し散歩でもして体力を付けるぞ」


「はい、今までは部屋から出るだけで怒られていましたから楽しみです!」


 生まれた当初から左手に呪いを受けていたハミルは食欲もあまりなく、十二歳にしては背が低く痩せており明らかに栄養が足りていない様子であり、クロはそれを気にして創造魔法を使い高カロリーでありながら栄養価の高く消化のよい料理を提供したのだ。

 食後に予定した散歩もハミルの体力作りを純粋に思い提案しているのだ。決して小さい女の子が好みという訳ではない。


「アイリーンも散歩に行くだろ?」


 話を振られたアイリーンはポテトサラダに夢中であったが、顔を上げ首を横に振る。


「何か予定でもあるのかしら?」


 コクコクと頷き地面に簡単な魚の絵を描き隣には釣り竿を描く。


「釣りに行くのかよ。多く釣ってきたら塩焼きでもカラアゲでもムニエルでも作るからな」


 コクコクと頭を下げるアイリーンに王女はキラキラとして瞳を向ける。


「アイリーンさまは漁師なのですね!」


 頭を傾げるアイリーンと他の者たち。魚を釣るという行為イコール漁師と連想したのだろう。


「ああ、アイリーンの魚釣りは漁師って訳じゃないぞ。趣味だな」


 肯定する様に頭を下げるアイリーン。


「私も釣りがしてみたいです! ダメでしょうか……」


「いいんじゃないか? 道具もあるし、結界を張っていれば問題ないだろ?」


「そうだね。好きな事をして体力をつけた方が楽しく体力づくりができるね。食後はみんなで釣り大会だぜ~」


 エルフェリーンの言葉にハミル王女は満面の笑みを浮かべて喜び、アイリーンも頭を上下にする。


「それなら勝負しましょう。最下位は一番多く釣ったひとにロールケーキを譲ること!」


 椅子から立ち上がり宣言するビスチェ。自身は最下位にならない自信があるようである。


「そ、それは……」


 あからさまに動揺するハミル王女。若干目が赤くなり数十秒後には涙が溢れ出す様な瞳をビスチェからクロへと向ける。


「意地悪いうなよ……みんなで食べたらいいだろうに……というかさ、ビスチェは釣りが得意なのかよ」


「釣りなんてやった事ないわ!」


 平らな胸を張り言い放つビスチェにハミル王女は表情を変えころころと笑いだす。


「ふふふ、ビスチェさまはとても面白いです」


「あら、私は何をやっても溢れる才能があるから釣りなんて余裕なだけ。きっと私の美貌につられた魚が集まってくるわね!」


「何だか魚釣りとつられたが一緒に聞こえて、言葉がごちゃごちゃしてるな……それよりも早く食べ終わろうな」


「わかってるわよ! あむあむ」


 皿に残ったポテトサラダを一気に口に入れるビスチェ。


「このモコモコしたチーズの絡んだ料理がとても美味しいです。あむっ」


「ニョッキだな。芋を蒸かして潰して成型した物を茹でてソースと絡めた料理だな。手間が掛かるけど美味しいよな」


「それなら僕はコロッケが食べたい! 同じ様に蒸かして作るのならコロッケが食べたいよ!」


「コロッケは油っぽいかと思ってニョッキにしました。ハミル王女さまがもう少し元気になったら作りますよ」


「それは嬉しいね。ハミルも覚悟しておくがいいよ」


「か、覚悟ですか?」


「あれはサクサクでハフハフで美味しいからね。クロの料理の中でも五本の指に入る美味しさだよ」


 エルフェリーンの言葉にパッと明るい表情を見せるハミル王女。取り分けた料理も残す事なく食べ終わった事を確認したクロは満足げに頷くのであった。





 食休みを終えた一行は近くの湖へとやって来るとエルフェリーンが結界を張り安全な場所を確保する。


 湖は広く澄んだ湖面にはまわりの景色が写り込み、一枚の絵画の様に美しい景色を映し出している。そよぐ風は心地良くビスチェのまわりには風の精霊たちが楽しそうに遊んでいるのか、時折キラキラとした光が神秘的に輝く。


「ふわぁ~綺麗な湖です!」


「ははは、ここは僕のお気に入りの場所だからね。でも、あまり騒ぐとお魚が逃げてしまうからしぃーだよ」


 人差し指で唇を押さえるエルフェリーンにハミル王女はしまったという表情を浮かべ急いで両手で口を塞ぐ。


「息はしていいからな。ん?」


 クロもハミル王女の仕草に笑いながら呼吸を進め湖畔に視線を戻すと三本の波筋が視界に入り目を凝らす。


「あっちの方が逃げ出しそうね……まったく……」


 ビスチェは呆れながら指差す湖面には波が立ち飛び上がり現れるマーメイド。キラキラと乱反射する水滴を纏った幼い少女のマーメイドがクロたちの前に姿を現わし、その横には大人の女性の色気を振り撒くマーメイドも二人ほど姿を現す。


「エルフェリーンさま!」


「お久しぶりです!」


「クロ! アメ頂戴!」


 飛び上がった少女のマーメイドが大きな声で叫び、クロは後頭部を掻きながら魚の天敵であるマーメイドの登場に苦笑いを浮かべる。


「今日は魚釣り大会なんだけどなぁ……久しぶりだね。元気そうで良かったよ」


エルフェリーンも魚が逃げただろうと思いながらも湖面に近づき三人の人魚へと挨拶を交わす。


「元気だけが取り柄ですから」


「お母さんもお姉ちゃんもお爺ちゃんもお父さんもみんな元気だよ~」


「クロクロ! お魚取って来るからアメと交換して~」


 岸近くの岩場に体を上げた三人の人魚にハミル王女は目を見開き驚きの表情を浮かべ、クロの裾をクイクイと引っ張る。


「あの、あの、お魚さんです……小さな声なら逃げませんか?」


「ああ、あれはマーメイドと呼ばれる種族で大声でも逃げないかな。挨拶してみる?」


「はい! マーメイドさん、私はハミル・フォン・ターベストです。宜しくお願いします」


 スカートを摘まみカーテシーで挨拶をするハミル王女に人魚たちも笑顔で手を振り自己紹介を返す。


「ツナだよ~」


「私がこの子たちの母のユッケです」


「ポキだよ! ハミルは貴族さまなの?」


 母に頭を撫でられながらハミルを興味深そうに見つめるマーメイド少女のポキ。


「いえ、貴族ではなく王族です。療養のためエルフェリーン様の元にお世話になっています」


「お姫様?」


「はい、お姫様です」


「すごーい! お姫様だ! お姫様だ!」


 少女同士の会話にほっこりとしながらもクロは、魔力創造のスキルを発動させアメを出現させると人魚たちの母親であるユッケに手渡す。


「少ないですがみなさんで分けて下さいね。それと包装紙はいつものようにまとめて、そこらに捨てない様にして下さいね。後でゴミは回収しますから」


「はい、クロさま。いつもありがとうございます」


「いえいえ、ご近所同士仲良くできっ!? 痛てーだろ!! いきなり尻を蹴るとはどういう事だ!」


 ユッケに微笑まれたクロのお尻にスパーンとローキックが入れたのはビスチェであり口を尖らせる。


「あんたがユッケママの胸を見てデレデレしているからでしょ! このスケベ! 変態! 浮き袋好き!」


「見てねーし! 見たとしてもあれだけ大きければ視界に入るっての! それよりも……みんな来たな……」


 釣り大会をはじめようと声に出そうとしたが、こちらに向かい波を立てて集まって来るマーメイドの大群が目に入り肩を落とすクロ。


「ふわぁ~マーメイドさんたちがいっぱい来ますよ!」


 釣り大会は中止になるのだった。





 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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