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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第六章 大規模討伐と秋の足音
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メイドの再就職とオークの王女



「はぁ~カニって美味しいのですねぇ~」


「うん……あのカニの味は忘れられないです……」


「暇ができたらまた海に行って、カニを取りに行こうぜ~」


 朝から巨大なカニを解凍して料理したのだが誰もが、その味の虜となり取り合うようにおかわりをしたのだ。巨大な事もあり繊維が太く、カニの身は麺のように食べられトマト缶を魔力創造で作り出したクロはトマトベースのソースとカニの麺を合わせたパスタを作ったのだ。すいとんの方も人気があり簡単にできて食べ応えがあるとオークの主婦たちからは大評判で「次から似たものを作るわ!」と声を揃えて言われたクロ。


「すいとんも美味しかったのだ!」


「そうですね。あの噛み心地は癖になります」


「それにしても、こんなに多くの灰を持って帰るのかよ……」


 一行は当初の目的通りにイナゴの灰を集めていた。クロが魔力創造で作り出したマスクを装備し箒を使い麻袋に集めていた。ビスチェなどのエルフたちは風魔法を使い灰を集めオーガが箒と塵取りを使い麻袋に詰め、サキュバスたちはクロが魔力創造で作り上げた東京タワーを魔化したドランが力いっぱい引きちぎりながら細かく砕き回収している。


「大変だけどこの灰は植物の生長を促すのよ! 出来るだけ多く持って帰るわよ!」


「うんうん、蔓芋も大きく甘くなるし、トレントも近くに撒けば喜ぶと思うよ~」


「それなら頑張らないとだね!」


「ああ、うちらの村を守ってくれているからな」


 ラライとナナイが住む村の近くにそびえるエルダートレントも植物の魔物という分類であり、地中から養分とマナを吸い上げ成長している。マナを多く含むイナゴの灰はトレントからしたら垂涎の一品だろう。


「イナゴといえばこっちでは昆虫の魔物を食べる文化はないのか?」


 その言葉に箒の手を止める女性たち。


「昆虫を食べるのですか!?」


 真っ先に驚きの声を上げたのはルビーであった。


「国によっては食べる文化があるぜ~イナゴは食べないと思うけど芋虫や蜂にカエルは食べるぜ~」


「そうなの!? 私も食べて見たい!」


「トカゲや蜘蛛にサソリなどは食べた事がありますが、普通のお肉の方が美味しいですよ~」


 ラライは興味を持ちナナイは実際に食べた事があると口にするが、ビスチェはドン引きであった。最後に話したのは箒を持つ姿が一番しっくりくるメリリあり微笑みを浮かべる。


「メリリはまた冒険者として働くのかい?」


「そうですね~貯えはそれなりにありますが……クロさまはメイドを募集しておりませんか?」


 急に話を振られ手を止めるクロはメリリへと視線を合わせ、白く美しい肌と赤い瞳に一瞬目を奪われるも灰をパンパンに入れた麻袋を縛りアイテムボックスに収納する。


「いえ、メイドの募集は……そういうのは師匠に……」


 若干頬を染めたクロにムッとするビスチェ。シャロンも手を動かしながら少しずつではあるがクロに近づき二人の間に入る。


「僕は雇ってもいいけど……」


「本当ですか!? それならお願いします! ひと月の給料は銀貨一枚でも二枚でもかまいませんのでお願いします!」


 深く頭を下げるメリリに怪訝そうな顔をするビスチェとシャロン。


「そんなに安くてもいいのかい?」


「はい! クロさまの料理は今まで食べたどの料理よりも美味しかったです! 一緒に飲んだお酒も美味しく理想の職場ですよ~」


「あははは、それはそうだね! 僕もクロの料理が大好きだよ~」


「料理もそうですがウイスキーは絶品です!」


「チョコも美味しかったです!」


≪私としてはお寿司がまた食べたいです~≫


 アイリーンの文字がクロの目の前に現れこちらに歩いてくる。アイリーンはドランが細かく砕いていた鉄骨を魔糸で裁断する作業をしていたのだが一区切りついたのか、それとも食べたい料理の話題に参加したかったのか姿を現す。


「お寿司も美味しかったわね!」


「生のお魚料理には驚きましたが、あれは思い出すだけで涎が……」


「どぶろくとも相性が良さそうだね!」


 口にした事のあるビスチェとルビーにエルフェリーンが特上寿司の味を思い出し顔を蕩けさせ、シャロンは生の魚という単語に驚くがそれを食べていない事に小さな嫉妬心が湧き上がる。


「生のお魚ですか……凍らせた料理なら食べた事がありますが……」


「へぇ~それは俺も食べて見たいな。ルイベだっけか? 魚を凍らせて保存して薄く切って刺身にして食べるのは知っているが、それに近いのですか?」


「うふふ、別に取って付けたような敬語でなくともかまいませんよ。普段通りでお願いします~これから長い付き合いになるかもしれませんし」


 微笑みを浮かべるメリリに一瞬ドキッとするクロだったが、視線を向けて来るシャロンの潤んだ瞳に気が付き声を掛ける。


「灰が目に入ったか? 目を洗った方がいいぞ」


 そう言いながらアイテムボックスのスキルで桶を取り出したところでハアハアしているビスチェとアイリーンの視線を受け苦笑いを浮かべる。


「頼むからは鼻息を荒くこっちを見るなよ……はぁ……どうせ見るなら水を魔法で出してくれ」


 一瞬だけクロを睨んだビスチェだが水魔法を発動し桶の中へと水の球を移動させる。


「ほら、これで目を洗うといい」


「は、はい……いや、僕は……はぁ……メリリさんが羨ましいです……」


 小声で漏らすように口にすると潤んでいた目を洗うシャロル。どうやらシャロルもメリルのようにエルフェリーンの経営する『草原の若葉』の一員になりたかったのだろう。


「よし! 気合を入れて灰を集めますね!」


 顔を洗ったシャロルが気合を入れ動き始めるのだった。






「エルフェリーンさまたちは大丈夫でしょうか……」


 執務がひと段落した王城の一室では広いテラスから東を見つめる王女の姿があった。傍にはメイドが控えておりその肩に優しく触れる。


「最果ての村に入る前に発見され、複数の神託も受けた案件です……イナゴとはいえ数が多いですがエルフェリーンさま方が後れを取る事はないと思われます。なんせ伝説の冒険者さまですから……それに『悪鬼と剛腕』やドラゴニュートさま方もご一緒に居られました。あのパーティーなら大国をも落とせるかと……ご安心下さい……」


「ええ、カリフェル閣下も自ら出陣なされました……この御恩は一生忘れる事がないようにしないとですね……」


「はい、今のこの国は尤も脆弱……それを必死に支える姫さまを思いカリフェルさまも動いて下さったのです。その期待に応える為にも少し休憩したら書類を……」


「そうですね……私が一国の王になるとは思いませんでしたが……書類との戦いがこんなにも大変だとは知りませんでした……」


「私もです……」


 二人は振り返りデスクに山になった書類を見上げ同時にため息を吐く。戦後五年ほど過ぎたがまだまだ復興の手が届いていない場所は多い。その予算や修繕費などの確認と承認をするのはトップである王女の務めだろう。


「こちらも大量の書類との戦いです! エルフェリーンさまたちは今も戦っているかもしれません! 私たちも死力を尽くしますよ!」


「はい……」


 王女は崩れ落ちそうなほど積み上がった書類に立ち向かうのであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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