早く起きた朝は朝食を作ろう
翌日、目を覚ましたクロは村の一角に設置されたテントから顔を出すと朝日が眩しく、遠目に見える結界のドームがキラキラと輝き神秘的な美しさに目を奪われながらも立ち上がる。
「よし、人数が多いから朝飯も頑張らないとだな……食材はあったかな……」
アイテムボックスのスキルを使い適当な食材を取り出すと下準備に入り、昨晩使っていた竈に火を入れて湯を沸かしカットした野菜を入れて行いるとオークの主婦たちがぞろぞろと集まり始める。
「昨日はご馳走さまだよ」
「あんなに美味いもんは初めて食べたよ」
「手伝える事があったら言っておくれ」
「ありがとうございます。それなら村の人たちの分も作りますから野菜を切ってもらってもいいですか」
「そりゃ構わないが……いいのかい? 村人の分まで作ったら手持ちの食糧が……」
オークの主婦が申し訳なさそうな顔をするなか、クロははアイテムボックスから追加の野菜や肉をテーブルに積み上げる。
「な、何だか凄い子だね……」
「そんなに多くの食材を入れているのかい……」
「イナゴ退治をしてくれただけでも大感謝なのに……」
「そのイナゴ退治も終わりましたから遠征用に用意した食材を使って朝食を作りましょう」
クロの言葉に腕まくりをしてナイフを手にするオークの主婦たち。すると大きな欠伸をしながらテントから現れたシャロンは料理をするクロを見つけ歩み寄る。
「ぼ、僕も手伝います!」
「おう、早いな。あんまり大きな声だとみんなが起きるから静かにな」
「は、はい……」
肩を竦めるシャロンに指示を出し、小麦粉に顆粒出汁と塩を入れぬるま湯を入れたものを鍋に入れ渡す。
「これをよく練ればいいんですね!」
「ああ、固まったら小さく平たい丸にしてくれ。それを煮てから鍋に入れるからな」
「はい、任せて下さい!」
「それと声は小さくな」
「はぃ……よしっ!」
小麦粉を混ぜ始めたシャロンはオーク主婦たちから少し離れた場所で力を入れ、その姿にうっとりと見つめる主婦たち。インキュバスの中でも中性的な美少年であるシャロンはオーク主婦たちからも魅力ある存在のようでチラチラと視線を向けが、集中しているのかその視線に気が付くことはなく捏ね続ける。
「こっちは根菜が煮えたら味を付けて、味噌味でいいかな~」
大鍋に入れた野菜が煮えたのを確認すると味噌を溶き入れるクロ。味噌の色味に驚くオークの主婦たちに味噌を説明しながら食べて問題がない調味料だと口にしたクロは一番に味見をして安全性を見せる。
「あら、美味しいわね」
「いつものスープよりも奥行きがあるわ……」
「味噌といったかしら……独特な風味で美味しいけど……豆を使ってこのような味が出せるとわね……」
味を見たオーク主婦たちにも受け入れられた所で、シャロンが矢印尻尾を振りながらクロの前に完成した物を持ってくる。
「クロさん! これでいいですか!」
鍋を覗き込みながら確認したクロはそれを茹でる為の大鍋に入れシャロンを労う。
「あとは浮いてきたら味噌味の鍋に入れて完成だな。あれだけの量を捏ねるのは大変だったろ」
「いえ……クロさんの手助けができて……嬉しいです……」
はにかみながら話すシャロンは頬を染めており、普段見せないインキュバスの照れた表情にオークの主婦たちもトキメキを思い出したのか連鎖して頬を染める。
「わぁ~変な匂い! でも美味しそう!」
昨日、村の入り口近くにいた少女が匂いに釣られ起きたのか大鍋の前で背伸びをして中を覗き込む。
「もう、この子ったら……昨晩の料理をクロさんが作ってくれてから、また唐揚げが食べたいって寝るまで言ってたのよ~」
「あ、あれは美味しかったもん! 今まで食べた料理の中で一番美味しかったもん!」
母親のエプロンを掴んで声を荒げる少女にクロは心の中でガッツポーズをして、アイテムボックスに入れてある飴の袋を取り出すとひとつ封を開ける。
「おお、そんなに美味しかったか。ならこれはどうだ? ほら、あ~ん」
「あぁーーーーーむ、あむあむ、甘い! お母さん! これ甘いよ!」
「これは飴といって果物を絞った汁と砂糖で作ったものだな。良ければ皆さんもどうぞ」
クロの言葉に目を見開き驚きの表情をするオーク主婦たち。オークの国は内陸にあり砂糖は超が付くほどの高級品である。それを適当にどうぞと進めるクロの存在に驚くのは無理もないだろう。
「そそそそ、そんな高価なもの……」
「ああ、砂糖は高価で……」
「それに見た事のない袋も……」
若干引かれている事を気にしてかシャロンに声を掛けるクロ。
「ほら、シャロンもどうだ?」
「はい、あぁーーーー」
上目遣いで口を開けるシャロンに仕方なしに封を開け口に飴を入れるクロ。ビスチェとアイリーンがこの場にいたら悶え喜んだだろう。
「あむあむ……美味しいですね! 果物の酸味もあって、あむあむ……」
「噛まずに舐めてる方が長く味わえるからな~」
「うん! おじちゃんありがとう!」
「次からはお兄さんと言ってくれると飴を二つあげるからな~」
「うん! お兄ちゃんありがとう!」
子供とは単純である。
「ほら、今度はブドウ味だ。あの、皆さんもどうぞ。まだまだ飴はいっぱいありますから」
そう言いながらアイテムボックスから飴の袋を取り差すクロに、オークの主婦のひとりが恐る恐る受け取り口に入れ表情を溶かし、連鎖的に他の主婦たちも飴を口に入れ表情を溶かす。
「ゴミは預かりますね~これは燃やすとあまり体によくないとか聞いた事があるので、えっと燃やさなければ問題ないですから毒を盛られたみたいな表情は止めて下さいよ……」
「いや、あははは」
「冗談だからね。甘くて美味しいよ」
「ああ、果物よりも甘く感じるね~」
そんな話をしているうちに浮いてきたものを鍋に入れ、すいとんを完成させるクロ。
「クロ殿、私も手伝います。次は何をなさいますか?」
起きてきたキャロライナは初めて見る料理の作り方が知りたいのか、すいとんの湯気を上げる鍋とクロを交互に見ながら声を掛ける。
「えっと、それなら醤油味のすいとんも作りましょうか。この量だとまだまだ少ないと思いますし、朝はしっかり食べないとですからね」
「そうですね! クロさんの料理は美味しいですから、皆さんおかわりをすると思います!」
「折角なら味を変えて塩味にして、少しこってりな味付けに……」
「それなら先日ゴブリンの村の近くの海で狩った大型のカニを凍らせてありますので使いませんか?」
「カニなら良い出汁がでますね! 玉子も入れてかに玉スープにして、」
「小麦粉を捏ねるのは任せて下さい!」
「野菜は私らが切るけど、カニって海の近くで取れるアレだろ?」
「そんな高価の物を頂いてもいいのかねぇ~」
「肉を分けて貰い、そんなに豪華な朝食……気後れしちまうよ……」
オークの主婦たちが遠慮がちになっているのはお構いなしに凍らせた巨大なカニが姿を現すとオークの少女は目を見開き驚く。そしてクロも見上げるほど大きなカニに数歩後退る。
「で、でかいな……」
「はい、マーマンさんたちも苦戦しておられたので、夫を盾にして仕留めました。カニは料理した事がなくクロ殿なら可能かと思い凍らせておきましたが……」
「できなくはないけど……解凍するところから始めないとだな……」
巨大な凍ったカニを前にスープではなく、そのまま焼いて食べた方が楽で美味い気がするクロなのであった。
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