打ち上げは村人と共に
酒瓶片手に出て来るオーガやエルフにサキュバスたち。その代表格がルビーでありウイスキーのボトルを手に持ちフラフラと歩きエルフェリーンの元へと向かうと「まあ、一杯どうぞ」と進める。
「どこに避難してるのかと思ったらクロの女神シールドの部屋にいたのか~ごっくん、ぷはぁ~」
「はい、中は広くて神聖な空気でしたが色々とお酒やお菓子が置いてありまして、先に打ち上げを……きっとクロさんや師匠がいれば問題ないと思い……ラルフさんもどうぞ~」
近くにいたラルフやロザリアにドランたちへとウイスキーを進めるルビーに、「酒を断っては男が廃りますなぁ」や「うむ、頂くのじゃ」や「おお、気が利くではないか」と表情を崩し受け取ると喉に流し込む酒飲みたち。
「打ち上げは報告してからの方が……」
そう声に出すクロだったが離れないシャロンがキラキラした瞳を向けて来る事と、腐った女性たちからの声にかき消され、小麦畑の端で飲み会が幕を開く。
「キュロットさま~こちらに白ワインがありますよ~」
「ナナイさま、どぶろくです!」
「カリフェルさま! この酒が一番飲みやすく香り高いです!」
オーガにエルフにサキュバスのトップである三人に酒を進めると、オーガらしく一気に喉に流し込むナナイ。キュロットは自分のペースがあるのかゆっくりと口を付け、カリフェルは白ワインを一口含み嬉しそうにシャロンへと視線を向ける。
「体を動かした後の酒は美味い!」
「それは同感ね! 久しぶりに本気で殴れたのは楽しかったけど……」
「あら、何か思い残した事でもあるのかしら?」
左手の拳を開いては握りを繰り返すキュロットはカリフェルに向け口を開く。
「殴ってもリアクションがないのがね~苦悶の表情なのかも解りづらかったわね。殴られた感をもっと出して欲しかったわ」
その言葉に顔を青ざめるエルフたち。カリフェルはお酒を吹き出しそうになるを堪えゆっくりと飲み込むとケラケラと笑い出す。
「あと、焦げ臭いわ……この辺り一帯が焼けたイナゴの香りなのも、ちょっとね……」
「うんうん、それは僕も思っていたよ~折角の打ち上げが台無しだよね~灰が飛ばないよう結界を張るから近くの村まで移動しようか」
エルフェリーンの言葉に座っていた者たちが立ち上がり近くに見える村へと歩みを進め、天魔の杖を掲げると半透明のドーム状の結界が広がり「これで灰が飛び散る事はないよ~」と嬉しそうな声を上げ待っていた『草原の若葉』たちと合流し、ゆっくりと歩きながら近くの村に足を進めるのだった。
「父ちゃん! あれ!」
「ああ、我々を助けてくれたお方だ……」
「おっきなイナゴを倒してくれたのかな?」
「地面から何やら生えて串刺しにして燃え上がっていたからな……皆、嬉しそうな表情をしているから倒してくれたのかもしれないぞ」
「あれ? 父ちゃん泣いてる?」
「えっ……ああ、本当だな……父ちゃんは泣いているのか……」
頬を伝う涙に気が付き右手で涙を拭いながら先頭を進むオーガのナナイに頭を下げるオークの父。小さな娘は父の後ろに隠れながらも一緒に頭を下げる。
「悪いが村の一角を借りられないか? イナゴは退治し終わったが、」
「ほ、本当ですか!? うおおおおおおおおおおお!」
「やったー!」
話の途中でイナゴ退治の報告を受けたオークの父は叫び声を上げ、娘も飛び跳ねながら喜びを表し、表情を崩すナナイ。他のオーガやエルフたちも微笑みを浮かべ喜ぶ親子にイナゴ討伐に参加した価値があったと誰もが達成感が湧き上がる。
「村に報告してきます!」
ナナイの話の途中であったが父親は娘を抱えて走り出し、それを笑顔で見つめるナナイ。後ろではキュロットが肩を上下させ笑い声を上げのだった。
「みんな、良く頑張ったね! かんぱーい!」
小さな村の一角を借りた一行はクロが魔力生成したウイスキーやアイテムボックスに入れ持って来た酒を持ち掲げ、重なる乾杯の声。
「どれほどお礼を言えば……うううぅ……イナゴが退治されたぞ~」
深い皺のあるこの村の村長が声を上げ村に住むオークたちも酒を持ち軽快に飲み干すと酒を注ぎ入れる村娘たち。
「アイリーンはこれをテーブルに、あとこっちはオークさんたちに頼む!」
≪わ~い! 唐揚げですね! あむあむ≫
ひとつを口に入れハフハフさせるアイリーンはクロが料理する大皿に山盛りのギガアリゲーターの唐揚げを両手に持ち運ぶとオーガやエルフから歓声が上がり、サキュバスたちは初めて見る料理に首を傾げるがひとつ口に入れると表情を溶かし、あっという間に姿を消す唐揚げの山。
「俺たちにもいいのか!?」
≪はい、イナゴ退治は我々にも利益のある事ですから~もしお礼が言いたいのならあそこで料理をしているクロ先輩に言って下さいね~≫
魔力で生成された文字を読み上げると村長が涙を流し子供たちが唐揚げの山に群がる。
「おおお、何と有り難い……この御恩はいつか、いつか……」
≪いえいえ、美味しい物はみんなで食べましょう~お酒も持ってきますね~≫
笑顔で手を振りながら去るアイリーンに頭を下げる村長と大人たち。子供は唐揚げを口にすると「美味しい!」と叫び、その声を耳にしたクロは笑顔で唐揚げを量産する。
その横ではキャロライナが同じくギガアリゲーターの肉を調理しており串に刺したブロック肉を焼き上げ薄く切り玉ねぎとセロリのような野菜を塩で和えソース代わりに使った料理が完成するとキャロットを呼び運ばせる。
「これも食べるのだ!」
オークたちのテーブルにドンと置かれた大皿に子供たちが歓声を上げ親たちも頭を下げながらお礼を口にする。
「子供も大人もいっぱい食べて大きくなるのだ!」
満足気に数度頷きながら去るキャロットに、村長が涙ながらに口にした唐揚げは少しだけしょっぱかった……
「クロさん! 美味しいです!」
「おう、まだまだ揚げるからいっぱい食べろよ!」
「はい!」
「キュウキュウ~」
唐揚げを口にしてキラキラとした尊敬の眼差しを向けるシャロンと尻尾を地面に叩き嬉しさと美味しさを表現する白亜。
他の者たちも「美味い美味い」と声を上げ酒を呷る姿に、クロは唐揚げを量産しながら肉と酒しかない事に思う所があり野菜の少なさを補うべく何か並行して作ろうかと考えていると、
「私らの料理も食べて下さい」
「田舎の料理が口に合えばいいのだけれど……」
「さっきの料理、本当に美味しかったです!」
オークの主婦たちが野菜を多く入れたスープを差し入れてくれ、クロは感謝しながら唐揚げの作り方を簡単に説明する。
「思ったよりも難しくないのかね」
「油の温度にだけ注意が必要ですね。あとは中が生じゃないように確認する事ぐらいですかね」
「うわぁ~こんなにいっぱいのお肉は久しぶりに見るよ~」
「そうだね~この辺りは荒野を抜けたら砂漠だからね~魔物も少ないからね~」
子供が下ごしらえをした唐揚げ用の肉の量に驚き、最果ての村と呼ばれるこの村の事情を耳にするクロ。
「それなら少し肉を置いていきましょうか? 食べきれないほどの肉が最近手に入ってしまって、それにアイリーンが毎日のように別の肉を獲って来るので溜まる方が多く……良かったら収穫祭の時にでもみんなで食べて下さい」
そう言いながらギガアリゲーターのブロック肉を数個取り出すクロに付いてきたオークの少女から歓声が上がり、申し訳なさそうな顔をするオークの主婦たち。
≪ふふふ、私はギガアリゲーターの肉よりも牛肉が食べたいです! もっと言えば牛丼が食べたいです!≫
そんな文字がクロの前に浮かび苦笑いを浮かべ、主婦たちは受け取ったブロック肉のお礼を言い塩漬けにして収穫祭に備えるのだった。
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