戦い終わって……
「こっちはどうにかなったけど……」
東京タワーに串刺しになった巨大イナゴが燃え尽き鉄骨は融解し、高さも三百三十三メートルから五分の一ほどの溶けた鉄に変化している。まだ熱を持っているのか近づけば鉄の軋む音と熱を感じ、近づく者はいないが物珍し気にまだ溶けていない鉄骨を見つめるキャロット。
「クロは凄いのだ! こんなに大きな物を一瞬で建てたのだ!」
母親であるキャロライナが魔化したドラゴンよりも大きな東京タワーが印象に残ったのだろう。
「そんなクロ殿が意識を失っておりますが大丈夫なのでしょうか?」
「うん? そりゃ大丈夫だよ~ビスチェが大げさに騒いでいるだけだし、白亜も涙を流して心配し過ぎだよ~」
≪そういうエルフェリーンさんも目が真っ赤ですよ~≫
「そりゃ……心配はするよ……僕の大事な弟子のひとりだからね……」
意識を失ったクロを陰から抱えて現れたロザリアは心配して急ぎ向ってきたビスチェとアイリーンからクロを強奪され苦笑いを浮かべていたが意識がない事に気が付いた二人。ビスチェは急いでエルフェリーンを大声で呼び、アイリーンは回復魔法の中でも高位のエクスヒールを連発した。
リュックから飛び出た白亜はクロのお腹に乗り涙を流しながら鳴き声を上げ、降りてきたエルフェリーンは駆け寄り脈や心音を確かめながら涙を流したのだ。
「カリフェルが冷静に鑑定をしてみてはと言ってくれて助かったよ……」
「あら、鑑定の有用性を散々語ったのは師匠ですからね。一緒に旅をしていた時は本当に羨ましかったですし、今でも国の運営に必要だと思いますもの」
大きな胸の下で腕を組むカリフェルが提案し意識のないクロを鑑定した結果、魂だけが天界に呼ばれている事が判明し胸を撫で下ろした一行。
アイリーンだけが≪脳だけが死んだ状態とかじゃないですよね!?≫と手足をバタつかせたが、エルフェリーンから「問題ないよ。僕もたまに夢の中で天界へ行く事もあるし」という言葉を貰い心底ホッとしたのである。
「そもそも、今回のイナゴの大繁殖には疑問も多くあるし、その辺りの事を説明されているのかもしれないね~イナゴが巨大化した事や集まり巨大化することなど長く生きているけど初めて見たよ~」
「まるでイナゴというよりは別の生物……スライム溜まりのようでしたわ……」
「そうだね。体こそイナゴだったけど瘴気のように黒く霧のように変化したから、何かしらの関係があるかもしれないね~」
巨大イナゴが燃え尽きた灰を見つめながら意見を言い合いながらもエルフェリーンは意識なく横たわるクロへと視線を向ける。
「キュウキュウ~」
横たわるクロの腹に乗り悲しそうになく白亜と、クロの頭を膝に乗せ目を赤く腫らすビスチェ。アイリーンも心配なのか横たわるクロの傍から離れようとはせず、チラチラと目を閉じるクロを何度も見ては手をもじもじと動かし頬を染める。
「水をぶっかけたら起きるのだ!」
ドヤ顔で仁王立ちするキャロットは東京タワーの残骸からクロへと視線を向け名案を言い放つが、ビスチェとアイリーンに白亜から殺意の籠った瞳を受け慌ててエルフェリーンの後ろへと退避した。
「こ、怖かったのだ……腹ペコの野生のドラゴンが獲物を見つけた時の目なのだ……」
ガクガクと震えるキャロットは自身の尻尾を抱き締める。
「それはキャロット、貴女が悪いわ。クロ殿はこの戦い最大の功労者。それを起こすのに水をぶっかけるという発想……はぁ……ビスチェさんやアイリーンさんのように淑女らしく見守る事はできないのかしらね……はぁ……」
盛大な溜息を二度吐くキャロライナ。
「それにしても、この鉄の塔は……」
「これほどの量の鉄を……ん? これは魔鉄? これ全部が魔鉄?」
「うむ……これだけの量の魔鉄を一瞬で生み出したという事か……」
「クロ殿の価値は計り知れませんな……ドワーフに見つかったらと思うと……」
ラルフにメリリとロザリアが東京タワーの残骸を見つめ、鉄だけでなく鉄と魔力が融合している魔鉄だと判断し、それが大量に生み出せるクロという人物に同情の視線を送るドラン。ドランたちドラゴニュートの鱗もドワーフたちから素材として見られる事が度々あり、ドラゴニュートはドワーフたちとはあまり仲が宜しくないのだ。
ここで魔鉄についてひとつ、魔鉄とは鉄に魔力が融合した鉱物でドワーフたち物作り職人からしたら是非とも使いたい素材のひとつである。ダンジョンなどから採掘されることもあるがその価値は高く、鉄の十倍以上の値で取引される。魔鉄と同じように魔力を宿した金属には魔銀などがある。
「事実が解れば、狙われるでしょうな……」
「これだけの魔鉄……下手したら城が立つのじゃ……」
「ここに置いて帰れば復興の役に立つでしょうが……」
「あら、それなら迷惑料としてサキュバニア帝国が持ち帰っても罰は当たりませんわよね?」
「あはははは、別に欲しければ誰にでもあげればいいと思うけど、クロならどうせ持って帰りたがらないと思うなぁ~」
カリフェルがオークの国に散々迷惑を掛けられた過去を思い出し持ち帰ろうと提案するとエルフェリーンは笑いながら許可を出す。
「きゃっ!?」
「グロぜんぱい!!」
「誰がグロ先輩だよ!? おお、白亜~心配してくれたのか~」
「キュルゥゥゥゥ~」
上半身を起こし白亜を抱き締めるクロに、膝枕していたビスチェは慌てて後ろへと後退すし、アイリーンも驚きと嬉しさからか口から声を珍しく発声する。
「ああ、そうだ。早くみんなを出さないとな」
そう言いながら避難させていたラライやシャロにルビーたちをいれた女神シールドを敷き詰めた空間を開け、白い渦に顔を入れると何やら出来上がっているオーガやエルフにサキュバスたち。
「クロさん!」
「先に打ち上げてますよ~」
「あははははは、これ美味しいよ~」
女神シールドが設置された空間で酒盛りやお菓子を食べているオーガやエルフにサキュバスたち。ルビーはウイスキーを瓶ごと口にしてテンションを上げており、フランとクランは白ワインを口にして頬を染め、ラライはポテチを口にしながら青のりを前歯に付け笑い、シャロンはクロが顔を出したすぐ近くにいた事もあり涙目で抱き着く。
「おいおい、それは実験用の……はぁ……まあいいか……実験用の食べ物や飲み物はまた用意すれば……それよりもシャロンはどうしたんだよ……」
首に抱き着くシャロンに声を掛けるクロ。
「いえ、心配していました……クロさんだけ残って戦っているかと思ったら……その……」
潤んだ瞳を向けて来るシャロンに困った表情をするクロ。事実、死に掛け、東京タワーの先を巨大イナゴに刺す事は大博打だったのだ。
「ああ、もう巨大イナゴは退治したからな。安心して外に出て来いよ」
シャロンを見つめるクロに一部の腐った女性たちからは黄色い悲鳴が上がり、シャロンの姉であるキュアーゼからは殺意の籠った視線を向けられる。
「はい……」
潤んだ瞳で肯定するシャロンはそのまま立ち上がりクロに抱き着いたまま外へと向かい、ビスチェやアイリーンを喜ばせる。
≪これは……熱い友情を越えた! 全米が泣く事案!≫
「あらあら、シャロンがあんなにも可愛い顔をして……うふふ……」
「クロさんとサキュバニア帝国の王子が……ふふふふふふふふ……」
カリフェルは母として同性愛を受け入れ、眼鏡メイドのメリリは何やらスキャンダルの匂いを嗅ぎ取り興味があるのか眼鏡を輝かせ口角を上げる。
「何か、もう疲れたし、ツッコミを入れる気力もないな……はぁ……」
クロのため息が盛大に漏れるのだった。
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