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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第六章 大規模討伐と秋の足音
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おお、死んでしまうとは情けない



≪下から攻撃が来ます! 注意というか、逃げて下さい!≫


 巨大イナゴの背へと拳を振り下ろしクレーターを深くしていたキュロットの目の前に文字が現れ、拳を収めると近くでタルワールの二刀流で振るうメリリの裏襟を掴み「風の精霊よ! 安全案所までお願い!」と叫ぶ。ふわりと風の妖精が体を包み込むと飛び上がり訳も分からず避難するキュロットに文句を言おうとするが、目の前に現れたソレに目を見開く。


「何あれ……赤と白が下から……」


「私にも解らないわね……何が起こっているのかしら……」


 巨大イナゴから離れる二人は安全圏まで離れると全容が見え、目を見開き口をあんぐりと開け驚愕の表情で固まるのだった。








 少し前、ロザリアに抱えられ全速力で進むクロは薄目を開けながら風の抵抗を受け口を一文字に閉じ耐えていた。


「この辺りを通るはすじゃ」


 巨大イナゴが羽ばたき飛行するだろう場所に急停止するロザリア。急停止した勢いを使いクロの腰に手を回し強制的に立たせるとフラフラとしながらも両足を踏ん張るクロは、アイテムボックスを立ち上げ魔力回復ポーションを三本取り出し一本を口に含み顔を歪めつつロザリアにも一本を渡す。


「ぷはぁ~まず……ロザリアさんも一本行って下さい」


「う、うむ……我はそれほど魔力を使っておらんが……それよりもどうする心算なのじゃ?」


 やんわりと拒否するロザリアだが、クロは強引に手渡され仕方なしに受け取りながらも話題を逸らす。


「ちょっとだけ無理をしますけど、上手くいけば巨大イナゴを食い止める事ができるかなと……」


 その言葉にクロから向かって来る巨大イナゴに視線を変えたロザリアは口を開く。


「あそこで戦っている者たちを退避させるべきではないのかの?」


「えっ……ああ、確かに! やばい! アイリーンに伝えられれば、みんなにも知らせる事ができるのに……」


「うむ、それなら我が念話で爺に伝えるのじゃ。爺よ! これからクロが下から攻撃をするのじゃ! 避難するように伝えて欲しいのじゃ! 急ぎじゃぞ!」


 念話といいながらも声に出して伝えるロザリアに、クロは微笑みを浮かべつつイメージを具体的にする為に一枚のチラシを魔力創造で作り出す。


「すぅ~はぁ~よし! 日本の技術力をこの世界に再現だな!」


 チラシを見つめながらイメージを浮かべ深呼吸をすると頭上に影が差し巨大なイナゴが通り掛かり、上を見上げたクロは魔力創造を使い出現する赤と白の鉄骨。


 瞬時に下から伸びるように出現し、多くの魔力が一気に失われ慌てて魔力回復ポーションを口に含み飲み込みながらも、新たなマジックポーションを手に取るクロ。


 くっ、魔力を大量に持って行かれるとは思ったが予想以上だ……早く魔力回復ポーションを飲まないと……意識が飛ぶ……貫け! 貫け! 「貫けぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


「なっ…………………………何という……無茶を……」


 その場で地面に尻を付ついたロザリアはあまりの驚きに予定していた影魔法を使い避難する事も忘れ天を見上げる。そこには赤と白の巨大な鉄塔が立っており、遥か高くに見える巨大なイナゴが串刺しになり悲鳴を上げる鉄骨。


「ははは、どうだ! 日本の電波塔に串刺しにされた気分は!」


 そう言いながら後ろにバランスを崩すクロは三本の魔力回復ポーションを飲み干した瓶が転がる大地に背中を預け意識を失う。


「クロ!?」


 慌てて駆け寄るロザリアは鉄骨の悲鳴を耳に入れ、影魔法を使いクロを大事に抱えると影の中へと逃れるのだった。







「な、何という……」


「巨大なイナゴが串刺しに……」


「あははははは、クロはやっぱり凄いよ! 自慢の弟子だね!」


「クロっ!?」


≪まさか、異世界に東京タワーを建てるとは……クロ先輩も無茶をしますね~って、鉄骨が悲鳴を上げていますよ!≫


 鉄骨が軋む音に一早く気が付いたビスチェとアイリーンは慌ててクロがいるだろう下へと視線を向け、魔力を目に集中させロザリアに救出され陰に沈む姿を目撃し安どの表情を浮かべながらも口を尖らせるビスチェ。アイリーンはホッと息を吐きながらもこれ以上飛び立たないように粘着質の糸を大量にイナゴと鉄塔に向け噴出し、アイリーンのとった行動で巨大イナゴの止めを刺すチャンス逃す者かとブレスを吐きつけるドラン。


「うん! このチャンスは逃せないね!」


 天魔の杖を掲げたエルフェリーンが詠唱に入り、竜巻が姿を現すと串刺しになったイナゴを包み込みドランの炎のブレスを巻き込み火炎旋風へと姿を変える。


≪これは強力な合体魔法ですね……≫


「ええ、鉄骨も溶けるでしょうが、熱伝導の高い鉄で内部からも熱せられるわ……」


 熱された鉄塔がゆっくりと背を低くしながら溶け始めるなか、巨大イナゴが苦悶の表情を上げ燃え続ける。地上に多くいたイナゴたちもキャロライナとキャロットがブレスで燃やし尽くしたのか、あちらこちらから煙が上がりイナゴ騒動が終息するのだった。







「で、何で俺が天界にいるのですか?」


 倒れたクロは目が覚めると目の前には女神ベステルがおり、腰に手を当て仁王立ちでクロを見下ろしていた。


「おお、死んでしまうとは情けない……」


「そういうのは勇者に言えよ……俺は巻き込まれただけの異世界人なんだからさ……」


 疲れたクロは女神ベステルの冗談に付き合う気がないのか、見慣れた女神ベステルの私室の座布団に体を起こして座り直す。


「あら、本当に死んだのよ。その証拠にほら、死神のシーちゃんがいるでしょ」


 女神ベステルが指差した部屋の端には大きな鎌を背負った黒いローブの女性がおり、深くフードを被って顔は見えないが死神という雰囲気を放っている。


「へっ……本当に俺は死んだのか……」


 死神から女神ベステルへ視線を変えたクロが呟くと満面の笑みを浮かべる女神ベステル。


「まったく、趣味の悪い……」


「そうですよ~シーちゃんまで呼んで騙すとかぁ趣味が悪いですよぉ~」


「これをドッキリというのだろう?」


 叡智の女神ウィキールと愛の女神フウリンに武具の女神フランベルジュが炬燵に腰を下ろしており、口を開きドッキリである事をやんわりと伝える。


「ふっふっふ、そう! ドッキリよ! ドッキリしたでしょう!」


「そりゃドッキリするだろ! さっきまでいた場所とは違うし、それが女神たちに囲まれていれば死んだかもとか思うだろ! 悪ふざけにしてもリアリティーがあり過ぎるんだよ!」


 クロの叫びに満足そうにうんうんと頷く女神ベステル。他の女神たちはクロへ同情の視線を向けるなか口を開く女神ベステル。


「もちろんドッキリをする為に呼んだ訳じゃないわ! クロは今、気を失っているから魂だけこっちに呼べたのよ。それに巨大イナゴを倒してくれたでしょ。ただ、こっちの世界に東京タワーを建てるのはどうかと思ったけど……」


 目を細め責める視線を送る女神ベステルに苦笑いを浮かべるクロ。


「それは現場の判断というか、悪ノリというか……それよりも、あの巨大イナゴは何だよ……異世界だとしても規格外過ぎるだろ……」


「あのイナゴは世界のバグよ! あの辺りには世界の亀裂があってマナが予定外に噴出した事と、五年前の戦争によって多くの負の感情が魔力と融合してあのイナゴを生み出したのよ……結局は勇者が魔王を倒し世界がある程度は平和になったけど、その尻拭いをしたのが貴方たちね……アイリーンは生まれ変わって世界を浄化したって事かしら?」


 言葉を重ねる女神ベステルにクロが訝し気な視線を向けると笑顔で微笑まれ口を開く。


「それに今回のイナゴ騒動で一番の原因は魂を集めきれなかった死神のシーちゃんが原因だからね~」


 その言葉に体をビクリと揺らす死神に視線を向けると、土下座の姿勢を躊躇なく取り頭を下げる姿に体を仰け反らせるクロ。


「えっと、その、何とかなりましたし、その姿勢は、ちょっと……」


「いえ、私が原因です……死者の魂を集めるのが仕事ですが、あまりにも多く……丁度その当時はフウちゃんに美味しいリンゴがあるからと誘われたり、こっそり味見をしようとソーマを試飲した心算が飲み干していたりしていまして……それもクロさんに送るソーマだったとか……あの、でも、フウちゃんは悪くないの! フウちゃんから誘われたけど、私が乗ったのが悪いから……」


 顔を上げチラチラと女神ベステルの顔色を確認する死神。


「ちょっ!? それじゃ私が犯人みたいじゃないですかっ!」


 席を立つ女神フウリンが声を荒げ、それを見たクロは面倒臭い事に巻き込まれたと思いながら女神同士の罵り合いを耳にするのだった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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