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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第六章 大規模討伐と秋の足音
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飛び立ったイナゴを迎え打つ



「わぁぁぁぁあっぁ」


「落ちる時ぐらい静かにして下さい!」


 巨大イナゴに弾かれた粘着質の糸に巻き込まれたキュロットとメリリが落下するが、ピタリと空中で静止する二人。アイリーンが気づき空間に固定させ地面への直撃を免れた二人は、粘着質の糸が解除されながらもゆっくりと地面に下ろされる。


「便利な糸だわ」


「そこに感動するのではなく、目の前のデカブツをどうにかしませんと」


 離陸を始めた巨大なイナゴを見上げる二人の視界にはマジックアローを討ち続けるビスチェの姿が視界に入り奥歯を噛み絞めるキュロット。メリリも対人戦や魔物狩りは得意でも規格外に大きな巨大イナゴを前に成す術がない。


「せめて体に取り付ければ……」


 悔しそうに巨大イナゴの影が通り過ぎるメリリに、キュロットが何やら思いついたのか平手に拳を軽く打ち付ける。


「風の精霊よ! 私と眼鏡をイナゴの上に運びなさい!」


 思い出したかのように精霊魔法を使うキュロット。すると体を風が包み込み浮き上がる二人。


「魔物退治で手を組む事が何度かあったけど、貴女も精霊魔法が使えたのね」


「ふんっ! 久しぶり過ぎて忘れていただけよ!」


 風に運ばれ上昇する二人はあっという間にイナゴの背に飛び乗り拳と武器を構えるが、そこはアイリーンの粘着糸が満遍なく付着しておりGホイホイのような足元に固定される二人は互いに顔を見合わせる。


「降りる場所を選ばなかったのはどうしてかしら?」


「それは精霊に言って欲しいわ! 私も動けないもの……」


「この靴高かったのに……」


 光沢のあるブーツを脱ぎ始めるメリリに「その手があったか!」と声を上げるキュロット。キュロットもまたブーツを脱ぐが巨大イナゴの揺れにバランスを崩し、「うぇっ!?」と声を上げた次の瞬間にはGホイホイの見本のような姿で粘着質の糸の上にうつ伏せで固定され、涙目でメリリを見つめるキュロット。


「貴女の娘は今も戦っているというのに昼寝ですか……」


 冷めた瞳を向けるメリリに自身が情けなく本気で泣きそうになるキュロットだった。







 キュロットを視界に入れたビスチェはマジックアローを連射で打ち続けながら叫ぶ。


「アイリーン! ママたちをお願い!」


≪任せて! すぐに糸を解除する!≫


 離れていても自信が魔力で作り出した糸を解除できるアイリーンはビスチェの目の前に文字を飛ばすとすぐに糸を解除し、落下する二人を伸縮性の強い糸に変え大地に降ろした。


「もう! ママったらこんな時ぐらい真面目に戦ってよね! 大地の精霊よ、我が声に応え、その意思を示せ! ストーンアロー」


 マジックアローから土属性を乗せた矢に切り替え巨大イナゴの頭部に魔法を討ち続けるビスチェ。一撃は弱いが数が多く発射されるそれは巨大イナゴの頭部を凹ませるほどである。が、飛び立つ勢いは落ちず上昇を続ける。


「ママっ!」


 アイリーンの糸が解除されたキュロットとメリリが精霊魔法で上昇する姿に思わず叫び声を上げる。しかし、イナゴの羽音にかき消され声が届くことはないが、援軍の登場にキュロットの強さを知るビスチェは巨大イナゴの進行を止める事ができると確信する。キュロットが本気の一撃を背中に加える事ができれば地面に落とす事も可能だろうとビスチェは思っているのだ。


 が、ビスチェの視界に映ったのは背中の上に着地したキュロットが粘着質の糸に絡まり動けなくなった姿であり、あまりの阿呆っぽさに口を開けたまま数秒固まる。


「ママに期待した私が馬鹿だったわ……」


 アイテムボックスから魔力回復ポーションを取り出し一気に飲み込むとその苦さに顔を歪めながらもマジックアローとストーンアローを両手で使い頭部を集中的に攻撃するビスチェ。少しでも顎が下がれば高度が落ちると考えたのだ。


 落ちろ! 落ちろ! 落ちろ! ここでイナゴを落とさないと、頑張った農民たちの稲が全部食べられちゃう! 絶対にここで落とさないと……クロだって後ろにいるのよ!


 焦るビスチェは振り向き最終望遠ラインにいるだろうクロとその後ろに広がる小麦畑を視界に入れるが人の姿はなく、ある意味ホッとするが高度を上げるイナゴと向き合い視線を強める。


「半端な風魔法じゃダメージが通らない……大きな岩を頭にぶつけるか、貫通力のある尖った石をぶつけるか……」


 ひとり呟くビスチェの後ろから強風が吹き荒れセミロングの髪が大きく煽られるが、風の精霊に守られている体はバランスを崩すことはなく振り向くと、魔化したドランの姿があり黄金に輝くエルフェリーンがその頭部で金色に輝くバスターソードの魔剣を握り締める。


「ビスチェ! 代わるよ!」


 そう口にしたエルフェリーンはドランから飛び降りると背と足から金色の翼が生え空を羽ばたき、本気の姿だと確信するビスチェ。ドランも瞳を向けすぐにブレスを吐ける態勢を取りながらエルフェリーンの本気を目に焼き付ける。


「こんなに大きなイナゴが満足するまで小麦を食べたら、民が食べる分がなくなっちゃうよ~」


 のんきな事を言いながらも上昇するイナゴの目の前で上段に構えた魔剣を振り下ろすエルフェリーン。


 金色の光が走り頭部を真直ぐ二分した輝きは巨大イナゴの頭部をあっさりと切り伏せる。が、上昇は止まらず慌てて避けるエルフェリーン。するとガクンと高度を急に下げるイナゴ。見れば巨大イナゴの背の上で腰を落としクレーターを作るキュロットの姿があり、更に数発背に拳を打ち付けガクリガクリと高度を落とすイナゴ。


「やるぅ~流石は現役エルフの長だね~それなら僕も、」


「エルフェリーンさま! 何やらクロ殿が何かするようです! ロザリアから念話が届き下からの攻撃に注意して欲しいと」


空を飛ぶエルフェリーンに叫ぶラルフ。背中にはサキュバスの羽で飛ぶカリフェルが後ろから抱き付き頬を染めるラルフ。


「えっ!? クロが何かするのかい?」


「はい、アイリーン殿には背の上で戦う二人に伝えるようお願いしましたが……クロ殿は下から何をするのでしょうか?」


 訝し気な顔をするラルフだが、背中の感触に戸惑っているのか男は年を取っても男なようで、意識が背に当たる大きな胸の感触に顔を赤らめる。


「うん、それならクロに任せよう!」


「任せるのですか!?」


 そう驚きの声を上げたのはラルフを後ろから抱き締め飛ぶカリフェルだった。


「うん! クロは僕の弟子だからね~弟子を信頼しない師匠は師匠じゃないよ~」


 それだけ言うとバスターソードの魔剣をアイテムボックスに仕舞い込み、入れ替わりに取り出した魔力回復ポーションを口に入れる顔を歪めるエルフェリーン。二人にも同じものを渡すと嫌な顔をしながらも飲み干す二人に笑顔を向ける。


「さあ、クロの雄姿をみんなで見ようじゃないか!」


 そう両手を広げ叫んだエルフェリーンはラルフからの「来ますぞ!」の声に瞬きも忘れ巨大イナゴを見つめるのだった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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