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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第六章 大規模討伐と秋の足音
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新たな巨大イナゴ



「くっ! 再生速度が上がっているのか!」


 巨大なイナゴの背の上で再生する羽と足への対応に追われるラルフ。切った傍から再生する巨大な足と羽を切り落とすがその速度は上がり、どうやら下で群がるイナゴたちが姿を黒い靄へと姿を変え羽や足へと吸収されている。


「飛び立つ前に首を落とすしかないか……」


 視線を巨大な頭部へと向けるラルフだったが、そうはさせまいと背を震わせる巨大イナゴ。一瞬バランスを崩すも、そこは歴戦の戦士であるラルフは体制を低くしながら堪え影魔術を発動させる。


 巨大な黒い鎌が出現し大きく振り下ろされた一撃は羽ばたこうとする巨大イナゴの頭を刈り取る。


「ふぅ……多少無理をしたが……やったのか……なっ!?」


 頭部を落とされた巨大イナゴは羽を動かし後ろ足を使い舞い上がる。


 それを視界に入れたエルフェリーンは竜巻を解除すると急ぎ大魔法の詠唱に入り、魔化したドラゴニュートたちは一斉にブレスを向ける。


「あのサイズを友が戦う場に落とさせる訳にはいかぬ!」


「キャロット! 最大で打ちなさい!」


「任せるのだ!」


 三本の炎のブレスが巨大イナゴを捉え炎に包まれる巨大イナゴ。ラルフは陰に入りその場を離れる炎には包まれる事なく地面から顔を出すと、体制を整えつつエルフェリーンの詠唱の時間を稼ぐべくその場へと向かう。


「お前たちは退避しな!」


「貴方たちもよ!」


「サキュバスも退避しなさい! 最終防衛ラインにまで下がってイナゴを討ちなさい!」


 オーガたちの長であるナナイが叫び、キュロットもエルフたちに向け叫び、サキュバニア帝国のトップであるカリフェルも指示を出すと三人は全力で巨大なイナゴの落下点を推測し走り出す。


 ここは私も何かしないとですね……さいわいイナゴたちは粘着力のある糸に引っ掛かってくれていますから……うん、あの巨大イナゴの時間稼ぎですね!


 空間に糸を飛ばすと、それを掴み飛翔しながら次の糸を飛ばして空を行くアイリーン。


「おいおい、馬鹿でかいイナゴが飛び立ったぞ……」


「あのサイズじゃどうしようもないですよ……」


「それこそ白夜さまでもいない限り対処は難しいです……」


「うむ……あれほど巨大な体で浮き上がること自体不自然なのじゃが……着地した場所がクレーターになるのじゃ……」


 クロたちの目にも巨大なイナゴが飛び上がり前進する姿を捉えるが、自分たちではどうする事も出来ないと絶望感にも似た空気が流れる。学校の校舎ほどの大きさの物が空から降って来ると考えれば理解できるだろうか。


「妖精たちよ! 最終防衛ラインで傷ついた者たちを癒しクロの指示に従いなさい! 私はエルフェリーンさまの元へ向かい少しでも手助けをしてきます!」


 妖精たちのリーダーの言葉に多くの妖精たちが後退するなか、エルフェリーンの大魔法が発動する。蔓の様な触手が地面から現れ巨大イナゴの足に絡みつき、そこへアイリーンの糸も加わると強固なロープのように触手と糸が巻き付き強度を増す。新たなブレスも三本加わり失った頭部の位置へ向かい炎に包まれる巨大イナゴ。


「あれなら!」


「うん、凄い火力! みんな頑張れ~」


「いくら大きくても内部から焼かれては、ひとたまりもないはずです……」


 ルビーにラライとシャロンがフラグ的な事を口にし苦笑いを浮かべるクロだったが、視線の先には先ほど急ぎエルフェリーンの元に向かった妖精のリーダーから発射された多くの錐の様な岩が降り注ぎ燃え上がる巨大なイナゴの背へと突き刺さって行く。


「こりゃ、本当に倒せそうだな……」


 クロもルビーたちと同様の感想を述べ、多くのオーガやエルフにサキュバスや妖精たちが最終防衛ラインに集まり崩れ落ちる巨大イナゴを見つめる。


「ん……これでケーキ食べ放題……」


 フランの声にルビーとラライが反応しニッカリとした笑顔をクロへと向けた時だった。


「おい、嘘だろ……」


 オーガの一人が最初に気が付き声を上げ、その視線の先には先ほどと同じサイズの新たな巨大イナゴが出現したのだ。


 嘘!? あそこは私が足止めをしていた場所……


 巨大イナゴが出現した場所はアイリーンが粘着質の糸を張っていた場所であり、そこには多くのイナゴが罠に掛かっていたのだ。それに気が付いたアイリーンは素早く移動するなか、次に動き出したのはキャロライナであった。


「貴方! 新しい巨大イナゴです! 貴方はエルフェリーンさまとそちらへ、私とキャロットはこれ以上巨大なイナゴが出現しないよう下を焼き払います!」


「任せるのだ!」


 素早く指示を出すとキャロットと共に足元で転がる生きたイナゴとイナゴの死骸に向けブレスを放出し炭化させる。


「これ以上は近づけないね……」


「あの炎に巻き込まれては肺が焼かれるわ。それよりも新しく出てきたイナゴを何とかしないと……ビスチェ!」


 精霊魔法で空を飛ぶビスチェが巨大イナゴに向け多くのマジックアローを打ち出す姿に大きな声を上げる母親のキュロット。横でナナイとメイド姿のメリリが無言で頷き合うと力を入れて体を捻り遠くへと槍を投げるような体制を取るナナイ。


「フルパワーで投げて下さい!」


 メリリがふわりと浮くようにナナイの拳に足を乗せ、「ふんっ!」と気合の入った声をと共に放り投げられ空を行くメリリ。


「私も!」


「任せろ!」


 それを見たキュロットがナナイに向け声を掛け、次の瞬間には「任せろ!」の言葉と共に空へと投げ飛ばされるキュロット。この時、冷静な判断ができればキュロット自身が魔術なり精霊魔法なりで空を飛ぶ事ができたのだが、先を行くメリリの行動に一早く娘と共に戦いたいという気持ちがナナイの腕力で飛んで追いつくという方法を取らせたのだろう。


 上空から巨大なイナゴの頭部をマジックアローで攻撃するビスチェ。それに追いつけと現れたアイリーンは素早く糸を張り巡らし巨大な羽の動きを封じようと動く。が、その力は凄まじく魔力で生成された糸が羽に張り付くも止まる事はない。追加で放出した糸も風の力で明後日の方向へと飛び去り、運悪くその糸に絡め捕られるキュロットとメリリ。仲良く落下し、それを見たナナイが後頭部を掻きながら一言「すまん」と呟く。


「おいおい、マジかよ……さっきと同じ巨大なイナゴが現れたが……」


「飛びますよ!」


「わ~あんなに大きいのに高く飛び跳ねた!」


「うむ、あれだけのサイズ……落下点にいたらまずいのじゃ……」


「お前ら! 急いでこの中に入れ! この中は別の空間になっているから助かるはずだ! 急いで入ってくれ!」


 ロザリアの言葉を受けクロは女神シールドを敷き詰めた特別な空間を開くと白い渦が生まれ、近くにいるオーガやエルフにサキュバスや妖精たちに叫び、ウキウキと緊迫感のないラライが入った事でルビーやシャロンが入り、妖精やオーガやサキュバスたちが続き、エルフたちも渋々であったが中へと入る。


「ロザリアさんも!」


「うむ、我はいつでも陰に入れるから大丈夫なのじゃ。それよりもクロが入るがよい」


 冷静に高く飛び上がった巨大イナゴを見つめるロザリアにクロが叫ぶも避難を拒否されてはどうしようもないと思い、女神の空間を閉じるクロ。


「クロも早く非難するのじゃ」


「ひ、非難よりもあの巨大イナゴがどこまで飛ぶかの方が、この先の村にでも着地したら大惨事ですから、やれる事はやってみようかと……」


「うむ、その心がけは素晴らしいのじゃが、声が震えておるぞ」


「そりゃ、怖いですよ……あんなに大きなイナゴが落ちたら衝撃波が……そっか! おしなきゃいいんだよな……う~ん……」


「何か手があるのかの?」


 真剣な瞳を向けるロザリアにクロは口を開く。


「刺されば落ちてこないと思うが……耐久力が足りるかどうか……」


「それなら我が力になるから、どうにかするのじゃ!」


 腕を組み考えていたクロがロザリアへと視線を合わせると静かに頷き、二人で空を飛び上がり羽を動かす巨大イナゴへと視線を向けるのだった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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