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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第六章 大規模討伐と秋の足音
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助っ人の活躍



「きりがないのだ!」


 キャロットがブレスを吐き終えると近くのイナゴを踏み潰しながら愚痴を叫び、キャロライナに「頑張りなさい!」と声援とお叱りの入り混じった言葉を貰う。


 確かにきりがないですね……足の踏み場もないほどイナゴを足止めしながら退治していますが……まだまだこちらに向かって来ていますよ……


 八つの視線に入るイナゴを糸と白薔薇の庭園で切り伏せながら確認するアイリーン。


「おお、ラルフが魔術を使うよ!」


 天魔の杖を掲げたまま叫ぶエルフェリーンにドランはブレスを一時中断して視線を向ける。


「おお、でかいイナゴの足が落ちましたな。どれ、気合を入れてわしも、すぅぅぅぅぅ」


 大きく息を吸い込んで胸を膨らませるドランに、エルフェリーンは角に掴まり揺れる頭部から落ちないように踏ん張りながらラルフの戦い方を視界に入れる。


「生意気にもエルフェリーンさまの前で任せて下さいと言ったのだ。それなりの働きはしないとですな……ふんっ!」


 巨大なイナゴに取り付いたラルフは得意の影魔術を使い足の関節に狙いを定め、鎌の様な一撃が放たれるとゆっくりとずれ落ちる巨大な足。巨木を切り倒したかのような地響きと砂煙が起こり、これで二本ある長い後ろ足が切断され飛び跳ねる事は不可能だろう。


 物理的にいえば巨大なイナゴのサイズにあの細い脚で飛び跳ねる事など出来そうもないが、ここは異世界であり魔法や精霊が住む世界である。地球では不可能な事も日常的に起きる……


「なっ!? 切り落とした足が……」


 驚きの声を上げるラルフの視界にはゆっくりとだが再生される巨大な両足が視界に入り、苦笑いを浮かべながらも次の影魔術を発動させイナゴの背を走る。が、恐ろしい事に背中の巨大な羽が広がり高速で上下する光景に首から羽へとターゲットを変える。


「これを飛ばしてはどれだけの犠牲者が出るか……シャドーエッジ!」


 鎌が踊り羽の付け根へ黒い一撃が走り羽を根元から両断する。


「ふははは、足と羽を交互に切断し続けか……根気勝負になりそうですな……ふんっ!」


 切り落とした羽の付け根からは黒いもやの様なものが上がり再生される羽を視界に入れながら長期戦を、巨大イナゴをこの場に止める事を選ぶラルフ。次々と影魔術を発動し再生される足と羽を切り落とすのだった。








「くっ、流石に数が多いわね!」


 イナゴにヤクザキックを入れ吹き飛ばしたキュロットが憂さ晴らしをするように大声を上げる。


「そりゃ同意見だっ! 無駄に硬いから手が痺れてきやがった」


 くの字に曲がった鋼鉄の棒の両端を持ち直すナナイの前に数匹の群れで飛来するイナゴ。だが次の瞬間には斬撃が走り崩れ落ちるイナゴたち。


「久しぶりに冒険者らしい仕事をしてみれば懐かしい連中がいますが……衰えた姿にがっかりですねぇ。『悪鬼と剛腕』がこれほど力を失っていたとは……」


 戦場には似つかわしくないメイド服に赤い目が印象的な眼鏡の女性が手にしたタルワールと呼ばれる湾曲した剣を両手に持ち二人を見据えながらも辺りを警戒し、新たに飛んできたイナゴを踊るように切り伏せる。


「冒険者を辞めて貴族のメイドになったと耳にした時は驚いたけど……」


「ああ、だから似合わないメイド服を着ているかい!」


「ふんっ、あなた達より先に幸せになろうとしたのに……人身売買組織と繋がっていたのよ! 立派な伯爵だと思って仕えていたのにっ! ラルフさまから話を聞いて私が泣く泣く捕縛して連合国軍へ引き渡したわ……」


 眼鏡のメイドは元冒険者でメリリといい、両手に持ったタルワールから双月と呼ばれ、伯爵にスカウトされメイドに就いていたのだが、先日、闇ギルドを追う同郷のラルフから伯爵を調べた書類を受け取り自らの手で断罪したのだ。


「それはお気の毒だったわね! いつもすまし顔のあんたが悔しい顔をするのを見れただけでも元気が出たわ! ふんっ!」


「双月がメイドになっただけでも驚きだが、その様子だと未だに独身みたいだねっ!」


 キュロットとナナイが話しながら近くに着地したイナゴを殴り屠る。


「独身……ええそうよ! 独身よ! 伯爵さまに誘われてこれからはメイドとして幸せを掴もうとしたけど、与えられた仕事は門番って! 門番って! 私はもっと支給をしながらイケメンの貴族との情熱的な恋愛を望んだのにっ! 望んだのにっ! ああ~今思い返すと伯爵は私を見る目が怯えていたなぁ~はぁ……」


 踊るようにタルワールを振り続けるメリリ。イナゴがバラバラと切り裂かれ多くのイナゴが死骸に変わり頼もしい援軍の力に、引退した元冒険者の二人は今後独身の事は触れないでおこうと心に誓うのだった。









「うむ、こっちは問題ないようじゃが……」


 地面に張り付く陰から顔を出したロザリアは赤い瞳を向けクロたちが殺虫スプレーでイナゴを退治する姿を見つめながら出て行くタイミングを窺うが、「うおっ!?」と先にクロと視線が合い驚かれ渋々姿を現す。


「ビックリした……地面から生首が生えて来たかと思った……」


「ロザリアさん! お久しぶりです!」


「あれは……豊穣のスプーン……」


 クロが驚き、ルビーが嬉しそうに駆け寄り、シャロンは面識があるのか冒険者チーム名を口にする。


「うむ、手助けに来たのじゃが……その毒? が、有効なようじゃな」


 三人が手にした殺虫スプレーに視線を向けるロザリアはクロから手渡され、あらゆる角度から確認する。


「これは殺虫スプレーというもので虫を殺す事に特化した毒ですかね?」


「なぜ疑問形で話すのじゃ?」


「いや~詳しくは解らないので……魔力創造で作った物の中でも仕事でよく手に持っていたからか作れたので試したら効果が抜群でした。虫を殺す事に特化した毒だと思うのですが、大量に吸い込むと人体にも影響があるかもしれませんから注意して下さい」


「うむ……我にはこれがあるからの。これは返そう」


 クロに殺虫スプレーを返したロザリアは腰に差したレイピアを抜き放つと向かって来るイナゴへと向かい走り出す。


「クロさんたちは『豊穣のスプーン』ともお知り合いなのですね」


 シャロンの言葉に頷くクロ。ルビーは得意げな顔で口を開く。


「ダンジョンでご一緒して人質の救出をしました! ロザリアさんと同じチームを組むラルフさんとは兄妹弟子の関係です!」


 ドヤ顔で魔道槌を構えるルビー。遠くではロザリアのレイピアが唸りを上げ風を切り裂きイナゴを屠る。


「Aランクの『豊穣のスプーン』が加わればイナゴ退治も捗りそうですね」


 微笑みを浮かべるシャロンにクロは「そうだといいが……」と声を漏らし、遠くに見える巨大なイナゴを見つめるのであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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