王女様の来訪
「ただいま~やっと帰って来られたよ! 今の王家は本当にどうしようもないね! 三人の王妃から生まれた子供たちの半数が呪われていたよ……呪われていないのは第二王妃の子供たちでね、犯人がまる解りだったよ。
宰相に証拠も一緒に提出し呪い返しをしたら第二王妃は体中に呪いの影響が出て寝込んじゃったよ。第一王子はビックリする事に白でね、ただ付いている近衛が真っ黒だった。そこは王さまが断罪したし、関与した貴族はお取り潰し……はぁ……純魔族が関わっていたのは第二王子だけだったけど、この子がね……挨拶できるかな」
早口で腐敗している王家の説明したエルフェリーンは一緒に連れてきた痩せた少女に挨拶をするように促し、空いている席へ腰を降ろす。
「は、はじめまして、第三王妃の娘であり、ダリルお兄さまの妹でハミルと申します」
右手でスカートを摘まみ、頭を下げるカーテシーで挨拶をする小さな王女さま。クロとビスチェも自己紹介をし、アイリーンは片手を上げてクロが紹介した。したのだが、右手一本でスカートを摘まんだ事に違和感を覚えるクロ。
「何か甘い物でも出してくれないかな。それ目当てでハミルを連れてきたんだ」
「そうです! お兄さまとメイドたちが自慢したのです! あんなに美味しい物を食べられたのはクロの兄貴のおかげだーっていうのです! 私も食べてみたいです! お願いします」
ペコリと頭を下げるハミルにクロは魔力創造でコンビニに売っているイチゴショートを生み出すと封を開けエルフェリーンの前に置き、空いている席に置くとハミル王女へと視線を向ける。
「どうぞこちらの席へ御付き下さい。椅子が少し高い様でしたら手をお貸しします」
執事の様な姿勢と言葉使いで小さなプリンセスに対応するとパッと明るい表情を浮かべる。
「左手があまり動かないので手を貸して下さい」
少し恥ずかしそうにいうハミル王女に「失礼します」と声をかけると、お姫様だっこで持ち上げ椅子に腰を降ろさせる。
「ありがとです。あの、あの、食べてもいいですか?」
「もちろんです」
「ふわぁぁぁ、あむあむ、ふわぁぁぁ……あむあむ……美味しいです! お兄さまが言っていた様に美味しいです!」
満面の笑みを浮かべるハミル王女。エルフェリーンもイチゴショートを口にして表情を溶かし、溜まっているストレスを発散していた。
「ねぇねぇ、あの白いのとパフェはどっちが美味しいのかしら?」
パフェを食べ終えたビスチェはギラギラした瞳でクロへ話し掛け、同じ様に両手を上げて祈る仕草をするアイリーンにため息を吐きながらも、もう二つイチゴショートを魔力創造し提供する。
「これも美味しいわね!」
「はい、こんなに美味しい物ははじめて食べました!」
「うんうん、クロの生み出すお菓子は想像の遥か上を行くね!」
「ギギギ」
三人と一匹の女性たちはその味に満足したのか笑顔を浮かべる。
「あの、王女様の左手は治らないのですか?」
エルフェリーンへ気になった事を口にするクロ。
「ああ、治るけど少し時間が掛かるかな。生まれたばかりの時からずっと呪いの影響を受けていてね。特に酷いのが左腕だ……必ず戻してあげるからね」
クロからハミル王女へと視線を変えたエルフェリーンは決意するように言葉にする。
「ありがとうございます……この手のせいで色々な人に迷惑をかけてしまいます……」
ケーキを食べる手が止まり俯くハミル王女。
「よかったな。俺の師匠が付いているのなら確実に治るからな! 時間が掛かるらしいけど、その間は三時のおやつは期待していいからな!」
「えっ、あっ、はい……三時のおやつ?」
三時のおやつという習慣がないハミル王女は首を傾げる。
「三時には今日みたいな美味しいおやつと呼ばれる間食を用意するから、食べて欲しいって事だな。明日もおやつを食べてくれるか?」
「うん! クロ! ありがとう!」
元気いっぱいに応えるハミル王女。
「今日からは浄化能力のあるお風呂に入れて、聖水に近い性能を持つ水を飲んで貰うよ。特に苦いとか痛いとかもないからね」
「はい、エルフェリーンさまの言う事を確りと聞く様にお兄さまから言われています。私にできる事は何でもしますので宜しくお願いします」
ハミル王女はエルフェリーンへ向け頭を下げると薄ら涙しており頬を伝いはじめると……光がハミル王女を包み込む。
「これって聖属性の浄化魔法……」
「なっ!? 何でアイリーンが浄化魔法うぉっ!?」
ビスチェとエルフェリーンが驚くのも無理はない。女郎蜘蛛の魔物に転生したアイリーンから聖属性の魔法が放たれたのだ。それも聖属性の中でも最上位の浄化魔法であるホーリーレイと呼ばれる魔術で、先日エルフェリーンが放ったホーリーフレアが物理的に浄化する天界の炎とは違い、女神の力を借りた浄化魔法であり光りが闇を消し去る様に人体や自然をまったく傷つけない浄化魔法である。
この技が使える者を聖女と呼ぶのはもちろんだが、歴代の聖女の中でも使えた者は片手に収まる人数であり、エルフェリーンですら使う事が出来ない高等聖魔術である。
「ギギギギギギギ」
光が晴れると同時に話し始めたアイリーンは蜘蛛の体で立ち上がり腰に手を当て、ない前髪を掻き上げながらドヤ顔を浮かべる。
「ま、眩しかったです……」
「おいおい、両手で目を隠していたのかよ」
クロの指摘に動かないはずの左手が視界に入ったハミル王女は驚き目を見開く。
「あれ、あれ? 手が目の前に上がって……動きます……動きます……うぇ~ん」
突然の事に泣き出したハミル王女に聖女認定されてもおかしくない蜘蛛の魔物であるアイリーンは、多くある足をばたつかせ取り乱す。
「よかったな。もう治ったみたいだな」
「はいぃぃぃぃぃ、よかったでずぅうぅぅぅぅぅぅ」
泣きながら目を擦るその左手は確りと動いており、長年使っていなかったはずなのに優しく目を擦る事ができている現状に、この場にいた誰もが心底安心するのだった。
「ひっく、ひっく、うわぁ~~~~ん。腕が治ったら明日からのおやつが食べられないです~~~」
泣き止みそうになったが再度勢いを取り戻した鳴き声の後には本音が漏れ、一同はもう大丈夫だろうと思いながらも、図太い神経をしている王女だという認識へと変わるのだった。
「予定では一週間はこっちで療養する予定だったからね。第二王子が自ら迎えに来るともいっていたよ。まさか着て早々に長年の呪いが消え失せるとは思わなかったが……」
「ギギギギ」
「薪に書きなさいよ。ギギギじゃわからないわ」
ビスチェの言葉を受け、薪を拾い前足で削るアイリーン。
『ホーリーレイは対アンデット最強の奥義。勇者召喚の時に覚えた必殺技』
薪に書かれた言葉を見たビスチェとクロはそんな設定あったなと思いながらもよくやったと声をかける。
「あれ? そうなると勇者だった時に使えた魔術は今も使えるのかな?」
コクコクと頭を何度も下げるアイリーンに新しい玩具でも見つけたかのような瞳を向けるエルフェリーン。
「それは実験のし甲斐があるね! 糸以外にも抜けがらや……色々と珍しい聖属性の素材が取れるかもしれないね!」
その言葉を耳に入れた瞬間に後ろへ飛び退くと、木を集め糸で接着したアイリーンと書かれた表札のある巣へと逃げ込みドアを閉める。
「ありゃ? 冗談なのに~」
そう言いながらも頭の隅では魔物が聖属性の魔術を使う事への興味がふつふつと湧き、興味がある視線をアイリーンの巣へと向けるエルフェリーンであった。
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