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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第六章 大規模討伐と秋の足音
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イナゴ退治



「よ~し、作戦通りにキャロットは右から、キャロライナは左から、ドランは正面からブレスで一気に焼き上げるよ!」


 ドランの頭の上から大きな声でエルフェリーンが叫ぶと、キャロットとキャロライナは命令通りに旋回し定位置に付くと深く息を吸い込みブレスを吐く姿勢を取る。


≪ドラゴンに乗ったままブレスを吐く瞬間が見られるとか、ゲーム好きにはたまらないシチュエーションです!≫


 魔化したドランの頭の上にはエルフェリーンとアイリーンが角にしがみ付き、空を黒く染めていたイナゴの群れを視界に捉えると火炎放射の様なブレスが左右から襲い、最後にはドランの胸が膨れ上がり轟音と共に放出される高火力のブレス。


 場所が荒野という事もあり気兼ねなくブレスを吐き続ける三体の魔化したドラゴニュート。多くのイナゴが燃え尽きながらも爆風で吹き飛ばされたイナゴはまだ生きており羽音を高め飛ぼうとするが、エルフェリーンが天魔の杖を掲げながら詠唱に入る。


「風の精霊よ、大地の精霊よ、契約者の声を聴け。荒れ狂う風は高く昇り、大地はうねりを上げて立ち昇れ、風と大地は共に刃となり荒れ狂う力を見せつけよ! トルネードウォール!」


 エルフェリーンの掲げた天魔の杖から光がほとばしると発光する二つの光が現れ直進し、燃え上がっていた炎が揺らぎ始め風が吹き抜け集まり渦を巻く。と、同時に大地には小さな亀裂が入り、そこから小さな赤い石や太陽光を乱反射させるメタリックな石が浮き上がり、風の力で誘われるように流され天へ昇って行く。


≪凄い! これがエルフェリーンさまの本気!≫


 アイリーンがエルフェリーンの視界に入るように文字を空間に固定させると、微笑みを浮かべたままその姿は金色に輝き、普段の少女姿から大人のエルフェリーンへと姿を変える。


≪綺麗です……≫


 思わず呟くアイリーンにエルフェリーンは口を開く。


「ほら、見ていないでアイリーンも強度のある糸を適当な鉄の塊に付けておくれよ。そうすれば威力が抜群に上がるはずだよ」


 エルフェリーンの言葉を受けアイリーンは普段は閉じている六つの瞳を開くと小さな竜巻へと変化しイナゴを浮かせ始めた所へ向け糸を放出する。一本一本はさほど長くはないが竜巻により上昇した鉄の原石に張り付くとナイフのような切れ味を発揮した。遠心力と鉄による重量とナイフのような糸の威力は凄まじく、竜巻が大きくなり吸い上げられたイナゴはミキサーの中のナッツのようにバラバラに粉砕されている。


「これは恐ろしいな……わしはドラゴンのように強靭な鱗を持っているが、近づきたくないのう……」


 目の前で粉砕されるイナゴを見て素直に恐怖するドラン。恐らくドランがその竜巻に飲まれればイナゴと同様の結果に終わるのだと自身でも理解しているのだろう。


「うんうん、予想よりも多くのイナゴが巻き込まれているよ! それに威力も申し分ないね! 白夜と戦う事になったらこれを使うのもアリかもね!」


≪白夜さんは白亜ちゃんのお母さんですよね? 戦うのですか?≫


 目の前に浮かぶ文字にエルフェリーンは笑い声を上げながら首を横に振る。


「そりゃ、戦いたくはないさ~でも、古龍エンシェントドラゴンは気まぐれな所があるからね~いざとなったら戦わないとだろ?」


≪それは確かに……≫


「常に最善を選ぶ事は難しいけど備える事はできるからね~今回のイナゴの騒動も発見が早いから僕らが動くことができたんだ。数十年に一度のペースでイナゴが大発生して飢饉が訪れる……戦後間もない豚の国に大量のイナゴが入れば国として崩壊する可能性が高いからね……」


 真剣な瞳でゆっくりと前に進む竜巻を見つめるエルフェリーン。イナゴの数は減っているが半分も減らせてはいないだろう。後続に続くイナゴたちは竜巻を恐れているのか進路を南寄りに変え進み始める。


「では、予定通りに私が抑えに回ります」


「ああ、くれぐれも油断しないようにね~」


 そう言葉を残し翼を動かすキャロライナは進路を変えたイナゴの正面へと回り込むと大きく胸を膨らませた。










「思っていたよりも固まって移動しないのな」


「そうですね……大きな竜巻が現れた時は驚きましたが、あれは師匠の魔法ですよね……」


「ああ、竜巻を起こす魔法に硬い石を地下から呼び起こして内部でイナゴを粉砕しているんだと思うぞ。見ているとキラキラ光るだろ」


「あの竜巻には絶対に巻き込まれたくないですね……」


「キュウキュウ……」


「エルフェリーンさまは凄いね! あんなに大きな竜巻を魔法で作り出すなんて凄過ぎて凄いしか言えないよ!」


 離れた小麦畑の端でシールドを張りながら最終防衛ラインとしての任務に就くクロとルビーにラライは目に魔力を集中させ、エルフェリーンとドランにキャロライナとキャロットの戦う姿を見つめていた。


「アイリーンの糸も使ってそうだな……」


「イナゴが向きを変えているのかキャロライナさんが動きを変えましたよ」


「おおおおお、凄いブレス!」


「キュウキュウ!!」


 進路を変えたイナゴに対して轟音が響き渡り先ほどよりも強力な炎のブレスが放出され大地をオレンジ色に染め上げる。


「あれが本来のドラゴンなんだよな……人間が太刀打ちできると思えないな……」


「そうですね……冒険者をしていた時はドラゴン殺しとか噂で聞きましたが、目の前の光景を見ると嘘だと確信を持って言えますね……」


「ドラゴンが出たら逃げるんだよ! ドラゴンの鱗は固いし、ブレスは強力だし、何よりも怖いんだから! 味方ならお母さんぐらい頼もしいよ! もちろんクロも頼もしいから!」


 ラライが声を上げキラキラとした瞳をクロへと向ける。以前、オーガの村が襲われた時に虫の魔物から助けられた事が忘れられないのだろう。


「ナナイさんたちオーガは左側の打ち漏らしを叩くと言っていたが、げっ!? 本当に叩いて倒しているな……」


「分厚い鉄の棒で力任せに叩いていますね……」


 自身の身長ほどはある鋼鉄製の平たい棒でイナゴを殴り潰すナナイ。魔化したオーガは背中と腕が膨れ上がりマッチョが逃げ出すほど筋肉を膨張させ力いっぱい鉄の棒で振り下ろす一撃は固い甲殻を持とうが一撃で粉砕されるだろう。事実、イナゴも一撃で粉砕され地面には小さなクレーターが出来上がる。そんな光景がそこかしこで起こりイナゴは確実に数を減らしている。


「お母さんも頑張れ~」


「キュウキュウ~」


 ナナイの応援に合わせ白亜も鳴き声を上げる。


「そろそろ私としてもパワーアップしたこの槌を使ってみたいのですが」


 ルビーの手には長い柄のついた槌が握られ、ハンマー部分には魔石が複数取り付けられ黒光りする槌には金色の筋が柄まで伸びている。これは魔力の通り道であり何らかの魔剣に似た効果があるのだろう。


「俺としてはそれを使わない方が嬉しいがな……このまま何事もなく終わった方が嬉しいよ……」


「それはそうですが……おお、あっちではビスチェさんとキュロットさんが力を合わせていますよ! クランさんとフランさんも魔法で戦っていますよ!」


 オーガとは反対側を任されているエルフたちは竜巻とブレスから逃れたイナゴを各個撃破している。ビスチェは精霊魔法を使い複数のイナゴの首を落とし、フランとクランは土魔法で拳大の石を打ち出して体を狙い確実に仕留めて行く。

 キュロットは手に精霊を宿しているのかキラキラとした光を纏わせ、イナゴを素手で殴り頭を粉砕しては次のイナゴへと襲い掛かる。


「キュロットさんはエルフとは思えない戦い方だな……」


「オーガよりもオーガらしい戦い方な気がしますが……」


「ママよりも力があるかも……」


 三名と一匹が見守るなか順調に数を減らすイナゴたち。半数ほどが減ったが、まだまだ戦いは続きそうである。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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