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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第六章 大規模討伐と秋の足音
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円卓会議と最果ての村



「それでは話し合った通りにエルフェリーン様方は第一線を宜しくお願い致します。大変危険な任務になりますが、どうかお気を付けて下さい」


「うん、任せてよ! こっちはエルフにオーガの精鋭にドラゴニュートもいるからね。小さな国ぐらいなら落とせる戦力だと自負しているよ!」


 円卓を囲み宣言するエルフェリーンに冷や汗を流す聖騎士たち。事実、エルフェリーンは一つの国を滅ぼしているのだから冷や汗も仕方のない事だろう。


「これほど頼もしい援軍はありませんな……この国が良き方向へ向かうのを願います……」


 宰相であるオークの老人の言葉に頷く王女とその家臣たち。


 そこへノックが響き目を赤く染めたライナーが現れ、クロたちが会議室へと入るとその視線はアイリーンへと向く。


「紹介が送れたね。クロとアイリーンに白亜だよ。クロは僕の弟子で、アイリーンは世界初のアラクネ種と呼ばれる新たな亜人種だ! クロには第一次防衛ラインを、アイリーンは僕と一緒にイナゴ狩りだよ! 二人とも無理せず命を大事にだぜ~」


「あれがアラクネ種……」


「人族と変わらないように見えるが……」


「腰の武器が気になるねぇ~」


 オークや聖騎士たちから漏れる声にアイリーンは魔力で生成した文字を浮かばせ頭を下げる。


≪どうも、世界初のアラクネ種であるアイリーンです。これでもエルフェリーンさまの元で狩人として活躍していますので宜しくお願い致します≫


 宙に浮かぶ文字にざわめきが起こり頭を上げるアイリーン。


「エルフェリーンさまの森はあの凶悪な魔物が多くいる……」


「あの森で狩りをするとか……」


「死の森や魔の森と呼ばれる危険地帯で活躍する狩人……」


 何やら物騒な単語が飛び交う中、次にクロが口を開くと更に驚きの声が大きくなる。


「えっと、クロです。勇者召喚に巻き込まれた被害者です。ああ、それと背中の古龍エンシェントドラゴンは白亜。白夜さんの子供ですから変な気を起こさないで下さいね」


 その言葉に集まっていた聖騎士たちは口をあんぐりと開け目を見開き、オークたちはその場に膝を付く。


「勇者召喚……」


 宰相が小さく呟き、王女の頬を伝う涙。


「勇者様……父を討っていただき、ありがとうございます……暴走する父を……」


 泣き崩れるように膝を付いた王女は嗚咽交じりの言葉を送り、ビクリと体を震わせるアイリーン。それに気が付いたのかライナーがアイリーンの手を握り視線を合わせ無言で頷き、微笑みを浮かべるアイリーン。


「あの、自分は勇者じゃなくて巻き込まれた者で、一切戦争とは関係ないですからね。戦争当時も薬草を潰す作業を、」


「ゴリゴリ係ね!」


 ビスチェの声が会議室に木霊し肩を震わせるルビーや事象を知る者たち。


「ゴリゴリ係として薬草を潰していましたから関係はほぼないです。頭を上げて下さい」


 クロの言葉に頭を上げる王女とオークたち。その表情は心底ホッとしたようで、ゆっくりと立ち上がり椅子に戻る者や警備を再開する。


「そうですか……勇者様ではないのですね……」


「はい、巻き込まれただけですから」


 立ち上がった王女は涙を拭い笑顔を浮かべ胸を撫で下ろすクロだったが、今度は聖騎士たちがそれぞれに頭を下げる。


「クロ殿! 申し訳なかった!」


「我々の国の勇者召喚に巻き込まれたのだな……」


「許してくれとは言わないが……すまない事をした……」


 会議に参加していた聖騎士たちが立ち上がり頭を下げ、その後ろに付き従っていた聖騎士たちが慌てて頭を下げる。隣にいたヨシムナやライナーも慌てて頭を下げ驚くクロとアイリーン。


「あっ、いえ、あの、確かにダンジョンで転移の罠に嵌りましたが、そのお陰で師匠たちに出会えましたし、今の自分があると思いますので、その、何というか、ありがとうございます」


 そのクロの返しにキョトンとする聖騎士たち。まさかお礼を言われるとは思ってみおらず一瞬思考が停止する。


「あははははは、クロらしいね! お礼を言うとは思わなかったが、僕は嬉しいぜ~クロと出会えた事は僕の記憶の中でも五本の指に入る出来事だからね~」


「ふん! 当り前じゃない! クロはこれからもゴリゴリ係として私たちと頑張るんだからね!」


「キュウキュウ~」


「私もクロさんには感謝していますし、出会えた事に感謝していますよ! ウイスキーは最高です!」


「クロの料理は美味しいのだ!」


≪皆さんに愛されていますねぇ~このこの~≫


 横で肘をクイクイと突いてくるアイリーンにウザさを感じつつ口を開くクロ。


「今は気にしていませんから……感謝は違うかもしれませんが、恨んでいるとかは本当にないです。今の生活が楽しいですし、みんなで食事をしたり薪割をしたり空を眺めていると、あっちの世界より生きているという実感があって、本当に楽しいです。ですから、イナゴ討伐をみんなで頑張りましょう」


 クロの吐露した言葉にエルフェリーンは笑顔を向け、いつの間にか立ち上がっていたビスチェは仁王立ちでドヤ顔を浮かべ、ルビーは何度も頷き、キャロットはリュックに入れた白亜を撫で、アイリーンは横にいたライナーに小声で話しながら笑顔を向ける。


「愛理の仲間が良い奴で良かったよ」


≪クロ先輩はとってもいい人ですよ~≫


 互いに笑顔を浮かべる二人。聖騎士団たちも顔を上げ、これから始まるイナゴ討伐に向け気合を入れるのだった。











「父ちゃん! あっちの空が黒いよ! 嵐が来るよ!」


 少女が指差す先には昼間だというのに黒い空が広がり、まだ遠く見えるそれは少女の目には不気味に映った。


「ありゃ、雲にしちゃあ変だ……雨が降る時は爺さん膝が痛いっていうだろ。それにほら、こっちの雲は北に流れて……」


「うん……あの黒い雲は他の雲と違う方向に動いてるね……」


 流れる雲とは違う動きをする黒い雲を不思議そうな顔で見つめる親子。二人は黄金に輝く小麦畑に立ち収穫の時を待つ小麦の様子を見に来ていたのだ。


「た、大変だ! イナゴだ! イナゴの大群だ! 避難しろ! 避難命令だ!」


 畑にいた親子はあぜ道を馬に乗り走り抜ける兵士の声にぞっとする。収穫間近まで育てた小麦がイナゴの大群に食い尽くされる事を知っているのだ。


「イナゴは何も残さない……」


 少女が呟くと父親は顔を歪める。その言葉は村の老人たちが苦悶の表情で口にする経験談であり、膝を痛めた祖父がよく口にするのだ。イナゴは小麦を食い荒らし、作物を食い荒らし、建物を崩壊させ、通った道には緑のない大地になると……


「どうしよう!」


 少女の叫びに父親は膝から崩れ落ちる。


「ど、どうしようもない……あと少し……あと少しで収穫時期なのに……すべて食い尽くされて終わりだ……」


 絶望する父親に少女の頬を伝う涙。


「ど、ドラゴンだ! ドラゴンが空をっ!?」


 近くで同じように小麦の様子を見に来ていた隣の家の農夫が空を見上げ叫び二人も空を見上げると、オレンジ色のドラゴンが三体空を飛びイナゴの群れへと突き進む姿が目に入る。


「あんなに低くドラゴンが飛ぶなんて……」


「父ちゃん! ドラゴンがイナゴを全部食べてくれるかな?」


「そうだといいな……だが、ドラゴンでもイナゴは固くて食えたものじゃないぞ」


「それでも食べて、食べ尽くして欲しいよ!」


 飛び去ったドラゴンを見つめる少女。すると耳障りな羽音が聞こえ目の前に茶色に輝くメタリックな硬い胴体が見え悲鳴を上げる。


「ひぃぃぃ、イナゴ!?」


 体長が男の腕ほどはあるそのイナゴを筆頭に数匹のイナゴが近くに降り立ち、男は手に持っていた草刈り用の鎌を振り下ろす。が、まるで鉄でも叩いたかのように弾き返されイナゴは根元から小麦を口にし続ける。


「お、終わりだ……終わりだ……」


「父ちゃん!」


 力なく崩れ落ちる農夫に少女は大声で叫びを上げると、小麦を食べていたイナゴに影が走り頭と胴体が離れ、それは他のイナゴも同様に真っ二つに切り離された。


「えっ!?」


 この日、何度目かの悲鳴を上げる少女。


「うむ、イナゴと聞き様子を見に来てみれば収穫間近であったのじゃな」


「丹精込め作った小麦……少しでもイナゴを減らしておくべきだな……」


「微力ながらお手伝いさせて頂きますね」


 颯爽と現れた赤いドレスの少女と、シルクハットの執事風の老人に、眼鏡をしたメイド服の女性。


「えっ!?」


 少女が一瞬目にした数秒後にはその姿は消え失せ、あちらこちらで影が走りイナゴが二等分され、それを見た農夫たちが悲鳴を上げるのだった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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