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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第六章 大規模討伐と秋の足音
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旧友との再会



 豚の国の王女自らが頭を下げ城へと案内する道中、クロは再会したヨシムナと話しながら復興中の大通りを歩く。


「偉大なエルフェリーンさまの弟子になるとか……はぁ……心配して損したよ……」


「ありがとな……俺もダンジョンで転移の罠から別のダンジョンへ移動するとか思わなかったし、あれは何度も死にかけた……ヨシムナから聖王国の死者ダンジョンで色々と教わっていなかったら今頃は天国だったよ。剣の使い方やダンジョンでの注意事項に水の大切さ……」


「そりゃ、クロの実力と運だろ。俺が教えたのは本当に基本的な事だからな……」


 涙は止まったが赤い目を擦りながら嬉しそうに話すヨシムナに、クロも若干赤い目をしながら再会の喜びと感謝の言葉を口にする。


「そういや、クロは何で残ったんだ? 勇者さまたちは全員帰っただろ」


 ヨシムナはずっと気になっていた事を口にするとエルフェリーンを含めた『草原の若葉』たちが足を止め、復興状況を話しながら足を進めていた王女も足を止める。


「ん? ああ、俺が勇者じゃなかったからだな。向こうの世界でやらなきゃならない事とかもなかったし、何よりも……って、何でみんなでこっちを見てるんだよ……そんなに見られたら言い辛いだろ……はぁ……その事はまた後で話すよ」


「おう、そうだな……それにしてもクロはエルフェリーンさまたちに慕われているんだな!」


 ヨシムナの言葉に無言で顔を上下に振る『草原の若葉』たちとラライにシャロン。ビスチェだけは急に明後日の方向を向き口笛を吹く。


「キュウキュウ~」


 背負ったリュックから顔を出した白亜が嬉しそうに鳴き声を上げキャロットが口を開く。


「そうなのだ! クロは凄いのだ! クロの料理は美味しいのだ!」


 その言葉にオーガやエルフたちは笑い出し、『草原の若葉』たちも笑い声を上げる。


「なあ、クロさん……ひとつ聞いたもいいかな?」


 和やかな雰囲気に包まれた事もあり話し掛けやすくなった空気のなか口を開くライナー。


「ん? 何だ?」


「勇者様たちとは最後に会ったんだよな?」


「ああ、女神さまたちの前で会ったよ。この世界に残るか真剣に悩んでいたな」


「そっか……愛理さまは、勇者さまがたは最後に何か言っていたか?」


「最後に?」


 勇者召喚された勇者たちが天界で女神ベステルの力により日本へ帰還された当時を思い出していると、


「キャッ!? 何っ! 何この子!?」


 アイリーンがライナーに抱き着き涙を流しはじめる。アイリーンが愛理だった頃、愛理たちの面倒を見てくれたのがライナーであり、そのライナーから愛理という自身の前の名を呼ばれ我慢していた感情が爆発し、涙を流しながら抱き着いてしまったのだ。


「ううううう……」


 普段は声を出さないアイリーンが嗚咽交じりに涙を流す姿に、クロは後頭部を掻きながら「参ったな……」と呟き言い訳を考える。


「ちょっと、この子は何なんだい……不思議と懐かしさを感じるけど……あれ……何で涙が……」


 アイリーンの涙に触発されたか、それとも愛理と魂が感じ取ったのか、涙を流すライナー。


「えっと、その、あとで事情を話しますので、アイリーンもそれでいいか?」


 コクリと頭を下げるアイリーンに涙を流しながら、こちらも「参ったな……」と口にするライナー。


「こほん! あの、そろそろお城に向かっても宜しいでしょうか?」


 豚の国の王女が口を開き移動を再開するのだった。










「愛理なのか? 本当に愛理なのか!」


 城の一室を借りアイリーンとライナーは抱き合い涙を流す。それを見守るのはクロとヨシムナ。他の者たちはイナゴ対策会議に参加しこの場にはおらず、背中の白亜が顔を出しヨシムナからクッキーを与えられていた。


≪はい……私は向こうで事故にあって、神様からこちらの世界に転生させていただいて、そこでも暗殺されまして……蜘蛛の魔物に転生しました……そこからクロさんに助けられて……今では世界初のアラクネ種として新たな人類になりました……≫


「ああ、涙で文字が見えないよ……本当に愛理なんだよな。今はそれで十分だから! 十分だから!」


 長文を浮かせるアイリーンに止まらない涙を流すライナーは抱き合いながら再会を喜び合う。その文字を見たヨシムナは驚きながらも白亜に催促されクッキーを口に入れる。


「愛理さまが転生された事にも驚くが、白亜ちゃんが白夜さまのお子さんだって事実にも驚くが……クロ、お前は本当に凄い人たちと一緒にいるんだな……」


「ああ、今が楽しいよ。向こうの世界じゃ味わえない体験をいっぱいしたし、仲間もいい奴らばっかりだしな……」


「キュウキュウ~」


 白亜もご機嫌な鳴き声を上げクッキーを口にしながらリュックの中の尻尾が揺れる。


≪今はアイリーンですからね。ライナーさん!≫


「ああ、アイリーンだな……癖で愛理と呼びそうになるから気を付けないとだな……」


 涙を拭きながら浮かぶ文字を確認し会話をするライナー。同じく涙を拭きながら魔力で文字を生成するアイリーン。ひとしきり抱き合い再会を喜ぶ二人にクロがアイテムボックスからペットボトルの飲み物を手渡す。


「変わった水筒だね」


≪ペットボトルです。ここをこうやって捻れば開きますから≫


「おお、開いた。ゴクゴク、ぷはぁ~美味しいね。果物水にしては味が濃い」


 オレンジジュースを口にする二人を羨ましそうに見つめる白亜が「キュウキュウ」と鳴き声を上げ、クロはリュックを下ろすとアイテムボックスから更に二本取り出すと一本をヨシムナに放り投げ、もう一本を開封すると白亜へと渡す。


「キュウキュウ~~~」


 器用に口に入れる白亜にヨシムナも口にすると目を見開き味に驚く。


「うまっ!? これ凄く美味いぞ!」


「そりゃ良かったが、内緒に頼むぞ。アイリーンの事もな」


「ああ、愛理さまが転生されこの世界にいると知られたら、それこそ一大事だからな……聖女として活躍された愛理さまが……ん? そうなると聖王国が本気で動き出すな……」


≪それは困ります! お世話になったライナーにだけ伝えたかった事ですし、ヨシムナさんは黙っていて下さいね!≫


 クロたちの会話に文字で参加するアイリーン。その瞳は普段開かない残り六つの赤い瞳を広げて威嚇染みた瞳を向ける。


「俺だって愛理さまを尊敬しているからな。絶対に口外しませんよ」


「私も愛理が内緒にしたいというなら言わないけど……また一緒にはいられないの?」


 潤んだ瞳を向けるライナーに赤い瞳を閉じたアイリーンは首を横に振る。


≪私は草原の若葉の一員ですから≫


 魔力で生成した文字がライナーの前に浮かぶと涙が溢れ出し、今度はライナーからアイリーンを抱き締める。


「そっか……愛理は自分の新しい場所を見つけたんだね……」


「はぃ……」


 アイリーンが文字ではなく声で返事をすると更に強く抱き締めるライナーは、新しい場所ができた事を喜びながらも少しだけ寂しさを感じるのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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