豚の国へ
装備を終えたエルフたちの手には弓とボールペン二本分の長さの短い杖を腰に差し、盾などはなく胸を守る革製の鎧を付け背中には矢を入れた筒が装着されている。
オーガは大楯を持つ者と鉄で作られている平たい棒を持つ者に分かれ、その棒は日本のお坊さんが座禅の修行の際に罰を与える時の警策に似ているが鉄で作られている事から威力は桁違いだろう。
「クロ先輩にピッタリですね! 間に合って良かったです!」
やや籠った声で話すルビーは全身をプレートアーマーに身を包み、右手には改良された槌が握られている。クロの胸には革のベルトに鋼鉄製のプレートを固定した胸当てが装備され、腰には少し長い魔剣。左手には革製のガンレッドを装備し、シールド魔法を使うのだから必要ないと思いながらも、ルビーが一生懸命作り用意した事もあり装着していた。
≪カッコイイですよ! なんちゃって勇者の称号を授けましょう!≫
「それは遠慮するが、アイリーンは鎧とか要らないのか?」
≪私は速度重視です! 魔化してしまえばそうそう攻撃も当たりませんし、皮膚が鉄のように硬くなりますから……≫
世界初のアラクネとして魔化した姿を知るものは少ないが、クロたち『草原の若葉』のメンバーはそのチート染みた運動性能を知っておりアイリーンがいうのなら大丈夫なのだろうという信頼もある。事実、進化前のプリンセススパイダーの時は鋼鉄のような外角をしており、叩けば金属のような音が響いていたのだ。
「それでも注意しろよ。やばくなったら俺がシールドを張るからな」
≪おお、クロ先輩が心配してくれましたよ! ですが、大丈夫です! 危なくなったら回復魔法も使えますし、とっておきの必殺技もありますから!≫
自信満々の笑みを浮かべるアイリーン。その後ろではドランとキャロットが屈伸をしながら体を伸ばしており、こちらも装備はいつもの服装でその辺へ散歩にでも出掛ける様子である。
「クロさんも注意して下さいね……僕も後衛で打ち漏らしを叩く係ですが、クロさんの近くで戦いますから……」
道着姿のシャロンに話し掛けられ、更には守る発言を耳に入れたアイリーンは鼻息を荒げ、困った顔をするクロ。
「ああ、その時は頼むな。でもな、俺も守りには自信があるから、」
≪そこは受けというべきです!≫
「守りには自信があるから、シャロンこそ危ない時は俺の近くに来いよ。ルビーもだからな」
「はい! 私は戦いよりもその場で武具を直しますので守って下さい!」
「ぼ、僕も……でも、それじゃ……はい……お願いします……」
「キュウキュウ」
アイリーンが魔力で生成した文字を明後日の方向へ投げ飛ばしたクロは、ルビーとシャロンに背中のリュックに入れた白亜を守るため両頬を叩いて気合を入れる。シャロンは何やら話したそうな雰囲気を出したがその言葉を飲み込み、クロを立てる事にしたようである。
「クロ~私もクロの近くで盾役頑張るからね~」
「ああ、頼もしい仲間が多くて安心だな!」
「えへへへへ」
「ん……私たちも後衛で狙撃……」
「弓には自信があるから任せて下さい! それと、無事に終わったら白いケーキが食べたいのですが……」
エルフであるフランとクランもクロたちの近くで後衛からの狙撃役に任命されたようで、挨拶を交わしながら以前に食べて感動したケーキを所望した。
「それぐらい構わないけど、戦いの前に終わった後の事を口にするなよ。これはフラグといってその逆になる事がある」
≪そうですよ。この戦いが終わったら結婚するんだ! とか、やった―倒したぞ! と叫んだりとか、ダイエットは明日からとかですね!≫
「最後のは違うと思うが……ケーキなら用意してやるから、その事は忘れて頑張れよな」
「ん……任せる!」
「はい、みんなにもお願いいますね!」
クランの言葉にエルフの女性たちからはキラキラした瞳を向けられ、ちょっとしたモテ気分を味わうクロ。
「ほら、デレデレするな! 緊張感を持ちなさい! 師匠が転移してくるわ!」
お尻への蹴りこそなかったが、目の前の空間が歪み顔を出すエルフェリーン。
「おお、みんなカッコいいぜ~こっちは話を通したからみんなで転移だよ!」
その言葉にぞろぞろと動き出すエルフにオーガたち。ポンチーロンはそれを見送りながら手を振り、最後にクロたちが転移するのを確認すると、工房へと頭を下げ近くの村へと寄りながら自分たちの村へと帰還するのだった。
「ここがオークたちの国なのか……」
転移門を越えた先は草原で遠くにはまだ復旧中だと確認できる大きな門がそびえている。所々に補修作業をする足場が組まれ、亀裂の入った個所に真四角に切り出した石と交換し汗を流す作業員オークたちの姿が確認できる。
「あの門の先で対イナゴの作戦会議をしているよ。新しい王女さまが是非とも皆に挨拶をしたいというから一度お城に入って挨拶をしてから、イナゴが向かって来る場所まで転移するからね~ああ、クロはどうする?」
エルフェリーンがクロを覗き込むように話し掛ける。クロは勇者召喚に巻き込まれ聖王国に転移した過去がありその事を気にしているのだろうと声を掛けたのだ。
「もう昔の事ですから……それよりもアイリーンは大丈夫なのか?」
勇者として召喚されこの世界で二度の転生を繰り返したアイリーンは聖王国では英雄であり、見知った聖騎士も多くいるだろうと気を遣うクロ。
≪大丈夫ですよ~今はアイリーンです! 知り合いがいたら嬉しいですが、まだ上手く話せませんし……≫
魔力で生成した文字を浮かせながら複雑そうな表情を浮かべるアイリーン。それを心配したのか白亜がキュウキュウと鳴き声を上げリュックから顔を出す。
「白亜は優しいな……ほら、あっちから騎士が来たし行こうか」
三名の聖騎士だと思われる男たちがこちらへと馬を走らせ向かって来るのを指摘するクロ。アイリーンはリュックから顔を出す白亜の頭を撫でながらクロの後ろへと隠れるのだった。
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