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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第六章 大規模討伐と秋の足音
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準備する者たち



「それでは先に事情を説明してきますわね」


「僕が送って来るから準備を整えておくこと!」 


「いつでも戦闘のできる準備をしなさいね!」


「白亜さまの歯磨きもですよ!」


 翌朝、朝食を終えた一同はカリフェルとエルフェリーンにキュロットとキャロライナの四名でイナゴとの戦闘参加を伝えに転移する。少数精鋭とはいえオーガの戦士とエルフの戦士を十名以上戦闘姿で転移させては侵攻と間違えられる可能性があるのだ。ドラゴニュートひとりでもドラゴンが一匹攻めて来ると同等の戦力なのに、それが三人加われば国として動き出す可能性もあり先に事情を説明に向かう必要があるのだ。


「よし、俺も準備をしないとな」


≪クロ先輩の準備ですか? 鎧でも着るのですか?≫


 食器に浄化魔法を掛けていたアイリーンは糸を浮かせクロの目の前に文字を流すとそれに気が付き口を開く。


「ああ、地下室の食品を持って行こうと思ってな。長く開けるかもしれないし、腐ったらもったいないだろ」


≪なるほど、もったいないの精神ですね!≫


 納得したのか皿へと視線を移すアイリーン。クロは自身のお腹を摩るキャロットへ視線を向け、横で同じくお腹を摩る白亜を目に入れ微笑みながらキャロライナの伝言を聞いているのかと心配し声を掛ける。


「白亜の歯磨きはキャロットさんに任せたからな~」


「了解なのだ~」


「キュウキュウ~」


 動く気がないのか適当に返事をする一人と一匹に軽くため息を吐きながら、世間のお母さんはどうやって子供の自主性を伸ばしているのかと考えながら地下へと足を進める。


「ほらほら、キャロットさんと白亜ちゃんは歯磨きですよ! 早くしないとキャロライナさんに言付けますからね!」


 階段を降り始めたクロの耳にはルビーが叫ぶ声が聞こえ、お母さんキャラだったのかと感心しながら到着したむろのドアを開けるとひんやりとした空気が流れ、棚を見渡し必要そうな調味料や乾物などをアイテムボックスに放り込み、どぶろくを入れた瓶やコツコツと魔力創造して作り貯めた白ワインやウイスキーなどもアイテムボックスに入れ、棚を見渡し腐る物がない事を確認して頷くクロはキッチンへと戻る。


「歯の間に肉片が挟まっていますよ~キャロットさんはどこを見ていたのですか!」


 ルビーの声が響くリビングでは大きな口を開ける白亜とシュンとするキャロットの姿があり、キャロットさんは成人してたよな? と思いながらキッチンの壁に掛けてあるフライパンやお玉などの調理道具をアイテムボックスに入れながら「ルビーさんがいれば大丈夫だな」とひとり呟くクロ。


「クロ~クロ~見て、見て! 私の盾と鎧だよ~」


 その声に振り返ると大きな亀の甲羅を加工して作られた大楯を持ちアーマーリザードと呼ばれる硬い皮を使い繋ぎ合わせて作られた皮鎧を身に着けたラライの姿があり、横にはナナイが同じような皮鎧を付け親子で仁王立ちである。


「おお、かっこいいな! 硬そうな盾に皮の鎧だな」


「うん! 何とかリザードの皮で作った鎧なの! 盾も凄く硬い亀なんだからね!」


「アーマーリザードとプロテクトタートルだな。どっちも防御力に定評があって冒険者時代によく狩った魔物だね。どっちも上手く首を刎ねて狩らなきゃ買い取り額が半値以下になっちまう……キュロットの拳でいくつもダメにした事を思い出したよ……」


 硬さに定評がある魔物の皮や甲羅を素手で砕く事に驚くクロ。リビングではその言葉に耳を傾けていたビスチェが苦笑いを作り、エルフたちは無言でうんうんと頷く。


「あの剛腕は産まれる種族を間違えたのかね~」


「凄い事は理解できますよ。ナナイさんも魔化して拳で戦うのですか?」


「私は拳だが、これを付けるからな」


 腕を前に出して竜の鱗が使われているだろうガンレッドを見せるナナイ。肘まですっぽりと覆われたそれは緋色のガラス製品のように美しく何枚もの鱗が重ねられ、思ったよりも柔軟性があり指が一本ずつ動く仕組みになっている。


「これは冒険者時代に使っていたものさ。久しぶりに出してきたが、あの頃を思い出すよ……」


 懐かしそうにガンレッドを見つめるナナイ。


「私も大きくなったら冒険者になるの! お母さんの伝説を塗り替えるの!」


 大楯を持ってぴょんぴょんと警戒に跳ねるラライの身体能力に驚きながらも、ナナイの伝説について思案するクロ。


「お願いだから塗り替えないでおくれ……冒険者ギルド半壊事件は伝説じゃないから……全壊とか、お尋ね者になっちまうよ……」


 自身の眉間を片手で押さえラライの目標に呆れつつ反省するナナイ。一方、ラライは笑顔で頭を差し出しクロが撫でるのを期待する。


「ナナイさんの気持ちも考えてなるにしても普通の冒険者になろうな~ナナイさんとキュロットさんの伝説を塗り替えないでくれよ~」


「クロがいうなら我慢するけど……ビスチェさんはキュロットさんを超えたいとかないのかな?」


 リビングで戦闘準備をしているビスチェへと視線を向けたラライとクロ。どうやらこちらの様子を窺っていたのか二人と視線がぶつかり、ニッコリと微笑むとキッチンへ向かい歩きはじめる。


「私はママの伝説とか興味ないわ! 私は私だし、目指すのは師匠であるエルフェリーンさまよ! いつか硬化岩を虹色に光らせて見せるわ!」


 この家の基礎に使われている硬化岩は魔力の質と量に反応し色を変え、一般的なエルフの十人以上の魔力を注がない限り虹色に光る事はないだろう。それを一人で可能にするエルフェリーンの凄さを目標とするビスチェに他のエルフたちからは「期待している!」「ビスチェならできる!」といった応援の声が掛けられ、本人は腰に手を当てドヤ顔である。


 そんなやり取りを二階から眺めていたシャロンは戦闘用の服に着替え終え、下に降りてクロたちに見せに行くか迷っていた。


「へ、変じゃないかな……」


 二階にはシャロン以外の人気はなくリビングにはエルフたちとオーガたちが皮鎧やら胸当てを装備しながら会話をしており、男たちは外で着替えを済ませている。着替えといっても普段着の上から鎧を付けるだけなのであまり問題はないが、シャロンは女性恐怖症という事もありクロの部屋で着替えをしていたのだ。

 着替えを終えた姿は柔道着に近い服装で拳には革製のグローブが嵌められ手の甲の位置には魔石が輝く。


「ううう、この道着を見せたかったけど……ロンダルは外だし……クロさんは……ん? 妖精さん、どうしたの?」


 下を覗き込んでいたシャロンの目の前に現れた妖精たち。手に付けたグローブに興味があるのかキャッキャしながらペチペチと魔石に触れる。


「凄いね~」


「魔石を使って拳を固く守るのかな?」


「拳でイナゴと戦うの?」


 三人の妖精たちがシャロンを見上げ話し掛けると、その愛らしい姿に微笑みながらグローブの説明と戦い方を口にする。


「これはサキュバニア帝国に伝わる武具で皇帝の拳と呼ばれ、魔力を流せば拳を覆う強固な結界が構成されます」


「見せて! 見せて!」と声が重なり、いつの間にか妖精に囲まれているシャロン。相手が妖精という人の形であっても小さな姿に女性恐怖症は発動せず、自然に話しながらグローブに魔力を流すと半透明に光る大きな拳が出来上がる。


「凄い! 凄い!」


「手がおっきい!」


「これならイナゴも殴れるね!」


 キャッキャと喜ぶ妖精たちに気を良くしたシャロンが二階の通路でシャドーを始めると更に盛り上がる妖精たち。それを下から見上げるクロたちは妖精と戯れるシャロンの姿にインキュバスとしての美を感じるのだった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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