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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第六章 大規模討伐と秋の足音
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男たちの聖域



 飲み会も終わり女性陣は来客室で宿泊し、男性陣は倉庫として使い始めた前の屋敷で寝泊まりする事となり分かれたのだが、クロは自室がある事からロンダルとシャルロの三名を自室に迎え入れた。


「ここがクロさんの部屋ですか……」


「クロの兄貴の部屋は何というかさっぱりしてますね……」


 部屋の中を見渡した二人は机とベッドしかない事に不思議に思い口にする。


「ほら、俺はアイテムボックスが使えるだろ。必要なものは常にその中に入れているからさ、クローゼットもあるけど殆ど何も入れてないな。物がなければ掃除も楽だろ」


 確かにと思う二人。クロは二人が寝泊まりできるよう魔力創造でマットレスを二つ創造すると床に敷き、ロンダルは自身で使っている寝袋を広げ、シャロンにはこれまた魔力創造した毛布と枕を用意する。


「王子さまにこれだと問題がありそうだが……」


「いえ、この持ち運びベッド? も、寝心地は良さそうです。ありがとうございます」


 マットレスと毛布を確認するシャロルは微笑みながらクロへお礼の言葉を添える。ちなみにシャルロとロンダルの二人は既に入浴を済ませ女装からいつもの男装へと変わっている。


「なら良かったよ。ロンダルも暑いようならこっちの毛布を使えよ」


「はい、このマットだけでも十分です。ふかふかで折り畳めるのは便利ですね」


 魔力創造で作り出したマットレスに腰を下ろし手で感触を確かめるロンダルとシャルロ。ロンダルは冒険者という事もあり寝袋を普段から使い場所によっては薄いもう部を体に撒いて寝る事に慣れている。こうして横になって寝るのは町中にいる時ぐらいである。

 シャロンは王宮暮らしでベッドに横になるが、日本製の安物のマットを気に入ったのか手触りと弾力を楽しんでいる様にすら見えた。


「気に入ったのなら良かったよ。二人は疲れているだろ、そろそろ寝るか?」


 そう言いながら壁に添えられている魔道具のランプに手を掛けるクロ。


「えっ!? 夜は語り合うものだと思っていましたが……」


「僕も黒の兄貴やシャロンさまの話を聞きたいです」


「僕の事はシャロンでいいよ。王子とか言われているが皇帝になるのは姉だろうからね」


「そ、それは恐れ多いです……」


「僕は友達が少ないからね……出来たら友のように呼んでくれると嬉しいよ。もちろんクロもだよ」


「ああ、それは構わないが何を話すか」


 シャロンとロンダルから予想外の言葉を受けつつも壁際からベッドに腰を下ろしたクロは、アイテムボックスからペットボトルの紅茶を取り出し二人に配り、シャロンとロンダルが昼間に気に入っていたチョコを皿に乗せると目線を合わせるように床に腰を下ろす。


「チョコですね!」


「これは昼間に食べて美味しかったです!」


 二人は笑顔でチョコを口に入れ表情を蕩けさせた。


「チョコというお菓子は俺の国で作られたものなんだが……俺も色々あって勇者召喚に巻き込まれたんだよ。それでこっちの世界に住むことに決めて残った。この事は内緒でな」


 そう言いながら自身の唇に人差し指を付けるクロ。シャロンは目を見開き、ロンダルは薄々感付いていたようで二つ目のチョコを口に入れる。


「そ、それではクロは勇者なのか!」


「いや、巻き込まれただけの一般人だよ……勇者たちは全員帰ったよ……」


「クロの兄貴の常識離れした行動や美味しい料理は勇者様の国のものだったのですね……ここは凄い人ばっかりで自分が情けなくなる事がありますが、クロの兄貴は飛び切りの凄い人ですね」


 キラキラした瞳を向けるロンダル。隣で頷くシャルロ。


「凄いか凄くないかでいえば、凄くはない! 凄いのは師匠やビスチェにアイリーンやルビーだな。師匠は魔術に関してはこの世界で五本の指……いや、世界一だろ、ビスチェは精霊に愛され空を自由に飛び回り草木の声を聴けるし、アイリーンは糸を使った攻撃と聖魔法のスペシャリストで、ルビーは鍛冶の天才かもな。ほら、このナイフはルビーが打って師匠がエンチャントを施した魔剣だ」


 先日、ルビーからプレゼントされた炎属性のロングナイフをアイテムボックスから取り出し二人に見せると、シャロンが受け取ってロンダルが顔を寄せる。


「これは凄いですね……斬ると同時に焼けとは……」


「見た目も美しいです……アイリーンさんの剣も凄く綺麗でしたがクロの兄貴のナイフもカッコイイですね!」


「そうだな。厨二心をくすぐられるが……キャロットもドラゴンになれるから凄いよな。二階建ての家サイズのドラゴンと戦って勝てるとか思えないし、うちの工房の中じゃ俺が一番弱いかな。ああ、ルビーとなら互角に戦えるかもしれないが、何やら新しい武器を作ったとか聞いたからな……勝てるかな?」


 胡坐をかきながら頭を傾けるクロにシャロンが口を開く。


「あの、クロさんとロンダルさんは怖いものとかありますか? 僕は女性が苦手で……触れられると鳥肌と震えが止まらなくて、酷いと鼻血が……」


「ああ、模擬戦の時もそうだったよな……」


「僕は魔物が怖いです。あとは怒った姉ちゃんたちが……」


「ポンニルさんは怖そうだな……チーランダさんが怒っている所が思い浮かばないが……」


「上の姉ちゃんはちゃんと何で怒っているか言ってくれるけど、下の姉ちゃんはその前に手が出て……これからは女装を強制されないかが心配というか……苦痛です……」


 やや斜め下を向き顔に影が差すロンダル。それを見て笑うクロと表情が明るくなるシャロン。


「似合ってたのにな。あれは十分女性として見れたぞ。シャロンは美少女にしか見えなかったが」


 クロの言葉に更に死んだ目をするロンダル。シャロンは頬を染め自身の女装姿を思い出す。


「アレはアレで楽しかったですね……僕が女性に生まれていれば襲われるような事もないでしょうし、別の人物になったようで不思議な感覚でした」


「クロの兄貴は女装して楽しかった?」


 ロンダルからの質問に紅茶のペットボトルを一口飲んだクロは口を開く。


「あれが初めてじゃなかったからな。前に向こうの世界で一度したからかあまり抵抗はなかったな……あの時はもっと若くて恥ずかしかったが……今のロンダルぐらいの年だったと思うぞ」


 クロは学園祭での出来事を思い出しながら口にする。


≪それでリアクションが薄かったのですね~≫


 目の前に文字が流れて急停止し流れてきた方へ視線を向けると、ドアから顔を出すキャロットとアイリーンにビスチェとルビーにエルフェリーンが背の順で重なり合い笑みを浮かべていた。


「鍵を掛ければ良かったな……」


「あはははは、クロの女装も、ロンダルの女装も、シャロンの女装も可愛かったぜ~」


「皆さん私よりも可愛くて……少し嫉妬しました!」


「それよりも三人だけでチョコを食べるのはずるいわ! 私もチョコが食べたいわ!」


「私だって食べたいのだ! 白亜さまもチョコが大好きなのだ!」


 背の低い順に口を出す乙女たちにアイテムボックスからチョコを出すと、わらわらと部屋に侵入する乙女たち。後ろにはオーガのラライとエルフのフランにクランの姿もあり一斉にチョコに群がる姿に、シャロンは後退りロンダルはそんなシャロンの前に壁になる。


「ほらほら、シャロンは女性が苦手なんだからな。チョコを受け取ったらすぐに戻れ~ラライは人のベッドで寝ようとしない! フランとクランはクローゼットを開けてどうする心算だよ! はぁ……ここは男たちの聖域だから早く出て行く!」


 クロの叫びが部屋中に木霊するのだった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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