宴会芸
エルフとオーガの男たちの女装に爆笑する女性たち。エルフは完全に美形な女装姿なのだが、オーガの男たちは逞しい筋肉に覆われている事とゴリゴリの眉毛と脛毛が隠し切れない男らしさを主張していた。が、中にはシャルロのように女装事に新しい自分を見出したのか、ポーズを取り笑いを誘う。
「うふっ~ん」
ゴリゴリの女装が身をくねらせる姿に、これがこの世界の二丁目になるのかもと思うクロ。アイリーンは手を叩きその姿を笑うが、多少なりとも罪悪感があるのか引いているエルフ女子たちにも拍手をするよう促す。
≪お酒の席での冗談なのですから、ほらほら拍手!≫
アイリーンに促され拍手をするエルフの女性たち。特にフランとクランは大きく拍手をして場を盛り上げる。
「どれ、わしも宴会芸を、」
「あら、それなら私が空へブレスを吐きますから、あなたが火の輪を潜りますか?」
立ち上がりブレスを吐こうとするドランの肩に手を置き話すキャロライナ。ゆっくりと腰を下ろしてどぶろくを口にすると、焼きそばの大皿に残っていた野菜の残りカスを口に入れ何とも言えない顔をする。
「キャロライナの前では勇敢なドラゴニュートといえど形無しだね~僕も宴会芸なら周りに迷惑が掛からない方がいいと思うぜ~そうだ! 宴会芸といえばエルフたちの演奏を聴きたいな~」
隣で飲んでいたキュロットに向け笑顔を送るエルフェリーン。素早く立ち上がると口を開き指示を出す。
「フランとクランはすぐに準備! 楽器はアイテムボックスに入れてあるから調律したらすぐに始めるわよ!」
「はっ!」
エルフたちが動き出しリビングの一部を片付け椅子を用意し、ギターに似た弦楽器に木の枝を加工して作られている縦笛にマラカスのような中に種を入れて音を出す楽器を用意すると、女装していたエルフたちも加わり調律をはじめ会場の視線を集める。
「エルフェリーンさま、お聞きください。始まりのエルフ」
キュロットが声高に演奏曲を声に出すと離れの屋敷は静寂が訪れ、演奏が始まるとキラキラと演奏するエルフたちのまわりを精霊が喜び光を発する。それは幻想的で誰もが目を奪われ、一部のオーガたちはその光景に手を合わせる。
この曲は始まりのエルフと呼ばれる七人のハイエルフを称えた曲であり、エルフなら誰もが知り口遊む事ができ楽器を齧ったものなら誰でも演奏ができる代表的な曲である。新年や収穫祭などの目出度い日に演奏されてきた。
「凄いですね……」
演奏に合わせて点滅する精霊の光にお酒を口にするのも忘れ感動するルビー。その横ではクロも目を奪われ、シャルロやカリフェルもうっとりとその光景を目に焼き付ける。
「これがエルフの幻想曲……」
「歌がないけど精霊の光が歌っているようだわ……」
会場のあちらこちらから呟き声が上がるが、それはどれも感銘を受けた事による呟きで会話というよりも勝手に出てしまった言葉だろう。
曲が終わると精霊たちがアンコールを求めているかのようにキラキラと光り輝き、ライブ会場にでもいるかのような錯覚を受ける元日本人の二人。
「ははは、圧巻だな……」
≪私ももっと発声練習をして、こちらの世界にアニソンを広めなければ!≫
クロの呟きに演奏に参加していたビスチェが笛を片手に手を振ると拍手の渦が巻き起こり降り注ぐ光のシャワー。それはまるでステージで歌うアイドルのように視界に映りクロとアイリーンも拍手を送る。
「次はオーガたちの宴会芸ね!」
「それはいいね! オーガたちの愉快な芸も久しぶりに見たいよ~その次はドランの日輪潜り、その後はクロの宴会芸だよ!」
急な無茶振りにもオーガたちはエルフたちが演奏した場所へと移動する。その間にもクロは宴会芸をしろというエルフェリーンの頼みに応えようと頭を回転させる。
「では、行きま~す!」
ラライの叫びに屈強な女装オーガの二名が互いに肩に手を当て、その上を女性のオーガが登り、さらに上にはナナイが飛び上がった着地する。
そこで拍手が起こるのだがナナイが手招きすると拍手は止まり、ラライが階段を駆け上がり二階からナナイ目掛けて飛び上がる。
「すごっ!」
あまりの事にクロが声を漏らすと大きな拍手が巻き起こり、目の前にはオーガの塔が完成しておりナナイのすぐ近くには回転するプロペラがあり、手を伸ばせば天井まで届く勢いである。
「凄いですね……圧倒的な筋肉……」
「エルフとは全く違う盛り上がり方だわ」
≪筋肉の塔ですね! これはこれで需要がありそうです~≫
「普通に楽しめないのかよ……」
クロはアイリーンに呆れながらも天辺から手を振るラライに手を振り返す。
「いや~圧巻だね~僕は八段までのオーガたちの塔を見たけど室内だと四段が限界だよね~それでも圧倒的な迫力があって凄かったよ~」
感心したように口にするエルフェリーンの言葉と拍手にラライが飛び降り二階の手すりに掴まり、ナナイも同様に飛び降り床に着地するが音や振動は一切なくオーガの塔が解体された。
「貴方、出番ですよ」
優しく肩に手を置くキャロライナの声にぶるりと震えながらも立ち上がるドラン。
「手伝うのだ!」
キャロライナも立ち上がり外へと向かうドラゴニュートたち。ワイワイと窓辺に向かう者や外へと向かう観客たちは手に好きな酒を持つと空を見上げる。
夜空には月がなく星が瞬いているのだが三匹のドラゴンはどこへ行ったのだろうとキョロキョロと夜空を見上げるクロとルビー。
「ほら、暗くても魔力を目に集中させなさい。そうすれば少しぐらい見やすくなるわよ」
ビスチェがクロの隣に並び目に魔力を集中させると空に浮かぶ魔化したキャロライナとキャロットが確認でき、体を反らせると胸部が膨れ上がるのが見て取れた。
「うおっ!?」
吹き出した炎により一気に明るく照らされ驚くクロ。まわりの者たちからも悲鳴に近い驚きが上がるなか炎は円の形へ変わり、その真ん中を赤いドラゴンが通り過ぎると割れんばかりの拍手と歓声が上がる。
「凄いな……」
「ドランは飛行しながらも輪のサイズを考えて翼を閉じたわ。輪が小さいかと思ったけどギリギリ感を出して場を盛り上げているのね!」
≪飛行速度も速いですね……戦闘機とどっちが早いでしょうか……≫
「いや~ドラゴンの火の輪くぐりが見られるなんて嬉しいね~あれはドラゴニュートの伝統的な祭りで披露されるんだぜ~」
「すごーい! 白亜ちゃんも将来はあんな風に飛ぶのかな!」
「キュウキュウ!」
いつの間にか目を覚ましたのかラライが白亜を抱き締め夜空に燃え上がる火の輪潜りを見上げていた。星々の背景に燃え上がる炎をものともせず潜り抜けるドラゴンの雄姿に誰もが目を輝かせる。
キャロライナのブレスが円を作り出し、ドランが潜り抜け、キャロットの新たなブレスが……
「あっ!?」
輪を潜り抜けたドランの顔面をキャロットのブレスが捉え落下する衝撃映像が皆の目に入り驚きのリアクションが重なり、呆気に取られていると自身のような振動と風が吹き抜け慌てて急降下するキャロラナイとキャロット。
「アイリーン!」
≪任せて!≫
素早く動き出すクロとアイリーンは落下しただろう荒野へ向け走り出す。
落下現場に到着すると胡坐をかいたドラゴンが頭を掻きながら尻尾を縮めており、その近くでは仁王立ちで叱るキャロライナと正座するキャロットの姿があった。
ドランは無事なようで二人に気が付くと手を上げで「失敗した。がははは」と笑い声を上げる。
「無事で良かったよ……はぁ……」
≪ドラゴンも正座ができるのですね……≫
叱られるキャロットを見ながら胸を撫で下ろすのであった。
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