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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第六章 大規模討伐と秋の足音
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作戦会議は明後日の方向へ



 戦いを前に大いに飲み食いをする者たちの胃袋を満足させたクロたちは、ほろ酔い気分のオーガやエルフにドラゴニュートの話を聞きながらイナゴの危険性に耳を傾けつつ少し遅れて食事を取っていた。


「サイズはこれぐらいだが腕と足に鋭い棘がある。包囲して焼き殺す方が安全だな」


「あら、それなら大魔法と精霊魔法を使った方が早いわね!」


「アタシらは大楯を持って術者の護衛と、打ち漏らした奴を狩ればいいな」


「大魔法は僕が使うからね~火魔法はあまり得意じゃないから……そうだ! 暴風を竜巻の形に変えて敵を引き寄せるからアイリーンの魔糸をその中に入れてようか! そうすれば竜巻の中でイナゴが粉々になるはずだよ!」


≪私は構いませんが上手くいきますかね?≫


 料理を手伝っていたアイリーンは湯気の上がる焼きそばを口に入れながら文字をエルフェリーンの前に飛ばし急停止させ、それを読む参加者たち。


「文字が止まった……」


「私たちにもこれが使えれば色々と便利そう……」


「声を立てずに相手とやり取りができるのは狩りに役立ちそうだな」


「ハンドサインじゃ限界があるものね~」


 オーガにエルフたちが魔糸での会話の便利さに気が付き、キッチンで焼きそばを食べるアイリーンへ視線を送る。


「確かにアイリーンの糸は便利だよな。食べていても話ができるし、武器としても優秀だし、粘着質な糸を使って接着剤にも使っていたよな」


≪私の家の第一号はそれで作りましたね。いや~もう懐かしさすら感じますよ~このしゃぶしゃぶサラダ美味しいですね。ポン酢かと思ったら柚子の香りがします≫


「どれもお酒に合いますね! 焼きそばにはビール、サラダにはレモンハイ、焼いたピリ辛のお肉にはハイボールが合いますね!」


「ああ、そうだが、イナゴ討伐は俺たちも参加するのかな? 俺はシールドを使えば盾要員で参加できるが、ルビーには厳しいだろ?」


 豚キムチならぬブルーリザードのキムチを口に入れたルビーの攻撃方法は槌と呼ばれるハンマーでの一撃である。空を黒く染めるほどの数相手に一匹ずつ倒すルビーの攻撃方法は相性が悪い。それは肉弾戦が得意なシャロルやカリフェルも同じであり、その為にエルフェリーンの元へ協力者を募りに現れたのだ。


「確かにそうですが……私の槌はパワーアップしました! 鍛冶場にあるので見せられませんが、中距離攻撃が可能になったのです! それも、私自身の魔力は殆ど使わず、魔石を使い魔力を補充する画期的な方法です!」


 ルビーが珍しくドヤ顔をする所を見ると、使い勝手が良いのだろうと思うクロとアイリーン。


「その性能を試すためにも参加します!」


≪クロ先輩はどうするのですか? あと白亜ちゃんは……≫


 白亜に視線を向けるとお腹がいっぱいになったのかクロの横に座り膝にもたれ掛かって寝息を立てている。キャロットはキャロライナの横で作戦を真剣に聞きながらも大きな欠伸をして目を擦っている。


「連れて行くとしたら俺がリュックに入れて背負うが……一人でお留守番は無理だよな……」


 寝息を立てる白亜の頭を優しく撫でるクロ。それを微笑ましく見つめるアイリーンとルビー。


「ポンチーロンは不参加なのか?」


 急に話を振られた三人は揃って首を左右に振り動きをシンクロさせる。


「アタシらには荷が重いね」


「イナゴは固いから焼くのが一番! せっかく新調したのにナイフをボロボロにしたくな~い」


「僕の弓では役不足です……」


 ポンニルは普段から槍を使うが魔術は生活魔法と身体強化しか使えず、無数のイナゴ相手には不向きである。チーランダも同様で二本のダガーで舞うように戦うが魔術は使えない。ロンダルは弓を使い遠距離から攻撃できるが技量に問題がありイナゴ戦には不向きだろう。


「それなら白亜を預かって……いや、あれか……そろそろ村の収穫時期と重なるか……」


「はい、小麦の収穫を毎年手伝っていますので……」


「私たちが行くとみんな喜ぶもんね~」


「私らじゃ足手まといになっちまうからな。今回は不参加……収穫の方を手伝わせてもらうよ。悪いな……」


 申し訳なさそうにする『若葉の遣い』たち。だが、選択としては正しいだろう。下手に参加して怪我をして今の冒険者の仕事ができなくなれば困る人々は多くいるのだ。錬金工房『草原の若葉』で作られたポーションや薬を村々に届けてまわり、流行り病の兆候や村々の様子などをエルフェリーンに報告するのが彼らの仕事である。


「いやいや、収穫も大切な仕事だからな」


「私は参加するよ~クロを守るんだからね!」


 ラライがロンダルの後ろから顔を出し笑顔を向け、クロは作戦を立てているナナイへ視線を向けるとニッカリと微笑まれる。


「私も成人したし、魔化もばっちりだよ! この前なんてママに一撃入れたんだから!」


 ラライに視線を戻したクロはそれでも元気な陸上女子中学生に見える姿に心配を覚える。


「ラライなら大丈夫だよ。打ち漏らしを仕留める組に回すし、魔化したオーガは固いからね。大楯を持たせて防御を任せる心算だよ」


「えへへ~私がクロを守るからね~」


 ニコニコとクロに笑顔を向けるラライに、後衛の護衛役ならと大丈夫かと胸を撫で下ろすクロ。


「私もラライちゃんと打ち漏らしを何とかしましょうね!」


「うん、ルビーお姉ちゃんも守るよ~」


 微笑み合うドワーフの少女とオーガの少女に異種族の友情を感じていると、何やらざわつく声が混じりコツコツと音を立てて降りて来る少女が目に入る。


「あれはさっきの少年だろ?」


「キャー何々!?」


「凄い美少女!?」


 オーガに加え顔立ちの整ったエルフたちまでが黄色い歓声を上げて階段に現れた美少女へと視線を向け、クロやロンダルも思わず「おおおお」と歓声を上げる。


「ふわぁ~シャロンさん凄い美人!! 美少年が美少女になった!」


「わ、私よりも遥かに美人……」


≪恥ずかしそうに頬を染めているのがグッときますね!≫


 ラライが叫び、ルビーは敗北宣言をし、アイリーンは鼻息荒くハアハアしていた。


「ふふふ、ほら見なさい。貴方は私の息子なのだから美人になるに決まっているわ! そうね……シャルロットとでも呼びましょうか」


 カリフェルは女装させたシャルロに笑顔を向けて頬を染め頷き、まわりからの視線を集めつつ階段を降りる。


「ロンダルは可愛い系、クロは目つきの悪いお姉さん系で、シャロンは美少女……一人ぐらい面白くなると思ったけど、みんな予想以上の仕上がりに……」


「あははは、シャロンも女装したんだね! うんうん、とっても可愛いよ~」


「クロもロンダルもシャロンも可愛いのだ! 私も女装したいのだ!」


「キャロットは女性でしょうに……はぁ……貴女はもう少し落ち着きを持って……淑女としての修行をした方がいいかしらね……」


 ビスチェは白ワインを飲みながら女装の感想を口にし、エルフェリーンは素直に喜び、キャロットは女装の意味が解っておらず、キャロライナはそんなキャロットに対してため息を吐く。


「こうなると、うちらの男たちも女装させるべきだな!」


「ん……エルフの男も女装するべき……」


 ナナイの連れてきたオーガの男たちは悲鳴を上げ、同じくエルフの男たちは悲鳴を上げる者はいなかったが素早くリビングから逃げ出そうと席を立つが、


「あら、エルフは確実に美人になるわ」と、席を立つ二名のエルフの男性の肩を掴むキュロット。エルフたちの長から止められては動くことができず顔を青く染める。


 同様にナナイに肩を掴まれたオーガの男二名も青鬼のように真っ青に変わり……


 作戦会議はどこへやら、ドラン以外の男は全て女装を強制されるのだった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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