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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第六章 大規模討伐と秋の足音
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食後の模擬戦



 翌朝、朝食を済ませたエルフェリーンはカリフェルを連れオーガの村とエルフの里にゴブリンの村へイナゴ討伐の参加者を募りに転移し、残ったものたちは戦闘訓練を開始していた。


「基本的には寸止めね。頭と目への攻撃は禁止よ!」


 そう言いながら適度な長さの木の棒を構えるビスチェ。フェンシングのように木の棒を持つ右腕を前に左腕を下げつつクロと対峙する。

 クロはというと剣道のように両手で持った棒を正面に構え受ける姿勢を獲っている。


「クロ先輩が戦う所はあまり見た事がありませんが強いのですか?」


 ルビーの言葉にアイリーンは頭を傾げ文字を浮かせる。

 

≪私の方が強いのは確実ですが、強い方だと思いますよ≫


「そうなのか! 今度戦ってみたいのだ!」


「キュウキュウ」


「へぇ~私も戦ってみたいな~」


「チー姉ちゃんはやめておこうよ。寸止めとか絶対できないと思うし……」


「それは同感だね。ギルドでの買い取り額を下げている原因だからね」


 腕組みをして呆れたように話すポンニルとロンダル。ポンニルが反論をしようとした所でクロが動き出し突きを繰り出すが、ビスチェは突きに対して突きで迎え撃ちクロがバランスを崩す。そこへ容赦のない蹴りが放たれるが転がって避けつつ距離を取ると急いで立ち上がり木の棒を構える。


「クロさんは両手だったのにビスチェさんの片手の突きに弾かれましたが……」


「私もびっくりしました。ビスチェさんは力も強いのですね!」


 シャロンが気になった事をロンダルに話し掛けるとルビーも驚いたようで自身の見解を口にするが、ポンニルが訂正しようと口を開く。


「そりゃ、ビスチェが狙ったんだよ。突き同士が真正面からぶつかれば力や速さというった問題になるが、ビスチェの突きは下から上に向かった突きでクロの突きを植えに反らしたのさ。それにビスチェの突きは回転が掛かっているから弾く威力も上がるのさ」


 ポンニルの言葉に頷くアイリーンとチーランダ。二人にはそれが見えていたのだろう。


「あ、クロの兄貴が構えを変えました!」


 ロンダルが指摘するようにクロは棒の持ち方を変え、その構えはまるでバッターボックスに立つ野球選手のように一撃を迎え打つ形になり、ビスチェは眉間に深い皺を作る。


≪ヘイヘイ! ピッチャービビってるよ~≫


 アイリーンの野次が宙に浮かぶが野球の文化のない異世界ではクロ以外に理解する者はおらず戦いの行く末を見守る。


「あの構えは珍しい! ビスチェの一撃を打ち抜いた後はどうするのかしら!」


 戦闘馬鹿のチーランダがテンションを上げ、誰もがその一撃に期待するなかビスチェが動く。


 効き足に力を入れたビスチェが一気に距離を詰めると渾身の突きを放ち、それを迎い討つべく振り切るクロ。回転の掛かった突きをクロの一撃が捉えるが、その回転の影響かつば競り合いは一瞬の事でビスチェは瞬時に頭を下げクロの一撃を避け、クロは振り切った腕を戻そうとした所で膝から崩れ落ちる。


「う、うわぁ………………」


「こ、これは酷い……」


 ロンダルとシャルロは顔を歪めながら自然と内またになる男子たち。クロはといえば崩れ落ちながらも両手で大事な一部を押さえて苦悶の表情である。


≪ある意味ストラーーーーーイク! ですね!≫


「そんな事よりも早く回復魔法を!」


「そうなのだ! あそこを強く叩くと男は危険なのだ!」


「キュウキュウ!!」


≪仕方がないですね~遠隔ヒール!≫


 アイリーンは細い糸をクロへと飛ばし回復魔法を糸伝いに掛けると発行する体。回復魔法が聞いているのか苦悶の表情は徐々に緩和されて行く。


「はぁ……まったく、クロが変な戦い方をするから変な所を突いちゃったじゃない! 馬鹿! 変態! クロ!」


 ビスチェの馬頭を浴びながら股間を押さえて蹲るクロに、ロンダルとシャルロは同情の視線を向け、寸止めはどうしたと心の中でツッコミを入れる乙女たち。


「ううう、死ぬかと思った……」


 薄れて行く痛みにゆっくりと立ち上がるクロに心配した白亜が抱き着き「キュウキュウ」と声を上げ、その頭を優しく撫でていると何か言いたげなビスチェが俯きながら瞳を向ける。


「白亜は優しいな~心配してくれるのか~」


「キュウ! キュウ!」


「そっか~痛いよな~股間は痛いよな~」


「キュウキュウ!」


 会話が嚙み合っているかはキャロットが通訳していないので解らないが、慈愛に満ちた表情で白亜を撫でるクロ。白亜は甘えた声を上げながら顔をクロの胸板にグリグリと押し付ける。


「そ、その、悪かったわよ……私だってそこが弱点なのは知っているし、その、あの……」


 顔を赤く染めながら謝罪の言葉を呟くビスチェに、クロは白亜からビスチェに視線を向ける。


「次から気を付けろよな」


「わ、解っているわよ!」


 まるで悟りでも開いたような微笑みを浮かべるクロに違和感を覚えながらも言葉を返すビスチェ。


「じゃあ、次はロンダルだな。その後はシャロンさんだからな~」


 クロが戦いを見ていた二人へと叫び、揃って両手で股間を隠す姿に爆笑するクロ。


「なっ!? わ、私が故意に股間を狙う訳ないじゃない!」


 ビスチェの叫びが荒野に木霊し、股間を押さえた二人は互いに頷き合い屋敷へと逃げ出すのだった。







「クロ先輩、大丈夫でしたか?」


「ん? ああ、大丈夫だよ。アイリーンには感謝しないとだな……」


≪これでも元聖女ですからね~腕がもげようと足を失おうと元に戻して見せますよ~股間は少し困りますが……≫


 頬を染めながらボケるアイリーンに「その時はお願いします」と手を合わせ祈るクロに、アイリーンは糸を飛ばし天井近くまで一気に上昇し逃走する。


 クロたちは特訓を終えリビングに集まり個人の弱点や課題を見出すことに成功した。クロはシールドを使わなければ初心者冒険者に毛が生えた程度であり、ルビーは一撃の破壊力は高いが大ぶりの一撃を躱された後が隙だらけになる。アイリーンの目立った弱点はなく、遠近中距離とバランスよく戦えいう事なしの花丸判定であった。

 どれもビスチェによる判定でありビスチェ自身はAランク冒険者としての実力があると自負している。


 以外にも頑張ったのはポンチーロンの三名とビスチェの戦いだった。ロンダルが弓で先制し、チーランダが二刀流のダガーでビスチェの突きを受け切り、ポンニルが大剣で盾役に入りロンダルが援護に入るというチーム戦を披露し、魔法禁止なルールでビスチェを圧倒したのだ。


「ま、魔法がありなら……」


 悔しそうに言うビスチェだったが、「剣の腕だけならチーランダと互角かも……」と呟きチーランダは跳ねて喜びを表した。


 最後に行われたシャロンの模擬戦はというと、素手でビスチェの前に立ち初突きを見切り、手を押さえ封じながら小手返しの要領で投げ体を崩しながらも、投げた本人は体を震わせその場で鼻血を吹き出したのだ。


 慌ててアイリーンが回復魔法を掛け鼻血の止血を試みるも、顔は青くなりぐったりとして静かに横になったのだ。


「す、すみません……僕は女性が怖くて苦手で……あの、少し時間を貰えれば元に戻りますから……」


 青い顔をして鼻を押さえるシャロンに、クロはおしぼりを魔力創造で作り出し手渡す。

 

「誰しも弱点はあるからな。少し休んだら屋敷に戻ろうな」


 シールドを展開し日陰を作ったクロに申し訳なさそうな表情でお礼を言うシャロン。


「それならその特訓もすればいいわね! 習うより慣れろ、とかいうし」


 その言葉に顔を更に青くし股間を両手で押さえるシャロン。眉を吊り上げるビスチェ。


「次は私なのだ!」


 空気を読まずに戦う気満々のキャロットはその場で魔化し、大きなドラゴンが姿を現すのだった。








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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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