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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第六章 大規模討伐と秋の足音
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夕食とクロの価値



 テーブルには猪の肉を使用した冷しゃぶサラダがドンと置かれ、春巻きとブルーリザードを使った唐揚げに、魔力創造で作り出したトマトの缶詰とブルーリザードの肉で作ったミートソースに、こっちの小麦粉と卵で練って作ったコンキリエという貝の形をしたものと合わせたミートスパがテーブルを飾る。


「見た事のない料理ばかりね。サラダだという事はわかるけど……」


「これは貝の殻?」


 料理を前に頭を傾げるカリフェルとシャルロ。料理を手伝ったアイリーンとルビーが冷しゃぶサラダとパスタを取り分けながら口を開く。


「貝の形に見えて良かったです。このコンキリエは私たちが形を作りました」


≪意外と簡単に作れて楽しかったですね~≫


 取り分けられた料理を前にビスチェが白ワインをアイテムボックスから取り出しカリフェルのグラスに注ぎ入れる。


「シャルロも白ワインを飲む?」


「い、いえ、僕は……」


「あら、成人してお酒が飲めると喜んでいたのに飲まないの?」


 微笑みながらシャルロへと声を掛けるカリフェル。シャルロは少し困った表情でからのグラスに視線を向ける。


「それなら軽い酒にするか? レモンハイとかは飲みやすいぞ」


 クロのアイテムボックスから魔力創造で作り出したレモンハイの缶をシャルロの前に置き、缶の開け方を説明するとキラキラとした瞳をクロへと向ける。


「あ、ありがとうございます……」


「ほら、ポンチーロンはどうする? 強い酒がいいならウイスキーとかもあるぞ」


「私はビールがいい~前に飲んで美味しかったよ~こう、喉がシュワシュワ~って」


「ビールは苦いがシュワシュワとした感じがいい! 私もビールを頼む」


「ぼ、僕はまだ成人してないので……」


 ポンニルとチーランダはビールを所望しクロが缶を渡すと慣れた手つきで開けグラスに注ぎ入れ、ロンダルにはオレンジジュースのペットボトルが渡され白亜が鳴き声を上げる。


「白亜には別のをやるから、まずはちゃんと料理を食べような。キャロットもだぞ」


「わかっているのだ! ジュースから飲んでしまうとお腹がいっぱいになるのだ! 美味しい料理を溜める為にもジュースは後なのだ!」


「キュウキュウ~」


 キャロットの横で甘えた声を上げる白亜だが目の前のパスタを爪で引っ掛け口にすると尻尾をぶんぶんと振り口に合ったようでホッとするクロ。キャロットも春巻きを口に入れるとパリパリとした食感と熱々の餡にハフハフしながらも満足気に口に入れる。


「あら、これはワインなのね。白いワインは初めて見たし美味しいわね。香りが強くて適度な甘みと酸味……これは美味しいわ。エルフェリーンさまが最高のお酒というのも納得ですわ」


 白ワインに口を付けたカリフェルは妖艶な笑みで白ワインを褒めドヤ顔を浮かべるビスチェ。だが、エルフェリーンはにっこりと笑いながら氷を入れたグラスにウイスキーを注ぎ入れる。


「白ワインも美味しいけど、僕がお勧めするのはこのウイスキーだよ。冷たくても暖かくてもシュワシュワと割っても美味しいからね~今日は少し暑かったから氷を入れたウイスキーを味わってくれ」


 目の前に置かれた琥珀色のウイスキーを手に取ったカリフェルはその色を見つめ匂いを確かめる。


「あら、あらあら、素敵な香りね……それに色が綺麗だわ……」


 うっとりと見つめていたがグラスを傾け口にすると目を見開く。


「こ、これは……酒の力強さを感じるわ……それに魔力……ああ、そういう事か……このお酒はこの世のものではないのね……クロといったかしら」


 ポンニルとチーランダに新しいビールを渡していたクロを呼ぶカリフェルは妖艶な笑みで手招きし、それを注意深く見つめるビスチェとアイリーンにルビー。エルフェリーンはウイスキーを口にしてからしゃぶしゃぶサラダを食べ表情を溶かす。


「はい、何ですか?」


「白ワインもそうだったけど、このウイスキーはこの世界のお酒じゃないわね?」


 その言葉に平静を装いながらも半歩後ろに下がるクロ。


「それにこのお酒は魔力で作られているわ。時間が経つと魔力が薄れるのか、白ワインよりもウイスキーの方が魔力を強く感じられたわ………………違うかしら?」


 半歩下がったぶんカリフェルが立ち上がりウイスキーのグラスを揺らし、耳心地の良いグラスと氷の音が響き渡る。


「それは、その………………」


「それだと問題があるのかしら?」


 ビスチェも立ち上がり腕を組み仁王立ちでカリフェルへ意思を込めた視線を向け、アイリーンもいつでも動ける態勢へと移り、ルビーはあわあわしながらもウイスキーを口にし、ポンチーロンは料理を取り分けた皿とビールを持つと静かに席を離れる。


「問題は全くないとは言えないわね……完全な魔力を食せるのは精霊か魔物ぐらいなものよ。空気中に漂う魔力を摂取して生きている精霊が貴方のような存在を放っておくとは思えないわ。それに私たちサキュバスからしたらエナジードレインとほぼ同等の栄養価……その意味が解るかしら?」


 サキュバスと呼ばれる種族は生物の生きるエネルギーを奪って己の力とする事ができる。もちろん、普通の食べ物を摂取して生きる事もできるがエナジードレインと呼ばれる生きた精を吸収して、自身を回復させたり魔力を回復させたり己の力を高めたりできるのである。

 サキュバスが豚の国や他国を支援する目的は精の採取にあり、エナジードレインさえできれば水すらも必要としない特性があるのだ。国としては商業に力を入れているサキュバニア帝国として外貨を集めつつ、他国で商売をしながら精を集めているのが現状である。


 エナジードレインで吸収した栄養価=クロの魔力創造で作り出したものと口にしたカリフェルはクロからシャルロへ視線を移す。


「貴女が女の子だったらクロをお婿にもらうよう仕向けたのだけどね……」


 その言葉にレモンハイを恍惚の表情で飲んでいたシャルロは壮大に咽ながらも顔を真っ赤に染める。


「ゴッホゴホ、な、何を急にっ!?」


「ほら、水とタオルだ。男同士なんだから変な動揺するなよ。あっちの怖いお姉さんたちが変な妄想するからな……」


 水を受け取り一口飲むと息を整えるシャルロ。クロはタオルで塗れた椅子やらを拭き上げつつも、鼻息荒くこちらを見つめて来る腐った乙女たちにため息を吐く。


「クロさん……ごめんなさい……」


「ん? ああ、気にするなよ。それよりも大丈夫か?」


「は、はい……母さんが急に変な事をいうから……すみませんでした……」


 シュンとするシャルロにクロは新しいレモンハイの缶をアイテムボックスから出すと手に持たせ、濡れたタオルを持ち脱衣所へ足を向けた。


「あ~あ、逃げられちゃったわね……それしても魔力でお酒を造るスキルかしら?」


 顎に手を当てて頭を傾けるカリフェルにエルフェリーンがウイスキーをテーブルに置き口を開く。


「カリフェルは相変わらずだね~でも、僕のクロは誰にも譲らないからね~」


「あら、それを決めるのは彼ではなくて?」


 慎重さもある二人が視線を合わせカリフェルが見下ろす形になるがエルフェリーンはいつものように口を開く。


「ふふふ、そうかもしれないけど……卑怯な手を使ったら僕は怒るからね。カリフェルは欲しいものを手に入れる為なら手段を問わない所、僕は好きだよ。でも、僕もそれは同じだからね~」


 笑顔で話すエルフェリーンと対峙していたカリフェルは、細い尻尾を体に巻き付け両手で包み込み小刻みに震えながらも口を開く。


「そ、それは解っているわ。別に取る心算はないけど……彼の心配もするべきね……変な精霊に魅入られたり、私たちのような魔力を求める者たちに襲われたり、下手したら神にだって……ああ、それで……なるほど……」


「ん? 何を一人で納得しているのかな?」


「いえ、国を出る時に意味の分からない神託を受けたという話が噂になったのよ。クロと呼ばれるものを教会へ連れて行くようにと……それが彼であり、クロな訳か……」


 どうやらサキュバニア帝国でも複数の神からの神託があり、お寿司と日本酒を食べる為にクロを教会へ来させようとしたのだろう。


「あはははは、神は多くいるからね~そっちの国にまで神託が送られたのか~その件は片付いたから問題ないよ~」


 エルフェリーンが笑いながら教会から天界へ上がり寿司と日本酒を振舞った話をすると、カリフェルとシャルロにポンチーロンは目を見開き驚愕しながら耳を傾けるのであった。







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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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