女帝からのお願い
「これはこれは、驚かせてしまい申し訳ありません。私ども妖精族はこの度エルフェリーンさまの保護して頂きまして、宜しくお願い致します」
妖精のリーダーからの言葉に口をあんぐりと開け固まっていた『若葉の遣い』のリーダーであるポンニルはハッとしながらも頭を下げる。
「えっと、宜しくお願い致します。妖精さまをこんなにも近くで見る事ができ光栄です」
「我々は本来隠れて生活をしていますから……こうして多くの種族の前に出る事は稀でしょう」
和やかに挨拶を交わす妖精とコボルトの冒険者。他の者たちはチョコを口にして表情を蕩けさせており、集まってきた妖精たちに同じようなチョコを振舞うクロ。
「そろそろ白亜とキャロットも起きるかな」
オレンジに染まる窓の外へと視線を移したクロは立ち上がりキッチンへと向かい、それを追いかけるルビーとアイリーン。
「ふわぁ~よく寝たのだ……ん? 知らない人がいるのだ」
「キュウ~」
大きな欠伸をしながら起きた一人と一匹は見知らぬ者がチョコを食べ表情を溶かしている事を視界に入れ頭を傾げる。
「貴女がドランのお孫さんね。それに白亜……白亜がここにいるわね……なぜ?」
「僕に預けにきたんだよ~理由は聞いてないけど、五年ほどで帰って来ると言付けを受けたよ」
「キュウキュウ」
「うんうん、早く帰って来るといいね~」
「チョコなのだ! これは甘くて美味しいのだ!」
ソファーから起きたキャロットは白亜を抱き上げテーブルに出されているチョコを見つけ目を輝かせると走り寄り、ひとつを白亜の口に入れもう一つを自身の口へと入れると表情を溶かす。
「これ、美味しいですがどこで売っているのでしょうか? それともここで作っているのですか? お土産に買って帰れたら嬉しいのですが……」
シャルロの言葉に返答に困るビスチェ。エルフェリーンが口を開こうとした所で先にキャロットが口にする。
「クロが作ってくれるのだ! クロはばあ様にも勝った料理の天才なのだ!」
「キュウキュウ!」
なぜかドヤ顔を向けるキャロットと白亜に、カリフェルは肩を揺らしシャルロも笑い出す。
「本当なのだ!」
「キュウキュウ!」
「いえ、ごめんなさいね。疑っている訳じゃないのよ。あなた達がそっくりな顔をするから笑ってしまったの、ごめんなさいね」
「僕もすみません。種族は違うのに同じような顔をしたのが面白くて……」
王家二人の謝罪にキャロットは「えへへなのだ」と謎の照れを見せ、ポンチーロンの三名は王家の謝罪を受け照れているキャロットに驚愕する。
「女帝が頭を下げて……」
「キャロットさんは大物ね!」
「何だか凄い事になっていませんか……」
そんな言葉が漏れる冒険者たちを余所に急に立ち上がったビスチェは口を開く。
「そうだわ! みんな長旅で疲れているでしょうからお風呂を入れてくるわね! ポンチーロンの三人もゆっくりお湯に浸かって疲れを癒すといいわ! アイリーンが設計したお風呂は凄いのよ! 楽しみにするといいわ!」
そう言葉を残して走り去るビスチェにポカンと口を開け見送るポンチーロン。カリフェルは笑顔で見送りシャルロはお風呂という単語に表情が明るくなる。
サキュバニア帝国からはグリフォンの力を使い、空を飛んで陸路を進むよりは早いとしても一週間以上も掛かり、その間はお湯で体を拭く程度の湯浴みしかできなかったのだ。
「ゆっくりお湯に浸かれるのは嬉しいです」
「うんうん、それなら良かったよ。クロたちが料理を作ってくれるがまだ時間も掛かるだろうから先にお風呂に入るといいよ~君たちも今日はゆっくりとお湯に浸かってくれよ~自慢のお風呂なんだぜ~」
「うふふ、昔は一緒に入りましたね。あの頃が懐かしいです」
「そうだね~あの頃はみんなでお風呂に入って旅をして……本当に楽しい日々だった……でも、今でも楽しいんだぜ~この前はダンジョンで農業をする方法を見つけた学者をアンデットにしたし、その学者が新しい神になったんだ! 天界で会った時は驚いたけど、ん? どうかしたかい?」
冒険者三人は顎が外れるほど口を開き、シャルロも目を見開き驚愕の表情を浮かべ、カリフェルだけは笑いながら口を開く。
「師匠は今でも冒険をしているのですね。天界とか私は行った事がありません」
「あはははは、僕も数回しか行った事はないよ~それよりもカリフェルはお酒が好きだったよね?」
「はい、少量ですが毎晩飲んでいますわ」
「なら、今晩は美味しいお酒を飲ませるよ! クロのお陰で美味しいお酒があるからね~ドランやラルフも認めた最高のお酒を飲ませるぜ~」
微笑みながら話すエルフェリーンにカリフェルも笑顔へとなり互いに笑い合う。
「うふふ、それは楽しみですわ。ここ最近は新たな豚の魔王に何度も相談されたり、飢饉に向けた対応に頭を悩ませたりしていて、師匠からの連絡を受け逃げてきましたの……そういえばここはターベスト王国ですわよね? もし可能なら少しでもいいので豚の王国に復興支援をお願いできませんか?」
「それは構わないけど……ああ、戦争の後始末か……」
「はい……魔王は討たれましたが聖王国が復興に力を貸して、近隣である我々サキュバニア帝国にも多少なり火の粉が……我々は人族あってのサキュバスですから手を貸す事に……はぁ……あの阿呆が人族に戦争など吹っ掛けるから、こっちまで迷惑を被り……」
深い溜息を吐きながら勇者に討たれたオークの魔王を思い出すカリフェル。その話をキッチンで手伝いながら耳に入れ顔を歪めるアイリーン。
「あの子がした事は明らかに間違いだったね~でも、そのお陰でクロが家に来ることになったのも事実だからね……僕から言うと王たちは無理をしてでも復興支援をするだろうから、僕はカリフェルを会わせるだけにするよ」
「はい、ありがとうございます。それと、もうひとつお願いがありまして……」
「お願い?」
首を傾げるエルフェリーンにカリフェルは口を開く。
「はい、豚の国の東部から東に向かいイナゴの大量発生が確認でき、できればイナゴ退治に手を貸して頂きたく……私も戦いますが、私は一対一なら負けない自信がありますが……」
「ああ、それは確かに……イナゴは群れで襲ってくるからね~カリフェルとの相性が悪いよね~」
「はい……大規模魔法はどうしても……うちと聖王国からは魔導士と冒険者を増援させるそうですが、連邦はどうもきな臭く……大規模討伐には火力重視……どうかお力添えをお願い致します」
「大変だね……ん? イナゴの討伐なら戦利品はどうなるのかな?」
「それに関しては豚の国の領土で焼き払う予定ですので……持って帰れる分は好きなだけとしか……」
「うんうん、そうなるよね~この仕事は受けるよ! イナゴの炭はできるだけ回収して蔓芋の肥料にしよう! ラライやドランにキュロットにも話をすれば喜んで参加すると思うから明日は二人にも、」
「あの、それでしたら我らも参加しても宜しいでしょうか?」
そう声を掛けたのは妖精のリーダーであり、何か目的があるのか手を上げエルフェリーンの前を旋回する。
「君たちも参加したいの?」
「はい、蔓芋の管理というなら我らが、それに我らもキノコを育てる為には肥料が必要でして……イナゴの炭はとても良い肥料になりますから」
「ふふふ、小さいけれど頼もしい援軍だわ。宜しくお願い致します」
目の前で旋回する妖精のリーダーに頭を下げるカリフェル。執事役のシャルロも同じタイミングで頭を下げるのであった。
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