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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第六章 大規模討伐と秋の足音
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旧友の訪問とチョコ



「紹介するよ! 彼女はカリフェル、サキュバニア帝国の現役女帝だぜ~これでも僕の弟子だったこともあるんだ!」


 玄関へ向かったクロたちの前に到着したポンチーロンたちと再会を喜んでいると、後ろから大きな声でグリフォンの馬車から執事の手を取り降りてきた色気を放つピンク色の艶のある長髪を風に靡かせた凹凸のあるボディーの女性を紹介するエルフェリーン。その手を取り整った顔立ちの執事服を着た者がクロたちに会釈をする。


「凄い胸ですね……」


 ルビーが圧倒されるのも無理はなく、これぞサキュバスというイメージを体現した姿をしているのだ。胸元が大きく開いた青いワンピースに黒い皮のブーツを履き、黒く細い尻尾が落ち着きなく動き回っている。


「彼らが今の弟子なのですね」


 柔らかい笑みを浮かべるがその瞳はクロをロックオンしており、ロックオンされたクロは愛想笑いを浮かべながらもグリフォンが気になっていた。ワンボックスサイズの胴体に確りとした四本足からは長い爪が見て取れ、凛々しい顔立ちには鋭い嘴があり毛並みも美しく光沢のあるキャラメル色と真白な部分に分かれ、何よりも力強い瞳に引き付けられる。


「あらあら、私よりもこの子が気になるのかしらね」


 そう口にしながら左手でグリフォンの喉を優しく撫でるカリフェル。すると執事が一歩前に出てカリフェルとグリフォンの前に立ち両手を広げる。


「フォンフォンにいやらしい瞳を向けるな!」


 やや高い声で叫ぶ若い執事にグリフォンにいやらしい目つきを向けていたと思われたクロは多少傷つき、エルフェリーンとカリフェルにルビーは笑い出し、ビスチェはクロのお尻へと素早い蹴りをお見舞いし響き渡る破裂音。


「グリフォンに欲情するとか、どんな変体よ! あのでかい乳に欲情しろとは言わないけど、グリフォンに欲情とかどんだけ器用なのよ!」


 膝から崩れ落ちお尻を押さえ蹲るクロ。ビスチェは呆れた顔をしながらもその姿に肩を震わしはじめ、まわりの乙女たちも笑い声を上げる。なかでも女帝であるカリフェルのツボに入ったのか大きな胸を揺らしながら笑い声を上げた。


「ううう、理不尽だ……」


「あ、あの、大丈夫ですか?」


 両手を広げグリフォンを庇っていた若い執事から心配されるが、お前が原因だろと思うクロ。


「ああ、大丈夫だが……痛すぎる……いいか、俺はグリフォンに欲情とかしていないからな……はぁ……」


≪おやおや? その態勢は……もしかしたらですか!? もしかしたらですか!?≫


 目の前に文字が浮かび額をがっくりと落とすクロ。血まみれのアイリーンが屋敷の裏から現れ頬を染めながらハァハァと息遣い荒く何やら期待した瞳を向けており、慌てて離れる若い執事。


「頼むから少しそっとしておいてくれ……」


 お尻の痛みと心の痛みに耐えながら声を出したクロにアイリーンが手を差し伸べ回復魔法を掛けると光が包み込み、次第に痛みが消えて行く感覚に顔を上げるクロ。


≪ひとつ大人になりましたね≫


 笑顔を向けてくるアイリーンに「そうじゃねーよ!」と叫ぶのだった。








「改めて自己紹介するわね! 私はカリフェル・フォン・サキュバニアよ。これでもサキュバニア帝国の現役トップ。こっちが息子のシャルロよ」


「シャルロです。宜しくお願いします。エルフェリーンさまが偉大な錬金術師だと何度も耳にしていますし、数々の特効薬を開発された事は尊敬しております。我が国の錬金術ギルドにも技術提供して頂きありがとうございます」


 場所をリビングに変えた一同は冷たい麦茶を飲みながら自己紹介をしていた。


「うんうん、僕は偉大なる錬金術師だぜ~それは間違いないけど技術提供についてお礼は要らないぜ~その技術を使って民を守るのが王族としての務めだからね~僕の技術はその一つに過ぎないからどんどん使ってほしい」


 エルフェリーンの言葉に頭を下げるシャルロ。他の者たちはそんな師匠としての姿に尊敬の瞳を向ける。


「ふふふ、師匠は変わらないですわね。一緒に冒険をした日々を思い出します」


「あははは、僕は僕だからね。前よりも物忘れが激しくなったけど、そう簡単には変わらないよ~そうそう、ドランは近くのゴブリンの村で日本酒を作って、ラルフは闇ギルドを追っているよ~ここ半年もしないうちにみんなの元気な顔が見られて僕は嬉しいぜ~」


「まぁ、ドランにラルフはご健在ですか……月日が経つのは速いものですが本当に懐かしく思いますわ……」


「そうだよね~しかも、ここも立て直したからね~見てくれよ、この吹き抜けにひんやりとした空気の流れを! 外は汗が止まらなかったけど過ごしやすいだろ~」


「それには驚きました! 氷の魔法を使って冷やしているのかと思いましたが違うのですか?」


 食いついたのはカリフェルではなく息子のシャルロでありキラキラとした瞳を向け興味があるのだろう。


「確かに地下のむろと繋がってはいるけどね~そこの冷えた空気をプロペラと呼ばれる羽で上に運んでいるんだよ。プロペラは天井に付けたアレだよ」


 天井で回るプロペラを指差すエルフェリーンと同じように上を見上げるカリフェルとシャルロ。魔石を使い回転するプロペラで下から空気を持ち上げ、上に溜まった暑い空気を外に追い出しているのだ。


「これはクロが教えてくれたんだぜ~アイリーンも協力して完成させた技術だ」


「へぇ~今の弟子たちは優秀なのね~私が弟子の頃はくだらない悪戯に情熱を燃やしていたけど、あむあむ……これ、美味しいわ! びっくりするぐらい美味しいけど、これって……」


 お茶菓子に出していたチョコを口に入れたカリフェルは驚きながらエルフェリーンへ視線を向け、ドヤ顔をするエルフェリーンからクロへと視線を向ける。


「本当に優秀な弟子がいるみたいね~ほら、シャルロも頂きなさい」


「は、はい、では……ふわぁ~甘くてほろ苦くて美味しいですね」


 チョコをひとつ口に入れたシャルロのリアクションにエルフェリーンとビスチェはドヤ顔を浮かべ、クロはまだ幼さの残るシャルロの喜ぶ表情に用意してよかったと思いながら麦茶のおかわりを注いでまわる。アイリーンだけは少しだけ鼻の穴を膨らまし息が荒くなっているがそれにツッコミを入れる者はいない。


「口に合ったのなら良かったよ~」


「ほら、ポンチーロンも遠慮せずに食べろよな」


 同じテーブルに同席しながらも体をカチカチに固め緊張している冒険者の三名にチョコを進めるクロだが、三名は同じ席に王族が座っているという現実に魂が抜けかけていた。


「いえ、私らには恐れ多いというか……」


「うんうん、冒険者な僕たちには骨付き肉の方が嬉しいというか……」


「なら私は頂くわね。あむあむ……むふぅ~これは危険だわ! 若葉の遣いの分は私が処理するからね! あむあむ……」


「ちょっ! チーランダ! マナー違反をするな!」


「そうだよ姉ちゃん! 僕たち冒険者が同席していること自体が大変な事なのに、不敬になるよ!」


 次のチョコを手にしようとしたチーランダのツインテールの右を持ち止めるポンニルと左を持ち止めるロンダル。チーランダはあと少しで届きそうになるが、手が空をかすめソファーへと引き戻された。


「あら、遠慮なんてしなくてもいいわよ~ここでは冒険者だろうが王族だろうが神だって同列に扱われるわ」


「あははは、その通りだよ~権威なんてものは城と戦場で放つものだからね~ここはみんなでワイワイと楽しむ場所さ」


「だから遠慮なんてするなよ。ほら、ロンダルも口開けろ」


 その言葉にクロを兄貴と慕うロンダルは小さな口を大きく開けるとチョコを放り込まれ、口の中で溶けて行くチョコに表情までも蕩けさせ、それを見ていたビスチェとアイリーンの鼻息がエンジンを吹かす。


「甘いですぅ……ふわぁ~こんなにも美味しいものがこの世にあったのですね……」


「また、マヨみたいなものじゃないだろうね……」


 そう呆れた顔で口にするリーダーのポンニルだったが、視界の隅を飛び去る妖精の姿に口をあんぐりと開け固まるのだった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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