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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第五章 慕われる者たち
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奉納されたどぶろく



「これがどぶろくと呼ばれる日本の酒……匂いは発酵させたパンに似た香りが少し混じっているが……うむ、悪くない。若干の酸味と甘さが奥にあり強さも程よいな。これが一週間程度で作れるとは恐れ入る……」


 天界では酒の神イストールが奉納されたどぶろくを飲み感想を呟く。その後ろでは女神ベステルや叡智の神ウィキールに愛の神フウリンや武具の神フランベルジュがどぶろくで乾杯し口を付ける。


「悪くないけど、これなら日本酒の方が好きだわ」


「私はこれも好きですぅ。甘さがあって程よい酸味が後味に残り、どんな料理にも合いそうですぅ」


「私もこれの方が好きかもしれないな。日本酒はスッキリとし過ぎていてな」


「ぷはぁ~これも悪くない! アイリーンが白薔薇の庭園を使い報告してくれ色々とデータが取れましたわ。やはり日本刀は一瞬で相手を切り伏せる事に特化し、鍔迫つばぜり合いなどさせず神速と呼ぶべきスピードで一刀両断しなければ刃がもたない……刹那の瞬間にこそ輝くのですわ!」


「ギガアリゲーターだっけ、あの硬い皮を綺麗に切り裂いていたわね。白薔薇の庭園に糸を纏わせリーチを伸ばして手の一閃。あれは見事だったわ!」


「白薔薇の庭園に魔力を付与させつつ打ち下ろしの一撃で首を刎ねたのは素晴らしかったが……」


「あれって、白薔薇の庭園は必要だったのですかぁ? 魔糸を魔力で強化した一撃でも倒せたと思いますけどぉ……それに実際に白薔薇の庭園が切り裂いたのは深さ三十センチもないですよねぇ。それって魔糸で残りを切り裂いたって事ですよねぇ」


 愛の女神フウリンの言葉に顔を引き攣らせる武具の女神フランベルジュ。フウリンがいうようにギガアリゲーターの首は数メートルに及び太く頑丈であり、縦に振られた白薔薇の庭園だけでは致命傷にはならなかっただろう。白薔薇の庭園に魔力を纏わせ、魔糸で補強しつつ長さをカバーした一撃によって首が断ち切れたのだ。


「確かに強化した魔糸を首に引っ掛けて勢い良く引けば首が断ち切れたわね。そうじゃなくてもチェーンソーだっけ? 結び目を付けた糸を高速回転させればアイリーンの強化した糸なら首を断ち切れるわ。白薔薇の庭園を使う意味はなかったかもしれないわね」


 冷静な分析をする女神ベステルと愛の女神フウリンの言葉を耳に入れながらもどぶろくをあおる武具の女神フランベルジュは、おつまみに送られてきたアジに開きのような干物を焼いたものを口に入れる。


「これは日本酒の誕生が待ち遠しいな……これよりも完成された味になるに違いない……魚を干し焼いたものも美味いものだな。この酒によく合うぞ」


 マイペースにどぶろくを口にしながら感想を述べる酒の神イストールも、アジの開きに似せて作った干物を口に入れ咀嚼する。


「ぷはぁ~日本刀も日本酒も浪漫なのですわ! 刃紋にバラが現れた時は本当に感動したのです! 確かに魔力を通すと白薔薇が輝き舞い落ちるエフェクトをルーンで刻みましたが、浪漫なのですわ!」


 浪漫だと大声で叫ぶ武具の女神フランベルジュに呆れた顔をする神たち。


「そういえばそろそろ秋になるわね~焼いた栗が食べたいわ……エルフェリーンの所には木がなかったわね……クロなら栗を使った料理とかも作るのかしら……」


 浪漫からマロンを思い浮かべ栗が食べたいと口にする女神ベステルは、女神シールドの展開に気が付き吹き出しを付け文字を張り付けると満足気な表情でどぶろくを口に流し込む。


「何かあったのですかぁ?」


「地上の今頃は真夜中だろう」


 愛の女神フウリンと叡智の女神ウィキールが不思議そうな顔で女神ベステルへ視線を向ける。


「クロが真夜中に月が綺麗だと外に出てたのはいいけど、外に多くのレイスを発見したから私のシールドで成仏させたみたいね。恐らくはエルフェリーンの持つネクロミノコンに誘われたか、成仏したくてクロに引き寄せられたかよ。まったく、私の顔を見てレイスが近寄って来るとか困ったものね~教会へ行きなさいよ!」


「クロの女神シールドは面白い魔術だな。神を模せば呼び出したい神と文字でやり取りができるのだからな」


「あら? 珍しいのが来たわね」


 ノックする音が響き開かれたドアからは黒いオーラを纏った真っ黒なフード付きのローブを深くし、目だけが赤く光り、背中には大きな鎌を背負った女性だと思われる神がゆっくりと部屋の中へと入り深々と頭を下げる。


「死神とは珍しいな。何か問題でもあったのか?」


「お久しぶりですねぇ。しーちゃんと会うのは本当に久しぶりですぅ」


 フウリンの言葉に反応するように勢いよく顔を上げると黒いオーラを放つローブが黒さを増しながらもフードからは白く美しい顔が露わになる。


「フウちゃん酷いよ! どうして教えてくれなかったの! こんなにも美味しいものをみんなだけで楽しむなんて酷いよ! 私も呼んでよ! フウちゃんとは神になる前から一緒に色々と分け合った仲なのにっ! 今日だって美味しそうなお酒を飲んでずるいわ!」


 フウリンに向け赤い瞳を向けながら叫ぶ死神。その瞳は若干潤み今にも大粒の涙が溢れ出しそうであった。


「これは極秘事項だからねぇ。シーちゃんとの友情はあるけど~……そうだ! ほらほら、どぶろくっていうお酒だけど飲む? おつまみも美味しいのよぉ」


 新しいグラスにどぶろくを注ぎ入れ手招きをする愛の女神フウリンにパッと表情を笑顔に変え、死神は潤んでいた瞳を袖で拭き取るとフウリンの横に小走りで向い座るとどぶろくを口にする。


「ぷはぁ~美味しいよ~甘酸っぱくて美味しいよ~二人で分けた金のリンゴよりも美味しいね~」


 その言葉に室内の空気が静止しギロリと瞳を向ける女神ベステル。叡智の神ウィキールは此奴らが犯人かという瞳を向け、武具の神フランベルジュは先日吊るされた恐怖がフラッシュバックしたのか頭を炬燵に突っ込み震える。


「私はこれで失礼しようかな。今日は楽しかったぞ」


 撤退を選んだ酒の神イストールは手にしたどぶろくを一気に飲み干し席を立つ。


「甘酸っぱいで思い出したけど、生前は私の彼氏を寝取ったよね~あれには本当に裏切られたと思ったんだからね~でもでも、浮気は男も悪いし、すぐにフラれてどうしようもない男だって解って良かったよ~

 ああ、このお魚美味しそうだね! 干した魚を焼いたのね~あむあむ、うん、美味しいよ~お魚の味が凝縮されてて、凝縮といえば神力を凝縮して作ったお酒はイマイチだったよね~こっちのお酒の方が美味しいよ~あっ、この鳥のお肉も美味しいね~」


 マシンガンのように喋りはじめた死神。隣では顔を青くしながらフルフルと首を左右に振る愛の女神フウリン。目の前には仁王立ちで長い金髪を逆立てる女神ベステルがおり、金のリンゴが紛失した事件や神力を凝縮して作ったソーマと呼ばれる神の酒の紛失事件の責任を取らされたのだ。


「ほぅほぅ……誰が犯人か解らなかったけど、この二人が犯人だったとはねぇ~どうやって罰を与えようかしら……」


 沸々と湧き上がる怒りに気が付いた死神は白い顔を青くしながらも焼き鳥をどぶろくで流し込むと手を合わせる。


「あれはフウちゃんが絶対に美味しいっていうから、ねっ! フウちゃん!」


 涙目で首を左右に振り続ける愛の女神フウリン。


 この日、天界に二柱の悲鳴が響き渡ったという……







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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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