帰ってきた草原の若葉
「久しぶりに我が家に帰ってきた気がするよ~」
「まったくです……鍛冶場の火も消えてしまっているでしょう……」
「でも、楽しかったわね!」
≪酒の神さまから天使さんたちが遣わされ驚きましたね~≫
「異世界初の日本酒製造だからな……女神シールドに割り込んでお願いされるとか……」
錬金工房草原の若葉へと転移で戻ってきた一行はリビングに集まり、クロが魔力創造で創造したペットボトル飲料を飲みながらゴブリンの村で起こった事を話し合い寛いでいた。
「あれだけ頑張ったんだから美味しい日本酒が作れるといいね~」
「天使が色々と手伝ってくれるし大丈夫だと思うけど……」
「俺としては見た目が子供の天使が酒造りをしている事に問題があると思うが……」
≪そこはほら、異世界ですから。エルフェリーンさまも見た目は幼女ですし≫
アイリーンの言葉に一行の視線はエルフェリーンへと集まり笑顔を向けて来る。
「えへへ、若いだろ~」
「キュウキュウ」
椅子に座りペットボトルのジュースを飲み終えた白亜が鳴き声を上げるとエルフェリーンは笑い声を上げる。
「そうだね。白亜の方が若いねぇ~若く見えて可愛いぜ~」
「キュウキュウ!」
椅子から飛び上がった白亜はクロの胸に飛び込み、頭をグリグリと押しつけながら甘えた声を上げる。
「向こうではキャロットさんとキャロライナさんが面倒を見てくれたが、今日は随分と甘えん坊だな」
「キュウキュウキュウ」
白亜の頭を優しく撫でるクロ。
「白亜は可愛いからクロに撫でさせてあげるそうだよ。僕も撫でてもいいからね~」
コロコロと笑いながら話すエルフェリーン。ビスチェが口を尖らせはじめ、アイリーンはそれを笑顔で見つめる
「私は鍛冶場を確認してきますね!」
ゴブリンの村に一週間ほど宿泊し、狩り勝負や料理勝負に味噌作りと日本酒造りに精を出していたのだ。その間に空から天使が舞い降り酒の神イストールからの遣いだと名乗り女神シールドを発動させたクロは女神ベステルから詳細を窺っていると女神の顔が変化し、発言権を乗っ取り日本酒について熱く語り始め、新たに女神シールドを発動すると女神ベステルが苦笑いしながら「そういう事よ」と適当に話をまとめたのだ。
ゴブリンたちはその場に平伏し、ドランやキャロライナも片膝を付き三名の天使に頭を下げたのだ。
それからは大忙しで酒造りに適した小屋を建て、倉庫を作り、日本酒造りが開始された。天使たちは詳細な日本酒造りを酒の神イストールから教えられており、迷うことなく見本を見せゴブリンたちと作業を行ったのだ。
他にもマーマンたちの住む砂浜にお邪魔しギガアリゲーターのBBQをご馳走したり、妖精たちの引越しの手伝いをしたりと一週間はあっという間に過ぎ去ったのだ。
≪マーマンさんたちの所にはまた行きたいですね~≫
「ああ、こっちでも昆布があって驚いたが服の素材だとはな……」
「クロったらマーマンたちから服を食べるのかと笑われたものね~」
「あははは、文化の違いは仕方ないよ~」
「キュ~~~~」
クロの胸で大きな欠伸をする白亜はそのまま目を瞑り小さな寝息を立てはじめる。
「ふわぁ~僕も少し疲れたからお昼寝しようかな~」
「そうだ! 私は庭の手入れ! 水を撒かなきゃ!」
一週間も出かけていた事もあり薬草畑の世話をしていたビスチェは慌てて外へと走り出す。
≪私も罠を見回ってきますね~≫
アイリーンも糸で作った罠の様子を見に外へと向かい、残ったのは腕に抱かれて眠る白亜とテーブルで自身の腕を枕に寝息を立てはじめたエルフェリーン。クロは立ち上がり白亜をソファーに寝転がすと近くにクッションを置き、手を伸ばした白亜が自然とそれを掴む。
「やっぱり何かに掴まっていないと不安なんだな……白夜さんが早く帰ってくるといいが……」
「来たのだ!」
勢いよくドアが開かれ大きな声がリビングに響き渡り、クロは眉間にしわを寄せながら人差し指を立て唇に添える。
「ん? どうしたのだ?」
キャロットが不思議そうな顔で首を傾げると寝入っているエルフェリーンと白亜に気が付き「ごめんなのだ……」と小さく言葉を漏らし、背負っていた大きな袋を静かに置くと白亜の眠るソファーに腰を下ろして寝顔を堪能する。
「ドランさんとキャロライナさんは来なかったのか?」
「二人はもう少しゴブリンの村で手伝うと言っていたのだ。世界初の日本酒誕生の瞬間に立ち会いたいと意気込んでいたのだ」
「そうか……ん? キャロットは一緒じゃなくてもいいのかよ。世界を見て回る旅は?」
「中止になったのだ! アタシが白亜さまの傍で巫女としてお世話するのだ!」
憧れていた古龍の巫女という職に就けた事を喜びテンションが上がった為か大きな声で叫ぶキャロットに、クロは再度人差し指を立て唇に当てると慌てて両手で口を押える仕草を取る。
「まったく……嬉しいのは解るが静かにな……それじゃ、これからも宜しくな」
「わかったのだ!」
元気よく肯定するキャロットに眉間を押さえるクロは、これ以上話していると一人と一匹が起きてしまうと思いキッチンへ移動する。
「作って見たかったんだよな~」
そう声に出し米を洗い始め水で浸す。同時進行で夕食の準備をしながらもキャロットが正式に一緒に住むことになり、歓迎会でも開いた方がいいのかと思いながら手を動かす。
マーマンたちから頂いたブリに似た魚を捌き内臓を処理し終えると中骨と頭を網に乗せ焼き、火が入った所で鍋に入れ煮込み出しを取る。
「半身はフライにしてタルタルを添えて、煮魚とかも食べたくなるよな~いや、つみれにしてスープに入れるか」
手際よく一口サイズに切り揃え塩コショウを振り下味を付け、残りはゴリゴリとすり鉢に入れ潰して行く。
≪お魚の匂いですね~今夜は海鮮鍋ですか?≫
目の前に現れた文字に振り向くと笑顔のアイリーンがおり頭と肩に妖精を乗せていた。
「おいおい、妖精を誘拐してくるなよ」
≪庭で会いまして、夕食は妖精さんの歓迎会ですよね!≫
その言葉に妖精たちも近くに移住した事を思い出し、料理の量を増やす事が決まりアイテムボックスからもう一本振りに似た魚を取り出すクロ。
「今日は豪華に行くからな~妖精たちも期待しろよ~」
自らハードルを上げて料理に取り組むクロに、妖精たちはキャッキャと喜びの声を上げ吹き抜けのリビングを飛び回る。
「ううう、丹精込めて育ててたのに~」
肩を落とし入ってきたビスチェの頭や肩にも妖精がいるがアイリーンとは違い、慰めるように頭を撫でたり頬を撫でられたりと励ます姿が目に入る。
≪枯れてしまったのですか?≫
「うん、少しだけど……今度からは水の精霊にも手伝ってもらって枯らさないようにするわ……」
「ここ最近は暑かったし雨も降らなかったからな……」
「うん……」
肩を落としたビスチェはリビングに向かい空いているソファーに腰を下ろすとそのまま横になり慌てて飛び立つ妖精たち。
「僕たちもこれから水やりを手伝います!」
「妖精は風魔法と水魔法が得意ですからね~」
小さな妖精たちに慰められるビスチェを視界に入れながら魚を捌きフライの準備を進めるクロ。アイリーンも手伝い衣を付け油で揚げて行き料理を完成させているとルビーもリビングに現れ手伝いを申し出ると芋の皮むきなどを手伝い料理のスピードが上がり、日が落ち始める頃にはテーブルいっぱいの料理が完成するのだった。
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