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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第五章 慕われる者たち
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稲刈りの終わりとグレートウルフの肉



「これでやっと終わったかな……」


「流石に三回も稲刈りをするとは思わなかった……」


「米は凄いな! 三度も育つのか!」


「米の再生能力には驚かされたぞ!」


 嬉しい悲鳴を上げながらくたくたになるまで稲刈りをする事、計三回。あり得ないスピードで育つ稲を刈り取ると、新たに葉が茂り実を付け首を垂れる姿に恐怖を覚えるほどであった。


「本当はもっとゆっくりとしたスピードで育つからな……これは女神ベステルさまからの計らいだろうが……疲れた……」


「僕もくたくただよ~」


≪これはある意味、嫌がらせだっかのかも……≫


「クロ先輩! クロ先輩! お酒造りを! 日本酒造りを!」


「ああ、神託を受け日本酒も作らなきゃならんからな! どうか宜しく頼む!」


 ルビーとゴブリン村長から頭を下げられたクロは夕焼けに染まる空を見ながらも、二人へと視線を変えて口を開く。


「明日にしような。流石に今日は疲れたよ……ああ、作り方は俺も作った事がないからな。まずはドランさんたちと一緒に倉庫やら製造場所やら大きな樽やら作らないとな。米は乾燥させてから……ビスチェが精霊に頼んで乾燥させていたっけ……」


 ビスチェが夕焼けのなか干してある稲を前に一仕事終えた顔で額を拭う姿に一瞬見惚れるクロ。


≪やっぱりビスチェさんは美しいですね~≫


 飛んできた文字を掴み明後日の方角へ投げるクロは、魔力創造を使い高校時代に体験学習で行った米やのパンフレットを作り出すとアイテムボックスのスキルでペンと紙を取り出しマーカーを引き、こちらの言語に翻訳しながら作業工程をまとめる。


「暗くなってきたね~光の精霊よ。少し明るくしてくれるかな」


 エルフェリーンの言葉に光る玉がいくつも浮き上がり、クロはお礼を口にするがペンを動かし続ける。


≪これは凄いですね~日本酒の作り方に醤油の作り方が解りやすく図解されていますよ~≫


「クロが翻訳することでゴブリンたちもこれを読めば日本酒も味噌も作れるんだね!」


「凄いですね……日本酒はカビと酵母に細菌の力が関わっているのですか……さっぱり解りませんが複雑なのですね……」


 書き上げたパンフレットを読みながら日本酒の作り方を確認するルビー。ゴブリンたちも同じように集まり目で文字を追い必要そうなものを考え用意する手はずを整える。


「さぁさぁ、そのぐらいにして夕食だよ~」


「エルフェリーンさま! 食材は狩り勝負の物を使い料理を致しましたのでご夕食に致しましょう。白亜さまの好物のご用意もありますよ」


「キュウキュウ!」


「うわっ!? 急に飛び立つとびっくりするのだ! 白亜さま~待つのだ~」


 キャロライナの声に反応した白亜はキャロットの腕を離れ飛び立ちそれを追うキャロット。ゴブリンや妖精たちも立ち上がり村の中央へと移動をはじめ、大鍋には多くの野菜や肉が煮込まれ醤油ベースのスープが振舞われ、串に刺し焼いたギガアリゲーターの肉からは香ばしい匂いが辺りに広がる。


「クロ、クロ、僕たちもそろそろ行こう! お肉の香りが堪らないよ~」


「クロ! 忘れていたわ! クロの為にお肉を用意したのよ! このお肉を美味しく食べる方法を教えて頂戴!」


 エルフェリーンとビスチェの声に翻訳作業の手を止めるクロ。


「俺の為に用意した肉?」


「そうよ! クロの知恵を使ってグレートウルフを美味しく食べて見たいわ!」


 腰に手を当てドヤ顔で宣言するビスチェに重い腰を上げるクロ。


「グレートウルフって、前に焼いて食べたけど硬かった肉だろ?」


「そうよ! クロならイケる気がするわ!」


≪ここはクロ先輩の力の見せ所ですね!≫


 期待されてもと思いながらも肉を軟らかくする方法ならと頭に思い浮かべたクロは、ビスチェがアイテムボックスから出した大樽に入れられた大量のグレートウルフの肉を見て苦笑いをする。


「お願いね! 期待しているわ!」


≪クロ先輩! 私も手伝いますよ~≫


「グレートウルフはこの辺りには多いからね~ゴブリンたちも美味しく食べられる方法があれば喜ぶと思うよ~」


 エルフェリーンの言葉に気合を入れたクロはまな板を出すとマイタケと玉ねぎを魔力創造で作り出し刻み始める。


「アイリーンは中の肉を細かくできるか? ひき肉にする感じで頼む!」


≪お任せ下さい! シェフのご希望に添えるよう肉を砕きましょう!≫


 ノリノリのアイリーンは魔力で生成した糸を樽に入れるとミキサーのように回転させながら内部で細かく切断して行く。


「おお、そのまま混ぜてくれ」


 そうお願いすると玉ねぎとマイタケを入れ玉子にハーブを入れると、ボウルに牛乳を入れパン粉を入れてふやけさせるとそれも投入し、最後にこの村で作った塩と市販の胡椒をたっぷりと入れアイリーンに混ぜ続けて貰う。


≪クロ先輩! これってハンバーグですよね!≫


「ああ、ハンバーグにするか肉団子にするか迷ってるよ。もう少し混ぜたら味見をして肉臭さが残ってたら肉団子にして揚げて甘酢にすれば臭みが誤魔化せると思う」


≪中華風の肉団子ですね!≫


 キラキラした瞳を向けるアイリーン。ビスチェはというと玉ねぎを刻み始めた所でキャロライナの所へと向かいゴブリン主婦たちと作った醤油ベースのスープを口にしていた。


「ほらほら、クロ! あ~ん!」


 エルフェリーンもギガアリゲーターの串肉をクロの口元へと近づける。香草を使っているのかさわやかな香りが鼻を通り香ばしくも肉汁の封じ込められた串肉にお礼を言って口にするクロ。


「うまっ! これ美味いな! まわりに振りかけてある乾燥させた香草がさわやかで、唐辛子のような少しだけ辛さもあるし、肉汁が湧き出て脂っこい感じを香草がスッキリさせてくれるよ」


「はい、クロ先輩! こちらを飲めば脂っぽさも流されますよ!」


 コップを持ちワインを飲ませようとするルビーに首を横にするクロ。


「翻訳もまだだし、これをちゃんと食えるものにしてからだな」


 生真面目なクロらしい言葉にルビーは残念な顔をするが「それなら仕方ないです」と気を使った笑顔を見せる。


≪これで混ざりましたよ~≫


 アイリーンからの報告に鉄板を用意し焚火台に火を灯すクロ。


「クロ! 俺たちも手伝うぞ!」


「任せろ!」


 ゴブリンたちが今か今かと声を掛けるタイミングを待っており、その言葉にクロは感謝しながら肉を丸めるように指示を出す。


「初めは味見用で肉臭かったら味付けを変えるからな」


「おう、任せろ!」


「今日は驚くような事ばかりだったがクロやエルフェリーンさまたちのお陰で色々助かった!」


「少しでも手伝わせてくれ!」


 ゴブリンたちと肉ダネを丸め空気を抜く作業を手伝ってもらいハンバーグを焼いて行き、両面がこんがりと焼けるとシールド魔法で蓋をして中まで火を入れて行く。


「相変わらず非常識なシールドの使い方だね~料理に魔法を使うとか魔導士たちの頭にはないだろうね~」


「がははは、魔導士じゃなくてもそんな発想はないだろう。薪に火を灯すぐらいにしか使わんよ」


 ワインを口にしながら笑い出すドランに、ブレスで肉を焼こうとした事を思い出すエルフェリーンは笑い声を上げる。


「あはははは、ブレスで肉を焼こうとして天井を焦がしたことはあったぜ~」


 その言葉にドランも思い出したのか顔を赤く染める。


「そろそろいいかな……」


 シールドを解除するとハンバーグから溢れる肉汁の色が透明な事と、ひとつを半分に切り分け中を確認するクロ。


「よし、では味を……うまっ! これなら塩で食べても美味いかも……ああ、でもここは醤油ベースの方がゴブリンさんたちは喜ぶよな」


 醤油の瓶を取り出すと焼けたハンバーグを皿に移し、日本酒と砂糖に醤油を入れバターを入れて煮詰めアルコールを飛ばしたら更に乗ったハンバーグにかけ……


「ハンバーグがない……だと……」


 更にはハンバーグがあった痕跡だけが残りまわりで口をもぐもぐと動かすエルフェリーンにアイリーンにビスチェにルビーとゴブリンたち。

 クロの足元で「キュウキュウ」言いながらハンバーグを求める白亜。キャロットとキャロライナも興味があるのか幸せそうな蕩ける表情のエルフェリーンたちを見つめ、次を早く作れと目で訴えるのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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