女神の謝罪と妖精たちの移住先
「謝っていますけど……」
クロの展開した女神シールドには目を閉じて頭を下げる女神ベステルの姿があり、吹き出しには「ごめん!」と文字が入れられている。
「罪悪感はあるようだね~まったく……はぁ……」
ため息を吐くエルフェリーンに対して妖精たちは頭を傾げ、クロは妖精たちに対して口を開く。
「これは女神ベステルさまからの謝罪です。このシールドに書かれたものはどういう訳か女神ベステルさまから一方的に言葉を送られてきて、」
「それって……使徒さま……」
「クロは女神さまの使い……」
「クロすご~い!」
≪クロ先輩は凄いですよ~崇めるといいですよ~≫
「おいこら! 適当な事を文字で浮かべるな! そこ! 拝むな!」
アイリーンの魔力で生成された文字を読んだゴブリンたちや妖精たちが手を合わせ拝み始め、クロは慌ててやめるように声を荒げる。
「俺は誰かに拝まれるような崇高な人物じゃない!」
「そうよ! ゴリゴリ係よ!」
ビスチェの合いの手に不思議と安心感を覚えるクロ。拝んでいた者たちは顔を上げゴリゴリ係? と頭を傾ける。
「そうそう、ゴリゴリ係だからな。拝んでも意味はない! それよりも妖精さんたちはうちの近くに引っ越すのか?」
「はい、できるなら……我々妖精は花の蜜さえあればどこでも暮らせますが、できる事なら森や空気の澄んだ所が……エルフェリーンさまのような高貴なハイエルフさまの住居の近くともなれば空気が澄んで花々が多いと思案致しました。どうかお願いできないでしょうか……」
妖精のリーダーが頭を下げると他の妖精たちも同じように頭を下げ、クロは判断を仰ぐべくエルフェリーンへ視線を向けると笑顔で頷く。
「それは構わないよ~ああ、近くにキラービーの巣があるから仲良く花の蜜を分け合うようにね~喧嘩はダメだよ~」
「おお、キラービーがいるのであれば多くの花が咲き乱れているはずです! 我らは蝶や蜂の魔物とは意思疎通ができますので問題ないと思われます」
エルフェリーンの契約しているキラービーは魔物の中でも知性が高い存在であり近づかなければ襲って来る事はない。適度な距離感を保つ事で村を守らせているエルフや妖精の集落もあり、蜂蜜を狙う天敵も存在するがそれらから守る契約をすれば定期的に蜂蜜を分けてくれたりもする魔物である。
「そっか、じゃあ移住しよう! 楽しい仲間が増えるのは大歓迎だ! けど、悪戯はダメだからね~」
「はい、子供たちには言い聞かせます……お慈悲を向けて下さりありがとうございます……」
深々と頭を下げる妖精リーダー。他の者たちも喜びを表すためかエルフェリーンのまわりをグルグルと飛び回る。
「良かったな。妖精たちの家を作るのも楽しそ、ん?」
先日新居が完成した事もあり妖精たちの家造りを考えはじめた矢先に、展開していた女神シールドの文字が更新され目を走らせるクロ。
「迷惑料として最初の稲は植えてあげるわ。それとアイテムボックスに麹菌と滅菌結界を送るから使いなさい。だってさ」
「ほうほう、これは面白いね! 麹菌にも興味があるが滅菌結界はどういうものなのか見てみたいよ~クロ!」
嬉しそうな顔をしながらクロのアイテムボックスに送られてきた滅菌結界を出すように促すエルフェリーン。クロはアイテムボックスのスキルを使い取り出すと、三十センチほどの黄金の三角形にはルーンが刻まれ何ともゴージャスな置物である。
「ふむふむ……なるほど……重いね……指定した菌以外は近づけないのか……菌を守るための道具のようだね……」
≪菌を金で守るのですね~≫
アイリーンの文字にツッコム事はなくクロは送られてきた麹菌を取り出すと瓶に詰められた中にはふかふかな菌糸が増えた米が入っており、やや緑色な麹菌は元気に育っている。
「た、大変だ~水田に、水田に~」
見張りゴブリンだろう男が村の広部へと走り叫ぶ姿に稲が植えられたのだろうと思うクロやエルフェリーンたち。
「た、大変なんだ! 水田に規則正しく草が生えた!」
「ああ、それは稲と呼ばれるもので、これから植える予定の穀物だよ」
全力で走ってきた事もあり肩で息をする見張りゴブリンはその場に座り込み、ホッと胸を撫で下ろしながら水を持って来たゴブリン主婦から受け取ると一気に飲み干し息を整える。
「へぇ~これは面白いね~菌以外にも応用が利きそうな魔道具だよ~これをお酒を造る場所に設置すれば不必要なカビが生えなくなるぜ~早めに酒造りをする蔵を建てた方がいいね!」
「それなら我も手伝うぞ! 力仕事なら得意だし、設計はもっと得意だ!」
ドランが酒を片手に叫び歓喜するゴブリンたち。
「我々も丈夫な蔵を建てるのに必要な木材を集めましょう。心当たりのある木がいくつかありますので」
妖精リーダーの言葉に歓喜するゴブリンたち。
「た、大変だ! 草が育った! 実を付けた!」
新たに村の中央に走ってきた見張りゴブリンの叫びに歓声は静寂へと変わり、あんぐりと口を開けるクロとアイリーン。米作りの大変さを多少なり知っているからの驚きだろう。
「それは吉報だね! よし、クロ! 米を刈り取ろう!」
エルフェリーンの言葉にこの日最大の歓声が上がるのだった。
「牧草を刈るのに使っている鎌はもっと大きいが、このサイズだと稲を刈るのに丁度いいな」
「この村でも小型の鎌を作るか!」
「このサイズの鎌なら子供たちも牧草集めが手伝えるな!」
クロが稲刈り用の鎌を魔力創造で作り記憶を頼りに稲刈りをするとエルフェリーンやゴブリンたちが動き出す。アイリーンが魔糸を使い一気に稲を刈り取ると拍手が起き、ゴブリンの子供たちが落ちた稲を拾い集める。
「今日は楽しいね~色々な事があったけど楽しいね~」
笑顔で天魔の杖を振るうエルフェリーンは風の魔力で刃を飛ばし勢いそのままに小さなつむじ風を起こして稲を集める。
「これならすぐに終わるな……俺がテレビで見た稲刈りとは全く違うな……」
≪それ、私も見ていましたよ~男性アイドルが農業とかをする番組ですよね~懐かしいなぁ~てりゃー≫
掛け声と共に飛び出す糸で狩られる稲たち。掛け声といっても文字なのだが威力は抜群だ。
「稲が刈れた天日干しにして……脱穀と精米だな……簡単な方法は機械だけど、確かこんな形の道具で稲から籾を外して、もみ殻はゴムボールで擦ると落とせた気がする」
魔力創造で千歯こぎを呼ばれる装置を作り、すり鉢と野球ボールを作りこの後の脱穀作業に備えるクロ。
次々に干されて行く稲穂を見ながら誰もが笑顔を浮かべ収穫の喜びを知るのだが、これでいいのかと思うクロだったが、細かい事を気にし過ぎるのも体に悪いと思う事で無理やり自分を納得させる。
「乾燥させるなら私の精霊魔法の方が早いわよ!」
ビスチェが宣言するとキラキラと無数の光が輝き精霊たちが体のまわりを飛び交う姿に祈りを捧げ始めるゴブリンたち。ゴブリンたちにも精霊信仰はあり精霊はありがたい存在として認識されている。
≪エルフェリーンさまの次はクロでビスチェが拝まれましたね~私も拝んでくれる人が現れますかね~≫
そんな文字がクロの目の前に止まり思わず笑い声を上げる。
「ははは、アイリーンはもう拝まれただろうに。マーマンさんたちが感謝してただろ」
その言葉にお礼に貰った魚を思い出すアイリーンは文字を描く。
≪新米には刺身か焼き魚だと思います!≫
「酒にする前に味見は必要かもな……折角の新米だからおにぎりにして振舞うのも……おいおい……」
新米の食べ方を考えていると刈ったばかりの稲から新芽が顔を出し、次第にその背丈がグングンと伸びる姿に苦笑いを浮かべるクロ。
≪次の稲穂が……≫
アイリーンやエルフェリーンに妖精たちもその事に気が付き呆気に取られていると、稲が首を垂れ金色に輝く田んぼ。
「みんな! 拝んでないで稲刈りだ~」
エルフェリーンの叫びに稲刈りの第二ラウンドが開始されるのだった。
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