蔓芋料理と妖精の要請
「うんま~い!」
「何これ~何これ~何これ~」
「花の蜜よりこっちの方が美味しいよ~」
妖精たちが歓喜し飛び回る姿に、ファンタジー世界だな~と感じるクロとアイリーン。
≪マーマンさんたちもファンタジーでしたが、背中の羽で飛ぶ妖精たちの姿はもっとファンタジーですね≫
「ああ、異世界だと実感できる光景だよな……」
二人が見惚れる妖精たちの飛び回る姿に一匹の妖精がクロの前でホバリングしながら口を開く。
「クロ様、お話はお伺い致しました。チョコなる甘味をありがとうございます。皆も飛ぶように喜んでおります」
「口に合ったのなら幸いです。妖精さん方は師匠の友人だと聞きましたから遠慮なく食べて下さいね」
「はい、ありがとうございます。時に、クロ殿は純粋な人族で間違いありませんよね?」
「自分は人族だと思いますけど……」
そう言いながら羽を休める止まり木の代わりになればと手を差し出すと微笑みながら手に降り立つ妖精。
「お隣の片は、その……」
≪私はアイリーンです。世界初のアラクネ種ですよ~宜しくお願いしますね~≫
目の前に文字が浮かびそれを驚きながら読むと「アイリーン様ですね。宜しくお願い致します」と深々と頭を下げる。
「アイリーンは喋るのが不得意だから文字で意思疎通をしている」
「魔力を糸に変え文字として表現するのですね。素晴らしく緻密な魔力操作です」
≪いやいや~私からしたら自由に飛び回る姿の方が凄いというか、憧れるというか……おや、蔓芋の料理が完成したようですよ!≫
アイリーンの視線の先にはキャロライナが料理し、ドランが叫ぶ姿が見て取れ両手にはバターで炒められた蔓芋が狐色に輝いている。
「こちらまでバターの香りと蔓芋の香りが流れてきましたね。とても美味しそうです! いえ、美味しいですね!」
口にする前から美味しいと解る蔓芋のバターソテーの香りにクロの手から飛び立つ妖精のリーダー。その後に続き次々と妖精たちがドランの元に集まり大皿からソテーを強奪して行く。
「おいこら、お前たち、ひとり一つだからな~まったく、師匠よりも早く手を出しおって……」
「まだまだ作るから大丈夫よ! 早くクロ殿に味を見て貰い、感想を聞いて来なさい」
「うむ、聞いてくる……」
キャロライナの指令にドランが足を進め一直線にクロの元へと向かい、クロもアイリーンと足を進め互いに出会うがクロの頭に着地する白亜。
「キュウキュウ~」
「その美味しそうなものを寄こすのだ~と言っているのだ」
後ろから白亜を追ってきたキャロットの言葉にクロは頭の上の白亜を捕まえるとキャロットに手渡す。
「寄こすのだはダメだろ~欲しい時は頂戴しないとな~」
「キュ~キュ~」
甘えた声を上げる白亜にクロは串に刺さっている蔓芋のバターソテーをひとつ取ると白亜に手渡し、白亜の頭の上で大きな口を開けるキャロットの口にも入れると満面の笑みを浮かべる一匹と一人。
「自分も頂きますね」
「うむ、妻からは感想を聞いて来いと言われてな、すまんが頼む」
五百円玉サイズに切り揃えられた蔓芋のバターソテーを口に入れるクロ。感想を言わなければと思い口に入れた瞬間に香るバターの風味と適度な塩加減にサクサクとした歯応えの中からしっとりとした芋感を感じ最初に出た言葉は「美味い!」であった。
「おお、そうか! 美味いか!」
「はい、凄く美味いです。バターの香りと香ばしく焼けた外側がサクサクで中がしっとりなのが最高ですね。甘みを引き立てる塩味も丁度よくて……あの、師匠まで口を開けて待たないで下さいよ」
ドランに感想を語っていたクロの横にはエルフェリーンが大きな口を開けながらクロの上着をクイクイと引っ張る。後ろにはアイリーンまで並び口を開ける姿にため息を吐きながらも、冷える前に食べた方が絶対に美味いと思ってか二人に口に蔓芋のバターソテーを入れる。
「うんうん、これは美味しいね~やっぱりキャロライナの料理は最高だよ~」
≪これは……美味しいですね! サクサクでバターの風味とお芋が合わさって、とっても美味しいです!≫
エルフェリーンとアイリーンが笑顔を浮かべるとドランは満足げに頷き去って行く。
「ねえねえ、クロだったら蔓芋をどう料理したかな?」
≪それは私も気になりますね~大学芋かな? スイートポテトも捨て難い! いっそ焼き芋でも~≫
文字を浮かべながら両手を頬に当て妄想に耽るアイリーン。
「そうだな……しっとりした芋だったし、天ぷらにしたらサクサクしっとりで塩をかけて食べれば最高に美味いだろうけど、今の料理と同じような感じになるか……そうなると……ああ、モンブランを蔓芋で作ったら美味しいかもな」
≪何それ、美味しそう! クロ先輩! 今度作って下さいね!≫
目をキラキラさせながら手を合わせるアイリーンに「芋が手に入ったらな」と口にするクロ。
「次が焼き上がったわ。ほら、貴方はみんなに配ってらっしゃい! ゴブリンさんたちもみんなで食べて下さいね」
キャロライナの声が響き子供のゴブリンたちが走って集まり、それを追う主婦ゴブリンたち。和やかな雰囲気に包まれていたゴブリンの村では妖精たちがエルフェリーンのまわりに集まり何やら困っているのか、リーダーの妖精が口を開く。
「エルフェリーンさま! お願いがあります! どうか我々をエルフェリーンさまの住む地に連れて行ってはくれませんか!」
何やら切羽詰まった事を言う妖精のリーダーにエルフェリーンが首を傾げる。
「ん? 移住の話かな? 僕の工房のまわりはそれなりに森もあるけど人族が来ることもあるよ。妖精たちは立派な家が森にあるのだろう?」
エルフェリーンの言葉にリーダーは首を横に振り口を開く。
「木々の洞や地面に穴を掘り家というよりは巣にしていたのですが、それらは先ほど壊滅いたしまして……地面が揺れ木々が移動し我々の村は水没致しました……どうか、安全な土地を分けて頂きたく……」
その言葉を耳に入れ頭に過ったのは先ほど誕生した水田であり、エルフェリーンは眉間に深いしわを作る。
「それって、この村のすぐ近くの森だろ。そんなに近くに住んでいたのかい」
「は、はい……ゴブリンさんたちの住む村の近くにはあまり魔物も近寄ってきませんですし、ゴブリンさんたちは背が低い事もあり下よりも上を警戒する事を知っていますから……あまり視界に入らないで行動しておりました……ですが、先ほど……」
「それは……クロ! 女神シールドを出して文句を言ってやって!」
エルフェリーンの叫びにクロが女神シールドを展開すると、普段の姿ではなく頭を深く下げ吹き出しには「ごめん!」と文字が記載されているのだった。
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