料理勝負二品目
完成した料理がテーブルに並べられまったく色合いの違う二つの料理。
一つはキャロライナの作った空鴨のソテーに色取り取りの根菜とヨーグルトソースが下に敷かれ彩の美しい料理。もう一つはクロの作った鴨南蛮蕎麦。昆布出汁と空鴨の骨から出汁を取り、細い蕎麦の上に汁を掛け薄くスライスした鴨肉はサッと湯がきネギと柚子の皮を添えた料理である。
「これは対照的な見た目になったね~キャロライナはド派手で、クロの料理はシックに見えるよ~」
≪蕎麦は伸びたら美味しくないので、先にクロ先輩の料理から~≫
「そうね! 私もそうするわ!」
「キュウキュウ!」
「美味いのだ! 空鴨の味がする汁と柔らかな身と脂が最高なのだ!」
「こ、これは蕎麦の実を使ったのか!?」
アイリーンの助言もあり鴨南蛮蕎麦から口にすると鴨の旨味に喜ぶ者たち。蕎麦を食べ慣れている事もありツルツルと口に入れ、中でも白亜は尻尾を振って喜びを表すとその可愛らしさに顔を緩めるキャロットとキャロライナ。ひとりドランだけは蕎麦の実を細い面上に加工している事に驚きながらも、あっという間に完食する。
≪うわっ!? これ凄く美味しいです!≫
「皮がパリパリで肉が柔らかく美味しいよ! 脂の甘さは下のヨーグルトソースの酸味が引き立てているね~」
「やっぱりキャロライナの料理は美味しいわ! ドラゴニュートの中でもトップの実力ね!」
「うむ……これを食べると新婚の頃を思い出す……あれは我が……」
ひとり回想に入ったドランはキャロライナの食べた料理に昔の事を呟いているが、他の者たちは紙にどっちが美味しかったか書き込みゴブリンが集めると票を確認する。
「ドランさまがまだ票を入れていませんが、四対二でクロの勝利!」
その叫びにまわりのゴブリンたちが盛り上がり歓声を上げ拍手に包まれる広場。ドランはひとり回想を呟いていたが急な叫びと盛り上がりに、辺りを見渡しキャロライナと視線が合うと顔を青く染める。
「待て待て、我はまだ票を、」
「どの道クロの勝ちだね~ドランの票が入ったとしても四対三だよ~」
「いや、我はクロの料理に……おっほん! どちらも美味かったぞ」
慌てて取り繕うドランに絶対零度の視線を向けるキャロライナ。その瞳が視界に入った白亜は席から飛び上がりクロ目掛け避難する。
「どっちの料理も美味しかったぜ~だけどクロの料理は肉と骨を使って空鴨を表現していた。とても味わい深い一品だったよ~」
「私はキャロライナさんの料理が美味しかったです! クロ先輩も美味しかったですが、赤ワインには酸味のある鴨肉が合いました!」
≪どっちも美味しかったですよ~私の舌が醤油味に慣れているからかもしれませんが鴨南蛮蕎麦は美味し過ぎます! 見た目はキャロライナさんの方が豪華でしたね~≫
各々に感想を言い合いながらも料理勝負は二種目を先取したクロの勝利が確定する。
「クロ殿、完敗です……先に二勝されるとは思いませんでした。私もまだまだです……」
「いえ、俺も勉強させて頂きました。特にさっきの料理とかは発想の凄さに驚きましたし、火入れの難しい鴨の皮をパリパリにし、身をしっとりと仕上げたのは感服です。自分にはまだまだ無理だろうと思いサッと湯通しするだけにしましたから……」
鴨肉は火入れが難しく少しでも火を通し過ぎるとパサパサになり鴨の風味や脂の旨味もなくなり美味しさが半減するのだ。クロは自身ではベストな火入れを判断する事ができないだろうと骨で出汁を取った鴨南蛮の汁でしゃぶしゃぶとし鴨肉に火を入れつつ出汁に鴨の脂を溶かしたのだ。
「それこそアイディアでしょう。それにドランが言っていましたが蕎麦の実を使ったのですか? それにしては細く長く見えたのですが」
「食べて見ますか? まだ蕎麦もありますし、汁もありますから」
「それは願ってもない事ですね。もしかしたら私が再現できるかもしれません」
「キュウキュウ!」
「はい、再現できましたら白亜さまにもご馳走させて下さい」
クロの腕に収まっている白亜がキャロライナを慰めた心算だろうが、キャロライナは白亜の言葉をそのまま受け鴨南蛮が気に入ったのだと思い、必ず再現して見せると心に誓う。
「これは俺の地元の料理で鴨南蛮蕎麦と呼ばれています」
白亜を近くにいたキャロットに預けると茹でる前の乾麵をキャロライナに見せ茹で始め、温めて置いた汁を掛けしゃぶしゃぶした鴨肉とネギに柚子を乗せる。
「お好みで七味をかけて食べて下さい。七味は少し辛いですから少しずつ入れて下さい」
「蕎麦の実を細く成形し乾燥させる事で長期保存するのですね……これは是非とも我々の村に広めたいですね……では、あむあむ……」
フォークを使い鴨南蛮を一口食べると目を見開き一気に食すキャロライナ。七味の存在など忘れて一心不乱に口に入れ、キャロットと白亜は羨ましそうにそれを見つめる。
「これは美味しいです……本当に美味しいですわ……」
食べ終えた器を見つめ呟くキャロライナにクロは小さくガッツポーズを取り、その後ろでエルフェリーンとビスチェにアイリーンが笑いながらも誇らしげに見つめる。
「どうだい、クロは凄いだろ!」
「料理だけは誰にも負けないわね!」
≪さあさあ、次の勝負に行きましょう! 最終勝負はポイントが二万点ですよ!≫
アイリーンの文字が浮かび苦笑いを浮かべるクロ。キャロライナももう競う気にはなれなかったのか優しい笑みを浮かべクロに向き直る。
「クロ殿、もし可能であれば私にこの料理をお教え願いたい。どうかお願い致します」
深く頭を下げるキャロライナに困った顔を浮かべるクロは口を開く。
「えっと、この蕎麦という麵料理はちょっと卑怯な手を使って作りまして、本気で蕎麦打ちをするのなら助言はできますが、俺自身打った事がなくて……」
そう言いながら目の前で魔力創造を使い食べなら慣れている乾麺を創造するクロ。目を見開き驚きを現すキャロライナ。
「魔力の物質化……エルフェリーンさま……これは……」
信じられないという瞳を向けるキャロライナにエルフェリーンが歩み寄り手招きすると腰を屈め耳打ちをする。
「ごにょごにょごにょにょ~」
「なるほど……クロ殿は……なるほど……」
内緒話を終えた二人に笑顔を向けられたクロは何やら嫌な予感を覚えるが、本日何度目かのゴブリンの叫び声が耳に入りそちらへと身を向ける一行。
「た、大変だ! 妖精たちが攻めてきた!」
村の中心へと叫ぶ見張りゴブリンにエルフェリーンが何かを思い出したのか口をぱっかりと開ける。
「忘れてたよ! 妖精たちも食事に誘ったんだった! 僕が呼んでくるからね~」
慌てて走り出すエルフェリーンにポカンとするゴブリンたち。五分ほどするとエルフェリーンのまわりを飛び回る妖精たちを連れ帰還した姿にファンタジー世界だな~と思うクロ。
頭や肩に妖精を乗せる姿にキラキラとした瞳を向けるアイリーンとルビーにゴブリンの子供たち。
「いいかいみんな、妖精は臆病だけど高い魔力を持っているから虐めたらダメだぜ~もし虐めたら酷い仕返しを受けるからね~異種族でも仲良くできる方が楽しいだろ~」
「は~い」の声が重なり笑顔を見せるエルフェリーン。白亜のまわりにも妖精が興味を持ったのか飛び回り、グルグルと飛び交う姿に目を回す白亜とキャロット。
「よ~し、クロにキャロライナ! 妖精たちへのお詫びの料理を蔓芋で作ってくれよ! それをみんなで食べて飲んで騒ごうか!」
エルフェリーンの宣言にゴブリンや妖精たちが歓声を上げ宴が再開されるのだった。
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