動き出す木々
クロとキャロライナが二品目に取り掛かるとゴブリン主婦たちが先ほどの唐揚げや香草焼きを模倣した料理を作り始め、あちこちで歓声を上げるゴブリンたち。
「こりゃ美味い! 外がカリカリで中から肉汁が湧き出るぞ!」
「唐揚げ最高!」
「醤油をかけたくなるぞ!」
「香草焼きも辛いが美味い!」
「ピリピリとした味もいいな!」
皆で唐揚げを味わいながらクロは半身にされた空鴨を使いやすく解体し、半身で揚げる唐揚げがあったなと思案しながらも、鍋に出汁を取り骨から肉を外しその骨を網に乗せると炭火で焼いてゆく。
「ん? 骨を焼いている? それに鍋に黒い布を入れているのかしら?」
クロの不思議な料理に視線を釘付けにされながらもキャロライナは空鴨に合わせる付け合わせに使う根菜の皮を剥き始める。
「昆布を取り出して、焼いた骨を入れて灰汁を取りながら煮詰めて、薬味だな」
ぶつぶつと呟きながらネギを刻み柚子の皮を少量剥くと千切りにする。
「ゴブリンたちの唐揚げも美味しいよ~醤油を使っているね~」
「はい、先ほどクロ殿が使っていたので真似しましたが、油で揚げるという料理法に驚きです。鉄板で炒める時に使ったり髪に艶を出す時に使ったりしますが、大量の油で茹でるとまわりがカリカリとし中に肉汁を閉じ込める事ができるのですね」
≪油は高温になると火が出るので注意ですよ~≫
「はい、皆に注意するよう言い聞かせます」
主婦ゴブリンが進める唐揚を口にしながら魔糸で助言するアイリーンに頭を下げると、その場を離れ揚げ物をしている主婦たちに伝えてまわる。
「た、大変だ! 森が、西の森の木々が動いているぞ!」
料理対決で祭りのように盛り上がっていたが村の安全の為に見張りについていたゴブリン戦士が村の中央に叫びながら現れる。
「どうした!」
「はい、西の森の木々が一斉に動き始めまして、このような事は初めてで、どうしていいか……見張り三名を残し俺が報告に……」
「木が勝手に動いたの? トレントかしら?」
「どうだろう……西の森は畑の先だよね?」
ビスチェとエルフェリーンの言葉に頭を下げて肯定する見張りゴブリン。
「俺が様子を見て来るが……」
途中で口を閉じるゴブリン戦士。皆の心配そうな瞳を受けた事もあるが、続々と揚げられる唐揚げに後ろ髪を引かれたのだ。
「僕も見に行くよ~料理勝負は一時中止にして様子を見てこよう。二人もそれでいいかい?」
手を動かしているクロとキャロライナに言葉を投げ掛けるエルフェリーン。
「空鴨に下味を入れている所ですから構いませんが」
「俺もまだまだ時間が掛かります」
「それなら僕とビスチェとドランで確認してくるよ~」
「おお、それではワシも」
「えっと、村長はここで何か異変があったらみんなを避難させる役目だろ~」
「そうよ! 転んで怪我でもしたら面倒くさいわ!」
「そうだぞ。ゆっくり酒を飲み待っていてくれ」
杖を手放せない村長に気を遣うエルフェリーンとは違いビスチェは素直に邪魔だと口にし、ドランは同じ年配の者としてどんと構えて待つように助言する。
「はい……宜しくお願いいたします」
深々と頭を下げる村長に見送られ現場へと向かうエルフェリーンたち。その後ろには数名のゴブリン戦士が続く。
五分ほど歩くと畑が見えその先には樹木が動いた形跡があり広場のようになっているが地面がボコボコと波打ち、震える見張りゴブリンたち。
「これは……」
「地面が波打っているわ……」
「生えていた木々が勝手に動くなど……」
見張りのゴブリンたちにゴブリン戦士が詰め寄ると報告を口にする。
「はじめに光ったと思ったら木が左右に別れ動き出したんだ……」
「大きな岩はあっちに転がりだして……」
「土が沸騰したようにボコボコしはじめて……」
震えながらあった事を話す見張りゴブリンたちにエルフェリーンが口を開く。
「なるほど……魔力も殆ど感じないのは隠しているからか……」
エルフェリーンの瞳が金色に輝き普段使っている魔力とは別の力を使い、突然切り開かれた地面を凝視する。
「何か解ったの!?」
「いったい何が……」
ビスチェとドランがエルフェリーンの言葉を待ち、すがる様な気持ちで見つめるゴブリンたち。見張りをしていたゴブリンたちは手を合わせ拝み始める。
「ここで米を育てろって事だと思うよ。母さんが気を利かせたのか、それとも日本酒に目が眩んだのか、神力を偽装して自然現象に見せかけているけど微かな神力が残っているね~ゴブリンシャーマンも米作りをするように神託を受けた事もあるし、何よりも地脈と細い繋がりができているよ。まったく……」
エルフェリーンの説明に口をあんぐりと開けるゴブリンたち。ビスチェとドランもそれなりに驚いてはいるがエルフェリーンの説明に納得したのかボコボコと動く地面を見つめる。
「僕の推測が正しければここに水が湧き出るはずだよ。米作りの説明は聞いていただろ」
「畑に水を入れて稲を植え育てる……」
ゴブリン戦士の呟きに「その通りだよ!」と嬉しそうに声を上げるエルフェリーン。
「土が濡れ始めたわよ!」
「ほらね。あとは教会でお告げを聞くか、ああ、クロの女神シールドを使えばこの事を説明してくれるかもしれないね~」
ボコボコと沸き立つ土が湿り気を帯び次第に水滴が舞い上がると、ゴブリンたちは手を合わせ膝を折り祈りの姿勢を取る。
「ババ様から新たなお告げがあった! お告げがあったぞ!」
そう叫び走り寄るゴブリンに振り返ると、肩で息をしながら受けたばかりのお告げを口にする。
「米を作る所を用意した。と、お告げがありました! はぁはぁ……女神さまから新たな土地を賜ったと、ババ様が泣きながら喜んで……」
「あははは、やっぱり僕の推理が当たったね! 米を作り日本酒を作れという事だよ~日本酒ができたら母さんに奉納してあげるといいよ~」
コロコロと笑いながら話すエルフェリーンにゴブリンたちは「はっ!」と敬意を示す。
「これもクロのせいかしら……」
「ははは、クロ殿が神を動かしたのだな」
ビスチェは人差し指を顎に当て考え、ドランは喜びながら水が行き渡り水田へと姿を変えた場所を見つめる。
「ここに稲を植えれば米が育つはずだぜ~これからは大変かもしれないが頑張ってね~」
そう言いながら歩き出すエルフェリーン。二人も後を追い広部へと戻ると先ほどよりも活気ある声が飛び交い唐揚げや串焼きが振舞われ酒を飲むゴブリンたち。
「あははは、これじゃお祭りだね!」
「おお、エルフェリーンさま! ババ様のお告げは聞かれましたか!」
「ああ、報告に来てくれたからね~立派な水田が完成していたよ~あとは稲を植えるだけだね~」
「おおおお、それはそれは、今日は我らの村が女神さまから水田を賜った記念日に致しますぞ!」
村長が叫ぶとまわりのゴブリンたちも叫びを上げ、一気にテンションが上がるゴブリンたち。
「師匠! これって」
「あははは、楽しくていいじゃないか! 神が地上へ干渉することは基本的には禁止されているんだぜ~それなのに母さんはこの村に立派な水田を作ったんだ! それを喜ぶのは無理もないよ~」
コロコロと笑いながら話すエルフェリーンにクロも笑顔を浮かべキャロライナやアイリーンたちも微笑みを浮かべ、白亜は鳴き声を上げながら飛び回る。
「白亜さまもご機嫌なのだ!」
「ええ、こんなにも楽しそうな白亜さまは久しぶりに見ます……」
誰もが笑顔になり酒を傾け料理を口にする様はまるで祭りのようで、クロとキャロライナが視線を合わせると互い無言で頷き合い料理勝負を再開するのだった。
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