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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第五章 慕われる者たち
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キャロライナ



 マーマンと別れたクロはアイリーンの糸でグルグル巻きにされたと感じた次の瞬間には、空の旅という名の人間ロケット砲弾扱いで発射され、その後を追うアイリーン。

 弾力のあるゴムのような糸で発射され空高く打ち上げられたクロは声にならない叫びを上げつつ、まわりの景色を堪能する為にシールドで尾翼を作り空気抵抗を安定させる。


≪クロ先輩は凄いですね! シールドで尾翼を作ったお陰か姿勢が安定していますよ!≫


 クロは思う。お前の文字も一緒の速度で飛んでいる事が凄いぞ。と……というか、普通に運ぶか歩いて帰ればいいだろうに、と……


 やがて速度が落ち始めると新たにアイリーンがゴムのような糸を飛ばし抱き着くと、「待て! 待て! 待て! 頼むからここから歩いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」


 再度飛ばされるクロはスピードを上げて空の旅へ。


≪ふぅ……クロ先輩は空が好き何ですね~≫


 空気抵抗をものともしない文字を視界に捉えるにはスピードが速すぎ目を開くことができないクロ。重力も加わり失神する限界を迎えながらもスピードが落ちて来ると、涙目のクロの視界には二頭の竜の殴り合う姿が見て取れ、アイリーンもそれに気が付いたのか急停止するクロ。


「飛ばす時も止まる時も急過ぎ……というか、飛ばすな! 向かう時は普通に背中から抱き締めて運んでくれたのに、どうして帰りは打ち上げロケット何だよ!」


 隣で宙に浮くアイリーンは糸を空間に貼り付けながらクロの言葉を耳に入れ頬を染める。


≪いや~思っていたよりも恥ずかしくて……って、それよりもあれはドランさんですよね! 殴り合っているというか、一方的に殴られていますけど……≫


 アイリーンが指差す先には怪獣大決戦でも行われているのか、二階建ての家ほどの大きさに魔化したドランとそれよりも大きなドラゴンが拳を入れて顔を吹き飛ばす。


「大迫力だな……これを録画できたら日本で盛り上がりそうだな……」


≪CGと思われるのがオチですね……それにしてもドランさんはドラゴンを狩ろうとして逆に狩られそうなのでしょうか? 助けは……≫


「助けられる気がするか? それに見ていると目や喉を狙っていないし、本気というよりは怒っているとか仕返しをしているとかかな? ビスチェの蹴りみたいにお尻だけを狙ってくる感じだな。もしかしたら同じドラゴニュートが魔化した姿かもしれないぞ。ほら、こっちに気が付いたら手を止めて会釈したぞ」


「ふふふ、それは僕に気が付いたのだね。あのドラゴンはドランの奥さんだよ~久しぶりにキャロライナの手料理が食べられるかもしれないね!」


 いつの間にか隣に現れたエルフェリーンはその背に黄金の翼があり、どういう理屈かは解らないが宙に停止している。


「師匠も様子を見に来たのですか?」


「ああ、僕は狩りをもう終えたからね~ドランの大きな叫びが聞こえたから何かと思ったけど大丈夫そうで良かったよ」


「ぐったりしていますけど……」


 クロが指摘するようにドランだと思われるドラゴンは膝から崩れ落ちて息荒く横たわっており、キャロライナと呼ばれたもう一頭は魔化を解除したのか人型になりエルフェリーンへ向けて頭を下げる。


「お~い、キャロライナ~久しぶりだね~」


 黄金の翼をはためかせ地上へ向かうエルフェリーン。アイリーンもそれに続きクロは糸で縛られている事もありなすがままに運ばれ、地上へと降り立つと糸が四散し慌ててバランスを保つクロ。


「お久しゅうございます。エルフェリーンさまはお変わりなく羨ましいですわ。おほほほ」


 それなりに年を食ってはいるが美しい容姿のキャロライナにキャロットの面影を感じるクロは丁寧に頭を下げ、アイリーンもそれに続く。


「後ろの二人が今のお弟子さんかしら……」


「うん、そうだぜ~優秀なクロと世界初のアラクネ種であるアイリーンだ! 二人とも個性があって育て甲斐があるよ~それよりもドランが何かしたのかな? ボコボコに殴ってボロボロだけど」


 その言葉にクロは体感で五度は下がった気がして身震いを覚え、アイリーンに至っては素早く飛び退く。


「あの爺が可愛い孫娘を誘拐したのです……私や婿殿の許可なく修行の旅など……白夜さまと白亜さまがお隠れになったのもあのクソ爺が原因でしょう」


 振り返りギラリと振り返りドランを睨みつけるキャロライナ。ビクリとからだを震わせるドランは気絶したフリを続けるが、ドラゴニュート特有の危険を感じると尻尾をピンと硬直させる癖が出てしまう。


「白亜は僕の所にいるぜ~白夜から任されたからね~」


「本当ですか!? 白亜さまが……ああ、良かった……本当に良かった……」


 エルフェリーンの言葉を受けたキャロライナの瞳からは大粒の涙が溢れ出し、彼女たちドラゴニュートがどれほど白亜の事を大切にしているか理解ができたクロはもらい泣きとはいかないまでも鼻をすすり、空気が変わった事でアイリーンも改めて距離を縮めクロの後ろへ隠れながらも話に参加する。


「今はこの先のゴブリンの村にキャロットと一緒にいるからね~この後会うといいよ。それに今は狩り勝負をしていたんだ! 僕は特別に美味しいものを狩ったからね~僕の勝ちかな~」


≪ふっふっふ、それはどうでしょう。私が狩ったものも特別感がありました! それに人助けやお礼まで頂きましたからね~≫


 魔力で生成した糸をエルフェリーンの前に送りどや顔をするアイリーン。キャロライナはその空間で急停止した文字を読みながらも驚いていた。


「彼女は……空間魔法を使えるのですね……魔力で糸を……まだ若いのに今後が楽しみです」


「ああ、アイリーンは特別だからね。空間に干渉する力を持っているよ。この文字のように糸を飛ばして空間に張り付けたりもできるから、さっきは宙に浮いていただろ。あれも空間に細い糸を固定して浮いていたんだよ」


 エルフェリーンが丁寧に説明し、頷くキャロライナ。


「将来が楽しみです。そういえば狩り勝負でしたが私が参加する事も可能でしょうか? 可能なら私の狩った……」


 涙を完全に拭ったキャロライナがドランへと視線を向けると、またもビクリと体を反応させ緩んでいた尻尾が硬直する。


「あはははは、キャロライナが狩ったのはドランだね! この狩り勝負の評価基準は味勝負だぜ~ドランはどこを食べても美味しくなさそうだよ~」


 笑うエルフェリーンにドランは瞬時に魔化を解くと土下座の姿勢を取る。


「我が悪かった! この通りだ! 許してくれ~」


 土下座しながらも太く立派な尻尾を体に沿わせて丸め抱え込むドランに、尻尾を食べられたのかと推測するもそれはないだろうと思うクロ。


「ふふふ、今のは冗談ですが、次はないから覚悟しておきなさい」


「はいぃぃぃぃぃぃぃぃ」


 恐怖に振るえるドランの叫びが木霊するのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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