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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第一章 王家の試練
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女郎蜘蛛の過去



「森に一人は寂しいか……」


 地面に書かれた日本語を読み上げたクロはシールドを展開したまま蜘蛛の魔物の前へと向かう。ビスチェとエルフェリーンは危険はないと感じたのかクロの行動を見守り、ナナイはため息を吐き、第二王子たちは真剣な瞳を向けている。


「良かったら家にくるか? もちろん襲わないと約束をしてくれたらだけど……どうする?」


「ギギギギ」


 何やら嬉しそうな鳴き声を上げて何度も頷く蜘蛛の魔物にシールドを解除したクロは近くまで歩き、蜘蛛の魔物に手を差し出すと恐る恐る同じ様に手を差し出す蜘蛛の魔物。


「これから宜しくな」


「ギギギ」


 棘を避けながら握手をしたクロを信じられないという瞳で見つめるメイドや女騎士。


「これは面白くなってきたね! 蜘蛛の魔物がクロの仲間になったよ! 女郎蜘蛛の糸で編んだ下着は手触りが最高だと聞いた事があるよ! 作って貰えないかな!」


「それよりもあのサイズだと家には入れないし、犬小屋じゃなかった、蜘蛛小屋を作らないとね!」


「二人とも前向きに検討している事に私は驚くよ……」


 呆れたように口にするナナイに第二王子たちが頷く。


「それにしても転生してから記憶が残るものなんだな」


 握手を終えたクロが何気なく呟くと蜘蛛の魔物は地面にサラサラと書き始め数歩後ろに下がるほどの長文を書き終えると地面を前足で指差す。


「何々、勇者としてこの世界に呼び出され、回復魔導師として活躍し、魔王を倒して日本に帰ってから……交通事故で……大変だったんだな……

 何々、神さまに会って同情されてこっちの世界に転生させてもらったけど……うわぁ~……何てついてないんだよ……

 生まれたけど膨大な魔力を持っているからと父親の愛人に殺されるって……

 そこから転生して蜘蛛の魔物に……何だか壮大な人生送ってきたな……」


 前足で涙の流れていない瞳を擦る蜘蛛の魔物に誰もが同情の瞳を向けるなか、エルフェリーンは声を出す。


「大変だったんだね……よし、この先の人生は僕が面倒みるから寿命まで好きに暮らすといいよ! クロは同郷だしいい奴だから、いっぱい頼るといいよ!」


 薄ら涙を溜めて話すエルフェリーンに蜘蛛の魔物はゆっくりと近づくと前足で手を合わせて頭を下げると、その頭を優しく撫でるエルフェリーン。


「二度も転生するとはな……それにしてもでっかいな……」


 蜘蛛の魔物は軽自動車ほどのサイズがあり黄色のラインの入った丸みのある尻尾をフリフリと振る姿は愛嬌があるのだが、如何せん大きくビスチェが言うように新しい蜘蛛専用の小屋を建てるべきだろうと思案するクロ。


「何だかツルツルして撫でると気持ちが良いね! そうだ! 名前を付けないと!」


 その言葉に蜘蛛は地面に文字を書きはじめる。


「クロ! この子が自分で名前を書いている様だけど読めない! 読んで!」


「えっと、アイリーン? あれ、異世界転移して来た時は愛理あいりだったよな?」


「ギギギ」


「ああ、異世界っぽくしたのか」


 クロの言葉に頭を縦に振るアイリーンに「改めて宜しくな」と声をかけると何度も頭を縦に振り「ギギ」と応える蜘蛛の魔物。


「そうか、アイリーンか! 良い名前だね。僕はエルフェリーン! これでも有名な錬金術師だからね! あっちのエルフがビスチェで、第二王子たちとオーガのナナイだよ」


 声に合わせて顔を向け頭を下げるアイリーンの姿に複雑そうな表情を浮かべる第二王子たち。


「適当に紹介するなよ……」


 クロの呟く声に苦笑いのメイドと女騎士だが、大きな蜘蛛の魔物という事もありやや引きながらも自己紹介をするのだった。





 ビスチェを先頭に歩みを進め、蜘蛛の魔物であるアイリーンとクロが話しながら進み、クロが一方的に話を振り手ぶりで会話するアイリーン。

 日本へと帰還した帰り道に車にひかれなくなった事や、クロが作る料理の話に涎を垂らしながらご馳走して欲しいといった話や、今後はどの様に過ごすかなどを小声で話合っていると、明らかに不機嫌ですという表情で頬を膨らませるビスチェが目に入る。


「なに不機嫌になってるんだよ」


 そう声をかけるクロに対してプイと顔を背けるビスチェ。


「何か悪いことしたかな……」


 小声で呟くクロにアイリーンは裾を引っ張り身振り手振りで伝えようとする。


「何々、ビスチェがアイリーンを……………………ダメださっぱり解らん。ん? ああ、シュッとして、違う?」


 ややずんぐりとした蜘蛛の体を縦に伸ばしシュッとした姿を見せるアイリーン。


「おしいのかな? シュッと………………ああ、嫉妬して!」


 コクコクと頷くアイリーンだったが、振り返ったビスチェは声を上げる。


「してないわよっ! 馬鹿! 殺す!」


「………………」


 何とも言えない顔になるクロと、それに同情するアイリーン。


 やがて歩みを進めると木々の数が減り草原へと辿り着くと小さな丘があり、そこには白く咲き誇る白百合の花が群生している。


「殿下!」


「ああ、白百合の花だな……あれで間違いない……」


「そうだね。あれがターベスト王国の紋章にある白百合だ。紋章には他にも三本の剣が描かれている。当時は三つの国が争っていたが、それらをまとめたのが初代ターベスト女王だね。国はまとまり今に至る訳だけど、あの白百合の花は普通の花とは違い魔物を食う特殊植物なんだ。

 当時の女王は三国を食いまとめ上げた事で白百合の花を紋章に刻み、三つの国を示す三本の剣を入れ、まわりは敵国ばかりだった事からそれらから民を守れるように龍を刻み込んだのが今の紋章だね。

 早口で説明したがあの白百合は魔物を食らう。アイリーンは後ろに下がっているように、クロは王子と共に白百合を採取すること。ビスチェはまわりの警戒。

 ああそうだ。白百合は生命力が強く摘んでもすぐには萎れないけど、下で栄養を吸われた魔物を動かし反撃してくるからすぐに逃げる事!」


 エルフェリーンの長話に顔を青くする第二王子のお供立ち。


「クロがいれば問題ないから安心していいからね」


「はい、クロの兄貴にすべてを委ねます!」


 キラキラした瞳を向ける第二王子ダリルに、襲ってくる事が解りげんなりした顔をしていたが、尊敬していますと言わんばかりの瞳を向けられ気合を入れ頷くクロ。


「あれはもしかしたら……ぽ……」


「王子と錬金術師の禁断の……ぽ……」


「うふっ……」


「ギギギギギ」


 ビスチェと女騎士とアイリーンまでがその様子を見ながら集まりキャッキャする。どうやら蜘蛛の魔物へと生まれ変わっても腐った趣味は卒業できなかった様である。


「ほらほら警戒は忘れない様にね! クロと第二王子は予定通りに採取したらすぐに逃げる事! 僕は縛り上げたら炎の魔法で迎撃するから巻き込まれない様に頼むよ!」


 エルフェリーンから激が飛び気合を入れるクロと第二王子。ビスチェやお付きたちも警戒し、アイリーンは後退しながらも辺りを警戒する。


 命を賭けた王家の試練が始まるのだった。





 今日はここまでです。

 

 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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