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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第五章 慕われる者たち
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神託と連れ去られるクロ



「米を育てるだけならその辺の桶に土を入れて水をやれば育つと思うが、水田で育てるとなると水を引いたり開墾したりと相当大変だからな。米はあくまでも麹造りの為だし、稲穂に付く黒いカビの玉が付いたら稲玉といって日本酒や醬油を発酵させるのに使える菌で、稲からも菌が付着しているだろうからそれを増やせば醤油麹が作れると思うぞ」


「何となくだが解った気がするぞ!」


「米を作ればいいのだな!」


「麹……豆と麦と塩に、米に付くカビが必要なのか……」


 クロが醤油作りに必要な事を教えてゴブリンの戦士たちや主婦たちが真剣に耳を傾ける。ホワイトボードには簡単な醬油の作り方が書かれ、それを木の板に刻み込む者までおり真剣に取り組む姿勢にクロは感動していた。


「た、大変だ! ババ様が神託を受けた!」


 ゴブリン村の青年が醬油作りを講義していた広場の中心に叫び走り寄ると、息を整えながら口を開く。


「ババ様が、言うには、醤油と一緒に新しい酒を造れと、はぁはぁ、クロのいう醤油と日本酒を造れと神託を受けたそうだ!」


「ほ、本当か!?」


「ババ様はシャーマンとしての力が強いが……新しい酒を造れと……」


「これからは忙しくなるな! クロ! 頼む、俺たちに醤油と酒の作り方を教えてくれ!」


 ゴブリンの村やオーガの村ではシャーマンと呼ばれる呪術師が相談役として各村にひとりはおり、村での重大な決定を後押しする役目を担っている。他にも呪いや病気の治療や未来視などを駆使して村の運営に口を出すのだが、今回は神託という形でクロの醤油作りに加え酒造りもするように助言を出したのだ。

 当の本人はこの場には来ていないが高齢の為あまり動くことはなく、お世話役の若者に言付けし走らせたのだろう。


「それは構わないが、日本酒を作るとしたら米作りを本格的にしないとだぞ。近くに川があったからそこから水を引いたり、貯水池も作ったり、開墾と、ん?」


≪クロ先輩! 助けて! 運べない!≫


 米作りに必要なものを口にしながら思案していると目の前に飛んでくる糸で生成された文字。辺りを見渡すと上から降ってきたアイリーンが満面の笑みでクロに抱き着くと、飛び上がり空間に糸を飛ばし一気に飛び去る。ゴブリンたちはポカンと口を開けそれを見送るのだった。


「おいこら、誘拐する前に説明しろ!」


≪暴れると落ちますからね。狩った獲物が大き過ぎて運べないのでアイテムボックスに収納して下さい≫


「運べないって、どれだけ大きなものを狩ったんだよ……キングベアでもまた狩ったのか?」


≪ふふふ、キングベアよりも大きいです! 見えました!≫


 砂浜には大きな岩が見えそのまわりには多くのマーマンの姿があり、始めて見るその姿に驚くクロ。


「あれは魚人? 五十人はいそうだが……手には紐で括られた魚を持っているな」


≪マーマンという種族らしいですよ~。魚はお礼だと思います≫


 糸を伸ばし空から降りて来たアイリーンとクロに多くのマーマンたちが叫びを上げ迎い入れる。腰の曲がった老人たちは頭を下げ涙する者がいる中、子供たちは大きなギガアリゲーターの背に乗りキャッキャと遊びまわっている。


「アイリーン殿! 感謝するぞ! 我らの仇を討って頂き……多くの村の者が襲われたが、これであいつらも成仏できるだろう……うう……」


≪いえいえ、たまたまですから。それよりも、このお方がクロ先輩です! あの大きなワニを収納しますので子供たちをお願いします≫


「おお、そうですな。おーい、そろそろ降りて来い! 上空の警戒はこちらでするから降りて来い!」


 マーマンのリーダーだろう男が叫ぶとギガアリゲーターの背から海へと飛び降りる子供たち。その表情はとても楽しそうで海で遊び始める姿にアイリーンは微笑みながら水着の製作を思案する。


「空から見た時は大きな岩かと思ったが……これを狩ったのか……」


 巨大なギガアリゲーターを見つめるクロはその大きさに驚き、更に言えばそれを倒したアイリーンの強さに驚く。


≪ほらほら、アイテムボックスに入れて下さいよ~私の狩り勝負の獲物なんですよ~≫


 ドヤ顔をしながらクロの脇をクイクイと肘で突くアイリーン。


「そうだな……全部入る……かな……」


 アイテムボックスのスキルを発動させたクロはギガアリゲーターの体に触れるとゆっくりだが収納され始めた事に安堵の表情を浮かべ、マーマンたちも巨体が収納される光景に歓声を上げる。


「アイリーン殿! これが我らからの礼だ! 受け取ってくれ!」


「魚も美味いがこの貝も美味いぞ!」


「こっちの海藻は人族の村では薬として飲まれているぞ!」


「お姉ちゃん! この貝綺麗だよ!」


「僕の集めた緑色の石もあげる!」


 多くのマーマンに囲まれるアイリーンはあたふたしながらもお礼を魔力で生成した糸で浮かべ笑顔を浮かべる。


≪こんなに!? ありがとうございます! 子供たちもありがとね! そうだ!≫


 多くのお礼を糸で生成した布に包むとクロの元へと走り、半分ほどアイテムボックスに収まったギガアリゲーターを横に文字を浮かばせる。


≪クロ先輩! 飴を配ってもいいですか? 子供たちからも翡翠ぽい石を貰ったのでお礼がしたいです!≫


「翡翠? ちょっと待ってろ。アイテムボックスに収納しているから魔力創造で、ほいよ。二袋でいいか?」


「ありがとぅう!」


 声に出してお礼を言うアイリーンに一瞬驚くも、手から素早く強奪され照れ隠しなのかと思うクロ。


≪子供たちよ! これは飴という美味しいヤツです! 外側の皮をこうやって破って口に入れると甘~い! 並ぶがいい~≫


 飴を口に入れたアイリーンに子供たちが集まり飴を配り始め、口にした子供たちは「甘~い」を連呼する。


「我らがお礼をしたいのに……」


≪子供たちの笑顔は宝ですから!≫


「それは違いないが……我らの英雄を持て成したかったのだが……子供の笑顔か……あんなにも楽しそうにする子供たちを見るのは久しぶりかもしれん」


「ああ、村をギガアリゲーターに襲われ、村を捨て洞窟に隠れ住んでいたからな……」


「村を取り返せた事が何よりも嬉しいが、アイリーン殿。本当に感謝する! 海での困り事があれば我らを頼ってほしい! いつでも声を掛けてくれ!」


「ああ、アイリーン殿の為なら命を投げ打ってでも手を貸すぞ!」


 屈強なマーマンたちの言葉に残っていた飴を配るアイリーン。


≪村を襲われた話は聞きましたが、取り返せたのなら良かったですね! 復興に必要な物とかあれば集めますよ。ああ、でも、海の中の村じゃ木材は使わないか……≫


「それなら問題ない! 我らの村は海底の横穴を使った洞窟だかなら。この砂浜の先にある! 今度来てくれると嬉しいが……水中で呼吸ができない種族では無理か……」


「我らのように海でも陸でも呼吸ができれば……」


≪あははは、その気持ちだけで充分嬉しいですよ~おっ、収納が終わったようですね~≫


 ギガアリゲーターの収納を終えたクロは子供たちに飴の袋を回収してまわりそれもアイデムボックスに収納すると、アイリーンの元へと向かいお礼として受け取ったものも収納する。


「アイリーンが色々と貰ったようでありがとうございます」


「いやいや、助かったのは我々だ!」


「あのギガアリゲーターを退治してもらったのだ。クロ殿だったか、感謝するぞ!」


「我らの手が必要ならいつでも頼ってくれ!」


「飴ありがとー」


 走り遊びまわっていた子供たちにも囲まれ、アイリーンとクロは多くのマーマンたちからお礼の言葉を受けるのだった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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