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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第五章 慕われる者たち
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エルフェリーンの狩り勝負



 森に入ったエルフェリーンは天魔の杖を持ちピクニックへ行くような軽い足取りで奥へと進む。時折、野生動物の姿を見かけては手を振り逃げて行く姿や多く自生する薬草や花々に、この森の自然が保たれている事を喜んでいた。


「いや~この辺りの森は理想的なバランスだね~日差しも適度に入りながらも風が抜けている。誰かが剪定でもしているのかな。故郷を思い出すよ~」


「それはありがとうございます。エルフェリーンさま」


 独り言の心算で口に出した言葉に反応があり慌てて戦闘態勢に入るエルフェリーン。いつの間にか多くの者たちに囲まれていたのだ。多少油断していたのも事実だがエルフェリーンは辺りに気を配り魔物の気配を敏感に察知しており不意打ちを受けた事に驚く。


「僕ももう年かな……こんなに多くの者たちに囲まれているのに気が付かないなんて……」


「それは無理というものです。我々は……」


 ゆっくりと姿を現したのは背中にトンボのようなはねを持つ妖精たち。手の平サイズの妖精たちは飛び回りながらキャッキャと声を上げエルフェリーンのまわりを飛び交い、一人の少年がエルフェリーンの目の前でホバリングをしながらその場に留まる。


「妖精! なら仕方がないけど……君はなぜ、僕の名を知っている?」


「お久しぶりにございます。もう数百年も前の事、忘れてしまうのも仕方ありません」


「あははは、僕からしたら数百年も前の事を覚えている君を尊敬するぜ~僕も長く生きたが昨日の夕食だって忘れる事があるからね~」


 杖を持っていない左手を前に出すと妖精の少年はその手の平に舞い降り笑い声を上げる。


「それはありますね。どの花の蜜を吸ったか忘れて子供たちに笑われます」


 笑みを浮かべた少年妖精にエルフェリーンも笑い声を上げ、まわりを飛び交う妖精たちも声を上げ笑い合った。


「エルフェリーンさまに助けて頂いたのは、ここよりも西の森で監獄草に捉えられ消化されるしかない未来を待っていた時です。まだ幼い私は甘い香りに惑わされ……」


「ああ、あったね! 妖精が監獄草に囚われて泣いていたよ!」


「お恥ずかしい限りです……」


「あの時は僕じゃなくドランがトイレに行って……ああ、色々思い出してきた! 飲み過ぎたドランがトイレに行って妖精を見つけたと監獄草を根元から引き抜いて僕たちに見せようと……」


「はい、すぐ近くに滝が現れたかと思いましたな……ですが、そのおかげで助かりました」


 手の平の上で深く頭を下げる少年妖精。まわりを飛び交っていた妖精たちもエルフェリーンの頭に乗ったり肩に腰かけたり杖にしがみ付いたりと笑いながら楽しそうに話を耳に入れる。


「あははは、それを思い出せただけでも僕は嬉しいよ! そうだ! この辺りに凶悪な魔物はいるかい? 僕は今、狩り勝負の最中でね! 美味しく食べられる魔物を狩りたいんだよ! 凶悪な魔物は総じて美味しいからね!」


「ふむ……美味しい魔物ではないのですが芋なら……だが、凶悪な魔物が……いや、しかし……」


 顎に手を当て言い淀む少年妖精にエルフェリーンが顔を近づける。


「何かあるのかい?」


「はい、極上の蔓芋が育っているのですが近くにフラワーマンティスのつがいがおりましてな……我ら妖精は近づかないのですが蔓芋の甘い匂いに誘われた虫たちが尽くフラワーマンティスに捕食され……秋にでもなれば卵を産みその被害が拡大するかと……」


「それならフラワーマンティスを討伐しちゃおう! 蔓芋は焼くと美味しいからね~ホクホクしながらも中心はしっとりとして、蔓を切って植えればどこでも育つから……うん! 僕の家の近くに植えよう! きっと、クロたちも喜ぶはずだよ!」


 手の平で申し訳なさそうな顔をしていた妖精とは違いエルフェリーンは満面の笑みを浮かべる。


「この先の開けた場所に大ぶりな蔓だまりが蔓芋です。蔓芋とフラワーマンティスは共生関係にあり共闘してきます! エルフェリーンさまがお強いのは解りますがフラワーワンティスと蔓芋のコンビネーションは強力です。我らもお力添えさせて下さい!」


 意思のある瞳を向ける少年妖精にエルフェリーンは微笑みを浮かべ口を開く。


「そのぐらいなら大丈夫だよ~僕を倒したいなら白夜でも連れてこないとね~」


 お気楽な言葉に手の平の妖精は不安な表情を浮かべるがエルフェリーンの歩みは軽く十分ほど進んだ先には件の場所があり、三メートルほどの高さのある蔓の塊が視界に現れ、その小山となった蔓に足をかけた真っ白く大きなフラワーマンティスの二匹を発見する。

 二匹は食事中な事もあり一心不乱に両手の鎌で巨大な蝶を捕まえ牙を動かし咀嚼する。


「あれは中々強そうだね~それにあの餌にしている蝶は個体数が少ない銀月蝶だね……銀月蝶の鱗粉は強い殺菌作用があって草花の病気を防ぐ役割もある大切な森の薬師と呼ばれる魔物なのに……」


「はい……銀月蝶は甘い蜜の誘惑に弱いですから……キラービーとは共生関係にあるのですがキラービーの巣がこの辺りにはあまりなく……」


「それなら早く倒してしまった方がいいね! 君たちは少し離れていてくれよ~巻き込みたくないからね!」


「はい、ご武運を!」


 手の平から飛び去る少年妖精が指示を出しまわりで飛び回っていた妖精たちも離れるとエルフェリーンは天魔の杖を掲げる。と、同時に食事中だったフラワーマンティスの二匹が顔を上げ魔力が集中するエルフェリーンに気が付き一斉に飛び立つと、四本の鎌を構え距離を詰める。


「手間が省けたよ。絶氷牢アイスプリズン!」 


 天魔の杖から噴出した冷気が飛び掛かる二匹を捉えると白かったフラワーマンティスが更に白く輝き氷の氷像へと変わり、落下して地面に落ちると昆虫特有の細い関節部分から砕け胴体はその重みで地面に食い込む。


「す、すごい……」


 あっという間の瞬殺劇に妖精の少年が言葉を漏らし、まわりの妖精たちはキャッキャと歓声を上げる。


「あとは美味しいお芋さんだね!」


 共生関係にあるフラワーマンティスが倒されたことを本能で知った蔓芋は、体中に巻き付かせていた蔓をゆっくりと解き触手のように動き出す。


「ウインドカッター×10」


 天魔の杖から無詠唱で発動された風の刃にウニウニと動いていた蔓があっという間にカットされ、蔓の巻き付いていた盛り上がった地面ではグググと自身のような揺れが起きる。


「クリエイトゴーレム!」


 これまた無詠唱で作り出されるゴーレム。ゴーレムの素材として使った土は盛り上がっていた部分であり、それと一緒に大きな人型のゴーレムが生成されると蔓芋の本体の芋が姿を現しブルブルと震えていた。


「これでよし! 終わったよ~」


 エルフェリーンが蔓芋の真ん中にある紫の魔石を摘出すると動きは収まりゴーレムに抱えられ回収される蔓芋。その芋はサツマイモに似た見た目でありながらもゴーレムの手が届かないほどの太さのある巨大なもので、焼き芋にするのならどれ程の時間が掛かるか想像もできない。


「これで狩り勝負は僕の勝ちだね! みんなは切れた蔓を集めるのを手伝ってくれ! 本体から離れた蔓はただの蔓だから植えれば美味しい芋が育つんだ! 大きく育ちすぎると襲ってくるから注意だぜ~」


 その言葉に妖精たちは急ぎ蔓を拾い集め、一欠けらも残さずにエルフェリーンへと押し付けるのだった。





 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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