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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第五章 慕われる者たち
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ゴブリンの村で醤油を作ろう



「砂に海水を撒いて日光の力で蒸発させ塩を砂の粒に付着させ、それを集めて海水で洗い濃い塩水にしてから窯で煮て塩を取り出すのか~海水の苦みがこの水なのか~」


「ニガリですね。塩化マグネシウムだったかな、それが豆腐を固める素材になります。ニガリ自体にも多くのミネラルを含んでいて体に良い効果があるとされていますが、あまり摂取しすぎると内蔵に悪いとか言われていますからグビグビ飲むのはやめて下さいね」


 煮えたぎる大鍋には塩が沈み焦げないように弱火で煮込まれ不必要な水分とニガリが取り除かれている。小さな小屋の中で行われる作業を見つめるクロとエルフェリーンにアイリーンが窓から覗き込み、蒸しかえるような暑さの中で作業する半裸のゴブリン戦士たち。


「飲まないよ~苦いと解っているのに飲むのは愚か者がやる事だね~」


≪クロ先輩はチャンレンジ精神に溢れていますからね~≫


「一応は飲むだろ……はぁ……飲むというよりはすぐに吐き出したけどな」


 先日、ニガリを持って来たゴブリンたちから受け取ったクロは少量を口に入れ、その苦さに悶絶した事を思い出して顔を歪める。


「いや~大変な仕事だね~鍛冶場よりも湿度が高いからか、こちらの方が大変そうだね~」


≪ナイス筋肉! キレてるよ~キレてますよ~よっ! ゴブリン界のチョコモ〇カジャンボ!≫


「お前なあ……変な言葉を浮かべるな! ったく、邪魔になりますから村長に挨拶したら狩りに向かいましょうね」


「うん、そうだね! 今日の目的は狩り勝負だったね!」


≪私はここでマッチョを観察したい気もしますが、賞品がある以上は頑張らないとですね!≫


 エルフェリーンとアイリーンは笑顔で視線を合わせながらも静かな闘志を燃やし、クロは賞品係として扱われ複雑な気持ちを胸に秘め二人の背中を押して足を進める。


「エルフェリーン様! 申し訳ありませんでした!」


 そう言いながら頭を下げるゴブリン村長と村の者たち。横ではドランとビスチェが複雑そうな表情を浮かべている。


「エルフェリーン様のお陰で流行り病にポーションなどと交換して頂き、最近では塩の作り方やショウユなる美味なる宝を受け感謝を示したく思い……申し訳ありません……」


 ゴブリン村長が再度頭を下げ村の者たちも同じように頭を下げる。


「ああ、もう! そんな辛気臭い歓迎はいらないよ! もっと明るく楽しい歓迎が僕は好きだよ! それと言っておくけど、塩はクロの発案だからね! 醤油もそう! 僕じゃなくクロを崇めよ~~~」


「は、はぁ~~~~~~~」


 今度はクロに向け頭を下げるゴブリン村長と村の者たち。矛先が向いたクロはというとエルフェリーンに何とも言えない顔を向け、悪戯っ子のような顔で迎い討ちさらに何とも言えない顔をするクロだったが頭を下げる村の者たちに向け口を開く。


「俺は感謝とかいらないからな! 塩作りだってみんなで頑張ったからだろ! 醤油に関していえば確かに俺のお陰かもしれないが、この村で作ってみないか。オーガの村じゃ味噌を作っているぞ。まだ上手くいってないから少しずつ作って試行錯誤しないとだが、自分の村で作った醤油を食べて見たくないか?」


「ショウユが作れるのですか!?」


 村長が顔を上げ叫ぶように口にすると騒めく村の者たち。


「ああ、醤油作りはそれほど難しくないが時間が掛かる。それに米麹を作るためにはコメの栽培も……まあ、あれだ、作り方は教えるから頑張ってこの村の醬油を作ってくれ!」


 クロの言葉にキラキラした瞳を向けるゴブリンたち。村長は静かに涙しながら醤油作りを任された事に感激していた。


「必ず! 必ず! 成功させて見せますぞ!」


 涙を流しながら叫ぶ村長に村の者たちも叫びを上げる。


「ショウユ! ショウユ! ショウユ! ショウユ!」


 醤油コールがゴブリンの村で巻き起こりこれで良かったのか疑問に思うクロ。アイリーンはその醤油コールに肩を揺らし、エルフェリーンは一体感のある醤油コールに参加して叫び、ドランとビスチェは村長の涙にもらい泣きをしていた。


「キュウキュウ!」


「はい、アタシも意味がわからないのだ」


 白亜を抱いていたキャロットの呟きは醤油コールに掻き消え、クロは魔力創造で精米前の米を作り出すのだった。






「それじゃ行ってくるね~」


「白亜さまやクロに迷惑を掛けないようにな」


「わ、解っているのだ! 白亜さまが残るのだからアタシも残ってお留守番なのだ!」


≪お土産は期待して下さいね~普段から狩りをしている私が優勝しますよ~≫


「それはどうかしらね! 精霊たちが魔物の居場所を教えてくれる私に勝てるかしら?」


 ゴブリンの村から出発した狩り勝負の参加者たちを見送るクロと白亜にキャロット。キャロットも参加する気でいたのだが、クロが醤油作りを教える事になり村に残ると宣言すると白亜も残ると鳴き声を上げ、嫉妬したキャロットも残ると言い出したのだ。


「気を付けろよ~」


「キュキュウ~」


 クロと白亜の叫びに手を振りながら別れると四名は一気にスピードを上げ走り出す。エルフェリーンは天魔の杖を掲げながら近くの森に入り、ビスチェは風の精霊の力を借りて飛び上がると空を飛び荒野を目指す。アイリーンは下半身を蜘蛛に変えると一気にスピードを上げて海を目指し、ドランは魔化すると大きな翼をはためかせ大空へと飛び立った。


「な、何だかすごい人たちだな……」


 あっという間に姿を消した一行を見つめ呟くクロ。キャロットも同じ意見だったのか口をポカンと開けたまま白亜を抱き立ち続ける。後ろで見送っていたゴブリンたちもこれまた口を開け固まり、エルフェリーンの仲間が規格外だと改めて認識するのだった。


「ほらほら、呆けてないで醤油作りを説明するからな~」


「アイリーンが魔化したのだ……蜘蛛の足が生えたのだ……」


「ああ、世界初のアラクネ種だからな。あの姿になると足が尋常じゃなく早いよな」


「早かったのだ……下手したら爺ちゃんよりも早いのだ……それにビスチェは飛んで行ったのだ……キラキラしながら飛んで行ったのだ……」


「精霊魔法のひとつらしいが凄いよな。ほらほら、いい加減に正気に戻れ~醤油の作り方の説明をするからな~」


 見送りを終えたクロは村の中心へと足を進め、その後をキャロットが追い、慌ててゴブリンたちも村の中心へと戻ると、魔力創造を使いホワイトボードを創造するクロ。クロの手から現れたホワイトボードに歓声が上がりマジックで簡単な醤油作りの工程を記してゆく。


「これを見てくれ! 醤油の原材料は塩と大豆と小麦で作られている。そして、麹菌! これが味を左右させるからな。この麹菌は米の外皮の稲に付くカビの力を借りて発酵させる事で大豆と小麦から旨味が出るんだよ。小麦と豆はここで作っていたよな」


「作っているぞ!」


「豆は毛長山羊の好物だからな。俺たちはあまり食わないがいっぱい作っているぞ」


「米といったか? それはどうやって作るんだ?」


「米は食えるのか?」


「カビって腐る目安だろ。本当に醤油の材料なのか?」


「発酵?」


 多くの質問が飛び交いクロは発酵の説明をする事から始め、腐敗と発酵の違いやこの村で作っているワインの作り方にも発酵が関わっている事などを説明し、大まかな醤油作りをホワイトボードに書きながら解説すると関心の声を上げるゴブリンたち。


「発酵は体に良くて、腐敗は体に悪いという事か……」


「新たな畑で米を作るぞ!」


「俺たちも発酵を使っていたのか……」


「ショウユまでは長い道のりだが、この村でショウユができるのだな!」


 やる気に満ちた瞳を向けるゴブリンたちに、クロは脱穀前の米を魔力創造するのだった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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