空の旅とゴブリンの村
「白亜さまを手に乗せ飛ぶことができる日が来るとは、グオォォォォォォ」
大きく叫びを上げる魔化したドランの叫びに手で耳を塞ぐ一同。
「こらっ! ドラン! そんなに大きな声を上げるな!」
「シールドを張っているが重低音の叫びが体に響くな」
「キュウキュウ!!」
魔化したドランの手には流線型をしたシールドで覆われ、中にはこれまたシールド作られた椅子が用意されエルフェリーンにクロと白亜が座り狩場へと移動している。
魔化したキャロットにはビスチェとアイリーンがその背に乗り糸で体を固定し、風の精霊の力で背中に乗る彼女たちへと向かう風を相殺しているのか乗り心地は良さそうである。
「うむ、すまない。あまりに名誉で嬉しくてな、ほれ、キャロットがずっとこちらへ嫉妬の視線を向けておる」
ドランが指摘するように魔化したドラゴン姿のキャロットは横を並走しながらもチラチラと顔を向け落ち着かない様子で翼をはためかせている。
「キュウキュウ!」
「あははは、名誉よりも安全に飛べだってさ。僕も白亜に賛成だよ~高い所を飛んでいるが雲の隙間から急に現れるスカイフィッシュや浮遊石に衝突でもしたら困るからね~」
スカイフィッシュとはその名と通りに空を飛ぶ魚であり、空気中の魔素を餌として雲の中に住んでいる。中にはスカイフィッシュを餌にする肉食のスカイシャークなどもおり雲の中を飛ぶ時は注意して欲しい。
浮遊石も浮く石であり、今でも空には多くの浮遊石が浮きながら風に流され世界を漂っている。小さいものから大きなものまで様々だが、一番大きな浮遊石の上には城が建てられ地上からでもその姿を確認でき、クロが空を見上げる楽しみのひとつでもある。
「おお、海が見えたぞ! ほら、白亜、海だぞ! 大きいぞ!」
膝の上に乗る白亜に遠くに見えるスカイブルーの海を指差すクロ。白亜は膝の上に蹲っていたが顔を上げ青く輝く海を視界に入れると「キュウキュウ」と吐き声を上げる。
「大きな池じゃないぜ~海は世界中に広がっているんだぜ~」
「キュウ?」
「それに海はしょっぱくて大きな魚がいっぱいだ! ドランよりも大きな魚やリヴァイアサンなんて竜種もいるからね~」
「おっ、ゴブリンたちの村も見えたぞ」
上空から見ている事もあり豆粒ほどのゴブリンたちが農作業をする姿が視界に入り、慌てて木の陰や建物に入り隠れるゴブリンたち。それを見たクロはドラゴンに乗っている事を思い出し驚かしてしまった事を申し訳なく思う。
「驚かせてしまいましたね……」
「ドランの顔は怖いからね~」
「そ、そんな事はありませんぞ! これでも村では優しいお爺ちゃんとして……」
「キュウキュウ!」
「あはははは、白亜が言うには、大きな顔は怖いだってさ。それじゃ、僕は先に降りて安全だと知らせて来るから、みんなは村の外れに待機だからね~ああ、村の外れの森には危険な魔物もいるから注意だからね~とぅ!」
言いたい事だけ言って飛び降りるエルフェリーンは天魔の杖を掲げると落下速度が急停止したかのようにピタリと止まり、くるぶしから黄金の翼が生え滑空しながら村へと向かうとワラワラと姿を見せるゴブリンたち。多くのゴブリンが空を見上げて手を振りエルフェリーンを歓迎する姿に、クロも手を振り白亜は尻尾を振るのだった。
「クロ! よく来た!」
「クロが言うように美味い塩ができたぞ!」
「クロのお陰でここから離れずすんだ!」
村の外に着地し降りて歩みを進めるとゴブリンの戦士たちが手を振り迎えにやって来る。その顔はどれも笑顔でクロの名を叫びながら海水から生成した塩への感謝を叫んでいた。
「おう、前に届けて貰ったし、美味かったよ!」
「キュウキュウ」
クロも叫んで向かってくるゴブリンたちに感謝を告げ、白亜も叫びを上げ尻尾を振り回す。
「クロは誰とでも仲良くなるわよね~」
≪そのおかげで今の私がありますね~クロ先輩がいなかったら今でも森の中で独りぼっちです≫
「うう、白亜さまを乗せたかった……」
「ははは、孫娘にも譲れないものはあるからのう」
「ずるいのだ! 帰りはアタシが白亜さまを乗せるのだ!」
ムキーと叫ぶキャロットは放置し、クロたちはゴブリンたちとの再会を喜び村に向け足を進める。途中、海からの風が駆け抜け潮の香りに気が付いた白亜が瞬きさせ鳴き声を上げる。
「おお、海の匂いだな……こっちでも同じような匂いなのか……」
≪海で泳いだり……水着でキャッキャしたり……海の家……カレー……カレーが食べたいです!≫
クロの前に現れた連想ゲームの文字を避けて歩みを進め、村に入るとゴブリン溜まりができており、その中心にはエルフェリーンが崇められていた。
膝を付きエルフェリーンの来訪を歓迎するゴブリンたちに苦笑いを浮かべ拝まれ続ける姿を見ながら、クロは村の先にある畑や塩田へと視線を向ける。
キラキラと輝く塩田には砂が敷き詰められ塩が付着しているのか白く輝いて見え、その幻想的な様子に見惚れるクロとアイリーン。
「ちょっと~ク~ロ~助けてよ~」
大声で助けを叫ぶエルフェリーンに振り返る一行。ドランは笑いながらそれを見つめ、ビスチェも肩を揺らし、アイリーンは一緒になって祈りの姿勢に入り、キャロットは頭を傾げながらも白亜が気になるのかクロを見つめる。
「ここはアレだな。お~い、飴だぞ~食べる人はこっちだぞ~」
飴という単語に祈っていた子供たちが我先に走り出し、ゴブリンの女性たちも動き始め、甘党の多いゴブリンの成人男性たちもクロの元へ動き出すと、エルフェリーンを拝むのは老人のゴブリンと一回り大きなゴブリン村長だけが残り祈りを続けるが拝まれていたエルフェリーンもクロの元へと走り、祈りの姿勢のまま振り返る老人たち。
「ほらほら、飴の袋は大人に預けるからな~仲良く分けてもらえよ~」
百人もいないゴブリンの集落な事もありアイテムボックスから袋入りの飴を十個ほど預けるとお礼を口々にしながらも飴を預かるゴブリンに群がり始める子供と乙女ゴブリンたち。人妻ゴブリンが笑顔で飴を配り、妻帯者ゴブリンがそれを手伝い飴の香りが広場に広がる。
「いや~助かったよ~クロの飴は救世主だ!」
「私は村長に渡してくるから一袋頂戴」
「我も一緒に行こう。エルフェリーンさまを拝みたい気持ちは解るが、その辺の所を話してきましょう」
「白亜は少しキャロットさんの所に行こうな~俺は塩田に興味があるから少し見て来るよ」
「キュキュ」
クロから白亜を預かったキャロットは表情を溶かし、だらしない顔をしながらも確りと白亜を受け取り優しく抱きしめる。
「それなら俺が案内するぞ!」
「クロの言った通りに作った塩田をよく見てくれ!」
「塩はできたが改善点などあれば言ってくれ!」
ゴブリンの戦士たちに囲まれたクロは塩田へ向け歩き出し、興味があるのかアイリーンとエルフェリーンが後を追い塩の作り方を学ぶのだった。
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