歯磨きと狩り勝負
朝食も食べ終わりアイリーンが皿を浄化魔法で洗い、ビスチェは日課になっている菜園と薬草畑の水やりに向かい、ルビーは鍛冶をするべく鍛冶場へと向かう。残ったクロは白亜の口をチェックしながら歯磨きをしていた。
「キュ~~~~~~」
「声は出さなくてもいいからな。奥歯から行くぞ」
魔力創造で創造された歯ブラシで鋭い歯を磨くクロ。基本的には虫歯というものにならないドラゴン種なのだが、口臭の原因になることがあるのだ。引くぐらい臭い息で寝ているクロの上に乗られ悪夢から覚めた事があり、自分の為にクロが白亜の歯磨きをしているのだ。
「歯を磨いているのだ?」
「ああ、こうやって食後には歯磨きをして口臭のケアだな。師匠たちも今事は歯磨きをしているぞ」
「私の知っている歯を磨く道具はモジャモジャした木の繊維を使ったものを指でグイグイするのだ。真白な毛のついたものは初めて見るのだ」
「これは俺が作った特製の歯ブラシだからな。ほら左の奥歯を磨くぞ~」
「それは町で売っているのだ?」
「いや、俺のお手製だな。ビスチェやルビーたちも俺が作ったものを使っているが……」
口を開ける白亜が可愛いのかクロの横にくっつき大きく口を開ける白亜の口内を見つめるキャロット。
「ち、近いよ……」
「くっつかないと白亜さまの口内が良く見えないのだ。ほら、あそこに葉っぱが詰まっているのだ」
鋭い牙の間を指差し指摘する。
「ああ、わかっているが順番に磨いているからな。前歯は後だ。下の奥歯から磨いて上を磨いて前歯を磨く。こういう事はゆっくり確実にやった方が綺麗になんだよ」
「わかっているのだ。コツコツとやった方が身に付くのだ。計算とかもコツコツやって勉強したのだ。むふぅ~」
鼻息荒くドヤ顔をするキャロットに歯磨きには関係ないだろうと思うクロ。
「なあ、クロ。私も白亜さまの歯磨きをしたいのだ! 白亜さまの役に立ちたいのだ!」
「その忠誠心は嬉しく思うがキャロットは自分の歯磨きしたのか?」
「ドラゴニュートは歯が丈夫なのだ! 歯など磨かなくても大丈夫なのだ!」
そういいながらニッカリと口を開いて歯を見せるキャロットだったが、冷奴に乗せた万能ねぎが前歯の犬歯の先に嵌っているのが見て取れ思わず笑うクロ。白亜もそれに気が付いたのか口を開けたまま「キュウキュウ」と笑い出す。
「のだ?」
「ほれ、これをやるからお前も歯を磨いてくるといい。アイリーン、キャロットに歯磨きを教えてくれ」
魔力創造で創造したオレンジ色の歯ブラシをキャロットに持たせるクロ。
≪歯磨きですか? 今そっちに行きますね~≫
キッチンから飛んできた魔力で生成した文字がクロの前で止まり、次の瞬間には上から現れるアイリーン。
「普通に歩いて来いよ。キャロットさんが驚いているだろ」
「上から来たのだ」
≪ふふふ、文字に視線を集め上から強襲したのです! 少しは驚いてくれないと悲しいですからね~≫
「それよりもキャロットに歯磨きを教えてくれ。俺は白亜の仕上げをするからな」
「きゅうきゅう」
口を開けクロの膝を尻尾でペシペシと叩く白亜。早く終わらせてほしいのだろう。
「歯磨き……これは柔らかいのだ。それにアタシの髪と同じ色なのだ!」
≪私は白いのを作ってもらいましたよ~ささ、歯磨きに行きましょう≫
キャロットの背を押しながら洗面所へと向かうアイリーン。途中でエルフェリーンとドランにすれ違い微笑みながらそれを見守る高齢者たち。
「キャロットは裏表のない性格だからか、すぐに馴染んだね~」
「ははは、そうですな。友が増える事は良い事です」
「そうだね~多くの仲間はどんな宝石よりも耐え難い宝だよ~」
リビングの椅子に腰かけると歯磨きをするクロへ視線を向ける二人。
「よし、終わり。よく我慢できたな、偉いぞ~」
「キュウキュウ」
歯磨きを終えた白亜は口を閉じるとクロに抱き着き眉間をグリグリと胸に押し付け甘えた声を上げ、それを見つめるエルフェリーンとドランは微笑む。
「クロ殿と白亜さまは本当に仲がいいのですな。ドラゴンが親でもないものに口内を見せるなど普通はあり得ませんぞ」
「クロは子育て上手だからね~僕の歯も磨いてくれたらいいのにな~」
「師匠……それぐらいは自分でしましょうよ。白亜ももう少し大きくなったら自分でするもんな」
「キュウキュウ」
グリグリしていた顔を上げクロを見つめる白亜は甘えるような鳴き声を上げる。
「クロは歯磨き係だってさ」
「ははは、面白いものですな。他種族でありながら親子のようですぞ」
「ここはみんな種族は違っても家族だからね~それは昔から変わらないよ~」
「そうでしたな……あの頃の事が今でも鮮明に思い出しますぞ。昨日は昔の仲間たちと肉を食う夢を久しぶりに見ましたが、良き夢でしたな……」
ゆっくりと目を閉じ昔の仲間の顔を思い出すドランにエルフェリーンはころころと笑い声を上げる。
「今日はドランさんたちが来ていますから薬草作りは中止ですか?」
「そうだね~ゆっくりしてもいいけど……そうだ! 肉を焼こう! お昼は庭でお肉を焼いてワイワイしたい! お酒もあると嬉しいね~」
「おお、それは良いですな! それなら我が肉を取りに行きましょう!」
「うんうん、久しぶりにドランの背中に乗って狩りに行こうか!」
≪狩りなら私の出番ですね!≫
「アタシだって狩りは得意だぞ!」
「なら競争だ! 誰が一番美味しいお肉を狩れるか勝負だね! 勝者はクロから美味しいお酒が出るからね~」
「ふむ……それなら本気で狩りをしないとですな……」
顎髭を手で遊ばせながら静かな闘志を燃やすドラン。昨晩飲んだウイスキーと日本酒の虜になったのだろう。
≪私はお酒よりもケーキが食べたいです~クリームたっぷりのイチゴショートやシュークリームにモンブラン!≫
「キュウキュウキュウキュウ~」
「おお、白亜さまが、急にどうしたのだ!?」
歯磨きを終えたアイリーンとキャロットが戻ると白亜が叫びだし驚くが尻尾を振りクロの胸へとグリグリを再開し、甘えているのかお願いしているのか解らないが頭に手を置くと優しく撫でるクロ。
「白亜はパッキとするウインナーが食べたいそうだよ。狩りも頑張るっていってるね~」
「キュ~」
エルフェリーンの通訳に、そうだと言わんばかりに大きく頷きクロを見上げる。
「おお、あれが好きだったのか。白亜はお肉なら喜んで食べるから、好みとか肉以外に解らなかったよ」
「キュウキュウ!」
抗議の声を上げ尻尾でクロの太ももをバシバシと叩く白亜。
「パッキとウインナー?」
≪あれは美味しいですよね~少し塩味が強いですがパンに挟んで食べると最高ですよね~≫
首を傾げるキャロットにアイリーンが簡単な説明をすると更に頭を傾けるキャロット。
「要は美味しい肉だよな」
「キュウキュウ~」
「クロ! 私は白ワインに合う料理を所望するわ!」
白亜が喜んでいると窓から顔を出したビスチェが話の内容とあっているのかどうか微妙な事を叫ぶ。ビスチェの中では既に白ワインを獲得しておりそれに合う料理を作るようにリクエストしたのだろう。
「会話の流れが解ってないのに、どうしてそんなに自信満々で叫ぶかな……」
窓からリビングに顔を出すビスチェにクロが呆れながら口にすると口角をニヤリと上げる。
「精霊が教えてくれたのよ! 狩り勝負でしょ! 私が勝つから白ワインに合う料理を宜しくね!」
「勝ったらな……ルビーも行くかな?」
この場にいないルビーを呼びに立ち上がろうとするとエルフェリーンが満面の笑みを浮かべる。
「ルビーは参加しないと思うよ。自分で使う槌を改良するとか言っていたからね~それが終わらないと戦い所じゃないだろ」
柄の長い槌を振り回すパワーファイターなルビーを思い出しながらクロは腰を上げる。
「それでも一言いって来ますね。急にみんなでいなくなったら不安だろうし、仲間ですから」
その言葉にエルフェリーンが満面の笑みを浮かべ、一同からは生暖かい視線を向けられるクロなのだった。
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