豆腐プリン
「うむ、どれも美味いな。クロ殿は錬金術師よりも料理屋を開くべきだな!」
「ははは、それは僕も思ったけどダメだぜ~クロはここの仲間だからね~」
「そうよ! クロはゴリゴリ係なの! 美味しい料理はただの特技なの!」
「美味いのだ! この粒々としたものが美味いのだ!」
「タコ飯な。カキも入れたがタコ飯な。他にも棒棒鶏や野菜も食えよ。ほら、白亜もだぞ」
「キュウキュウ」
「ぷはぁ~ビールも美味しいですが、私としてはドランさんいウイスキーを飲んで欲しいです。クロさん、お願いします!」
「うんうん、僕もドランに美味しいウイスキーを飲んで欲しいな。クロ! お願い!」
≪あむあむ……≫
夕食は進みルビーとエルフェリーンからウイスキーを頼まれアイテムボックスから取り出すと両手を上げて喜ぶ二人。ビスチェは白ワインを飲みながら棒棒鶏が気に入ったのか嬉しそうな表情で口へと運び、アイリーンは料理を口にしながら魔糸を頭の上に浮かせ集中して食べ続ける。キャロットはタコ飯が気に入ったのか三杯目のおかわりを口にし、白亜は小さなフォークを握り器用に冷奴を口に入れ尻尾を揺らす。
「くぅぅぅぅ、これは強い酒ですな! 喉が焼けるようだが口に残る香りが堪らない。美味いぞ、クロ!」
「強いお酒ですから飲み過ぎ注意ですからね」
「うむうむ、注意はするがこれほど美味い酒があるとは、それにどの料理も美味いな。特にこの肉と野菜を皮で包んだこれが美味い!」
「餃子よ! 皮がパリパリで中がしゃっきりジューシーなのがいいわね!」
「僕も餃子は大好きだよ~」
≪私は餃子には白米か炒飯だと思います! タコ飯に酢醬油をワンバンさせるのは気が引けて……≫
「タコ飯でしたっけ? これはゴブリンさんたちから貰った干したタコですよね?」
「ああ、それを水で戻して米と炊いたものだな。カキ醤油で出汁を取ったカキも入れたから美味いだろ」
「はい! 米の一粒一粒から海を感じます!」
大皿で出した餃子が残り少なくなり他の料理もなくなり始めるとクロは立ち上がりキッチンへと姿を消し、それを悲しそうな瞳で追いかける白亜。キャロットはこれ幸いとスプーンを持ち白亜が気に入っていた冷奴をすくうと「あ~ん」と声を掛ける。
「キュウ!? キュウ~」
振り返った白亜の瞳に冷奴が映ると大きく口を開け、つるりと滑り込み口を閉じると目も閉じて冷奴の味を堪能する姿にキャロットはうっとりと愛らしい白亜を見つめる。
「はぅ……白亜さまが可愛いのだ……おかわりのあ~んなのだ」
「キュウキュウ~」
再度あ~んされ尻尾を振るう白亜と餌付けするキャロット。ドランは微笑みながらその光景を見つめウイスキーを口にする。
「我らドラゴニュートにとって白亜さまや白夜さまは神として崇める存在。お仕えする者を巫女と呼び名誉職として尊敬される。キャロットは白亜さまが殻を破り生まれる瞬間に立ち会ったからな……我も見たかった……」
「へぇ~それは貴重な瞬間だね~白夜は数千年生きているが卵を産んだのは五回ぐらいだろ」
「はい、そう言い伝えられております。我らでも一生に一度見られるかどうか……キャロットは運が良いのでしょう」
「古龍は雌しかいないからその辺の野良竜とは違って個体数が極端に少ないのよね」
≪白亜ちゃんはウルトラレアですね!≫
食べながらも会話に参加し魔糸で文字を浮かせるアイリーンが最後の餃子を口に入れると、キッチンから戻ったクロの手にはトレーに乗る豆腐プリンが揺れ、黄粉と黒蜜のかかったそれに視線が集まる。
「豆腐プリンです。甘味なのでお酒に合わないかもしれませんが、どうぞご賞味下さい」
ドランの前に置くと不思議そうな顔でそれを見つめ、乙女たちは我先にと置かれたトレーに集まり、白亜もキャロットの前からクロの元へと走り移動し足にしがみ付き甘えた声で豆腐プリンを所望する。
「ああ、白亜の分も用意してあるから椅子に座ろうな」
「キュウキュウ~」
嬉しそうに鳴き声を上げる白亜にキャロットはクロへと鋭い視線を向けつつも、豆腐プリンを食べ表情を溶かす乙女たちが視線に入り自身も手に取り凝視する。
「木屑?」
「ああ、上にかかっているのは豆腐と同じ原材料の黄粉だな。木屑じゃないぞ。黒蜜は砂糖の原材料で甘いからな」
白亜にあ~んしながら豆腐プリンを説明するクロを羨みながらも豆腐プリンに匙を入れ口に運ぶキャロット。
「むっむむむむむん、甘いのだ! 凄いのだ! 美味いのだ!」
限界までに見開かれる瞳で叫ぶキャロットに乙女たちは無言で何度も頷き豆腐プリンに夢中になり、白亜も尻尾も素早く振られ、ドランは黄粉で多少咽ながらも優しい笑みを浮かべる。
「ふぅ~美味しかった……豆腐の柔らかくて蕩けるような弾力に黄粉の香ばしさと黒蜜の甘味……ふぅ~僕はもう満足だよ~」
「クロ先輩! 豆腐プリンには日本酒だと思います!」
「うん、白ワインよりも日本酒ね!」
≪これは今まで食べたどのプリンよりも美味しいかもしれません! 今度は抹茶味に小豆をプラスして見ましょう!≫
「キュルゥ~キュルゥ~」
誰もが表情を崩し幸せそうな表情で豆腐プリンの余韻に浸り、豆腐プリンを白亜に渡したクロはお茶を入れ始める。
「食後のお茶を入れますね。緑茶は甘さを流してくれますから」
慣れた手つきで緑茶を入れるクロを乙女たちは見つめ、ドランも豆腐プリンを食べ終え満足したのか目を閉じお茶を入れる音に耳を傾ける。
「もう食べ終わってしまったのだ……」
空になったカップを見つめるキャロットは肩を落とし口の中に残る黄粉の香ばしさと甘さの余韻に浸っていると、白亜が器用にスプーン持ち食べる姿が視線に入る。そんな視線を感じたのか白亜と目が合いキャロットが微笑むと「キュ!」とひと鳴きするとスプーンに豆腐プリンをすくいキャロットへと差し出す。
「えええ、私は大丈夫なのだ! 白亜さまの分は白亜さまが食べるのだ!」
そう発言しながら手をばたばたさせつつも、視線はスプーンの上で震える豆腐プリンをロックオンする。
「キュ! キュ!」
「あははは、白亜はお返しといっているよ。食べて上げるのも礼儀なのかもね~」
白亜の言葉を通訳するエルフェリーン。キャロットは意を決したように拳をぎゅっと固め顔を近づけ口を開く。
衝撃だった……先ほど同じものを食べたのに、その味は十倍、二十倍、百倍……
口の中に広がるトロリとした甘みを感じながら目を開くと、顔を傾げながらキャロットを見つめる白亜。
尊い……
その単語が頭に浮かぶと同時に体が横に傾き倒れ椅子から落ちるキャロット。
「キュー!?」
白亜は驚き絶叫を上げ、見ていたクロが慌ててフォローに入り、アイリーンが魔糸を飛ばす。
床に頭から衝突する寸前でダイビングキャッチに成功するクロ。魔糸の効果もあり体重を支えながらホッと息を吐くクロと、その腕に抱かれながらも放心状態のキャロット。
ビスチェは眉と目を吊り上げ、エルフェリーンとルビーは拍手で助けた事を喜び、ドランは可愛い孫を助けた事には感謝だが抱き締められている状態に思う所があるのか複雑な表情を浮かべる。白亜は突然倒れたキャロットを心配しているのか「キュウーキュウー」と叫びを上げ続ける。
「キャロットちゃんが可愛いのは解るけど、いつまで抱き締めているのかしら?」
仁王立ちで二人を見つめるビスチェに「俺は助けただけだーーーー」と叫ぶクロであった。
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