白亜の故郷と夕食の準備
「白亜さまと混浴とか、何と破廉恥な! まだ幼い白亜さまに貴様という奴はどれ程鬼畜の所業をすれば気が済むというのだ! 人族風情が古龍である白亜さまの湯浴みを補佐するとか羨まし過ぎるぞ!」
キッチンに入るなり尻尾を床に叩きつけ叫ぶキャロットの姿に、夕食の準備をしていたクロは此奴何を言っているんだ。という感想を持ち、白亜もキャロットを見つめ尻尾を叩きつける姿に、前にいた所はこんな人たちがいっぱいだったなと思い出す。
「えっと、クロです。ドランさんのお孫さんですよね?」
自己紹介をしていなかった事もあり簡単に名乗るクロ。
「キュウキュウ」
白亜も名乗りを上げるとそれほど興味がないのか、鍋の底に沈むアワビとタコを見つめる。
「キャロット……って、自己紹介などどうでもいい! 白亜さまに不埒な真似をしてみろ! アタイが絶対に許さないからな!」
クロを睨みつけるキャロットは言いたい事が言えてスッキリしたのか、鍋を見つめる白亜に近づき声を掛ける。
「白亜さま、不埒者の近くは危険です。ささ、こちらに」
「キュウ?」
そういいながら震える手で白亜を抱っこするとだらしない表情へと変わりリビングへと連れ去るキャロット。それを目で追いながらも夕食の準備を再開するクロ。
鍋を火にかけ「柔らかくなれよ~」と干しアワビと干しダコに声を掛けながら、ドランさんは酒を飲みそうだなと推測しお酒に合いそうな夕食の準備を進め、冷奴の薬味を刻みながら作業を進める。
リビングではエルフェリーンとドランの武勇伝を聞く乙女たち。白亜を抱いて現れたキャロットもその輪に加わり和やかな空気が流れ、いつの間にか舟を漕ぐ白亜にキャロットが歓喜する。
「ふぉぉぉう、白亜さまがお眠りに!?」
≪キャロットさん静かに! せっかく寝たのに起きちゃいますよ≫
魔糸で生成された文字が目の前に現れハッとするキャロットはコクリと頭を上下させると慈愛に満ちた表情を浮かべながらもその鼻の下が伸び、ドランが溜息を吐き、乙女たちはクロのライバルが登場したと目を光らせる。
「エルフェリーンさま、見苦しい姿を申し訳ありません……孫娘は白亜さまの大ファンでして……側仕えになる事を幼少の頃から憧れが……」
「そういやドランの村には白夜の住処があったね」
「神殿ですぞ。白夜さまを祭る神殿には未婚の村娘と巫女が傍に使えておりましたが、先月急に姿を隠し……我にも理由を告げずに去った事で心配しておりましたが……エルフェリーンさまにお預けになられて……」
「爺ちゃんはその事を理由に村長を退職したのだ。アタイはもっと爺ちゃんに頑張って
欲しかったけど旅に出るって……」
「よきタイミングでもあったと思うが……この事を村に伝えたら多くのドラゴニュートがここに押しかけますな……」
自身の髭を弄りながら話すドランには村長としての未練はなさそうだが、キャロットの腕の中で眠る白亜の姿にどうしたものかと思案する。
「クロが任されたんだし放置でいいよ。長くても五年で迎えに来るのなら待てばいいし、五年なんてあっという間だよ~」
「それもそうですな。静かな錬金工房を煩くするのは我も本意ではないし、旅するという目的もなくなりかねん」
ハイエルフであるエルフェリーンとドラゴニュートであるドランの時間に対する感覚は人間とは程遠く、待ち合わせで数年待つのは当たり前という感覚を持つ。その為か、互いに約束を忘れる事が多く会いたい時は連絡を取らずに相手の家に押しかけるのだ。
「白亜ちゃんの故郷がドランさまの里なのですね」
「うむ、白亜さまが卵の時から大事に温めたのだ。我も温めたかったが妻や村娘がその役を任されてな……我も卵を抱きしめたかった……」
がっくりと肩を落とすドランに乙女たちは笑い声を上げエルフェリーンもコロコロと笑い出す。
「そのせいで婆ちゃんが何度も怒りぶん殴られのだ。手をこうやってウニウニ動かして卵を抱く村娘に近づくから……」
左手で白亜を抱き右手の指先をウニウニと動かし再現するキャロット。それを見た乙女たちは更に笑い、ドランは悲しそうな表情で当時を思い出す。
「うむうむ、我は卵を温めたかっただけなのにのう。村娘なんぞに手を出すとか疑われ尻尾が縮んだわい」
リビングではそんな話で盛り上がっているとキッチンから漂う香りに鼻を動かす乙女たち。
「話していたらもう夕暮れね。ルビーは私と洗濯物を取り込むわよ!」
「はい、急ぎましょう」
「洗濯物なら入れたからお風呂に入れよ。ドランさんとキャロットさんは旅をして疲れているだろうから、お先にどうぞ~」
キッチンから掛かる声に「それはありがたいな」と口にするドラン。ビスチェは自分から動こうとしたのに洗濯物が取り込まれているという事に口を尖らせる。
≪私も料理を手伝ってきますね~≫
アイリーンが立ち上がりキッチンへ向かうと、クロは冷やし固まった絹ごし豆腐を小鉢に盛り付け長ネギと生姜を添えていた。
「おどうぶが!」
お豆腐が、と声に出していたアイリーンが慌てて両手で口を塞ぎ、振り向いたクロは「固まったぞ」と声を掛け少し崩れた豆腐をスプーンですくうとアイリーンに向ける。
「ほら、味見だ」
≪わ~い、ありがとうございます≫
魔糸で喜びを表しながらも自然と出た声が恥ずかしかったのか頬を染め、豆腐を口にすると「ううう」と自然に漏れる声。
≪美味しいです! 売っているものよりも豆腐の味が濃いです! 甘いです!≫
「だろ。俺もそう思ったよ。寄せ豆腐とかに近いよな」
≪はい、自然な甘さがあって醤油とも合いそうですね!≫
「ふふふ、カキ醤油を作ったからな。醤油や麵つゆでも美味いがカキ醤油の方が俺は好きだな」
ゴブリンたちから貰ったカキを昆布出汁で戻しながら茹でたものを煮詰め醤油を加えてひと煮立たちさせ、こしたものがクロ特製のカキ醤油である。戻したカキは佃煮にしても美味しいく、今回はタコと一緒に炊き込みご飯の具にする予定である。
≪カキ醤油まで自作するのですか!?≫
「ああ、意外と簡単だぞ。それに好きな濃さにもできるのがいいな」
≪クロ先輩から料理長へと進化していますね……≫
「勝手に進化させるなよ。ドランさんがお風呂から出たらビールでも出してくれ。冷蔵庫に冷やしてあるからな。おつまみは」
≪冷奴!≫
「ああ、キャロットさんも酒を飲むか聞いてくれるか? 今頃はお風呂だろ?」
≪聞いてきますね~≫
リビングへと向かうアイリーンを見送ったクロは手を動かしながら冷奴をアイテムボックスへと入れると、夕食のメイン料理である干したタコの茹で加減を確認する。
「あむあむ……よし、柔らかい! アワビは……ダメだ……まだ石だな……」
干したタコは柔らかく夕食に使えるが、干しアワビはまだまだ固く菜箸を跳ね返す防御力を誇っている。
「タコとカキの炊き込みご飯に冷奴と、鶏肉があったから棒棒鶏でも作って、中華か……冷凍の餃子でも焼くかな。餃子とかこっちでは作った事なかったな……」
手を動かしながら夕食の準備をするクロは自身の魔力創造を使いながら食卓を彩るのだった。
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