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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第五章 慕われる者たち
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豆腐作り



 翌日、クロは地下室から水に漬けた大豆をキッチンへと運ぶと、いつものようにゴリゴリ係と同じようにすりこ木を使いふやけた大豆を潰す作業に取り掛かる。


 豆腐作りはまず最初に水に漬けた豆を潰し、それに火を入れ煮込み、絞ることで豆乳が完成し、そこにニガリを加え方に流しいれ蒸したものが絹ごし豆腐である。木綿豆腐はニガリを加え水の切れる穴の開いた物に入れ、水を抜きながら重しを乗せ固めたものである。

 クロが作ろうとしているのは絹ごし豆腐で蒸す用の器を用意し、豆乳プリン用には別で砂糖を入れ蒸して冷やせば完成である。


「よし、こんなものかな」


 二時間ほどゴリゴリし続けペースト状になった大豆と水を大鍋に移し竈にセットすると薪を入れ、ルビーから先日プレゼントされた大振りなナイフ形の魔剣を取り出し魔力を込める。グリップに付いた炎の魔石に親指を乗せ魔力を送るとナイフの刃の色が徐々に変わり熱を発生させオレンジに輝くと、窯に入れ組まれた薪に近づけて三十秒ほどすると薪の一部が燃え上がり着火に成功するクロ。


「これは便利なのか?」


 普段なら生活魔法と呼ばれる小指ほどの小さな火種を生み出す魔法を使い丸めた紙に落とし着火し、細い薪に移し、太い薪へと移す。魔剣を使えば太い薪に直接火を移す事ができ便利なのだが、自身の魔力を使う事もあり軽いだるさを思えるクロ。


 頭を傾げながらも手にしていた魔剣を竈近くに置き熱が逃げるのを待ち、薪の様子を見ながら火加減を調節すると次第に大豆の香りが広がり始め顔を出すアイリーン。


≪少し青臭いですが良い香りですね~≫


 目の前を通り過ぎる文字に振り向いたクロはアイリーンを探し上を向くと、天井の梁から糸を垂らしぶら下がる姿に口を開く。


「髪の毛とか入ったら嫌だから降りろ、降りろ。これが煮えたら熱々を絞るから手伝ってくれよ」


≪それは任せて下さい! 私の糸を布にして使えば手で持たなくても絞れます!≫


 むふぅと鼻から息を吐きドヤ顔をするアイリーン。


「おお、それは助かるよ。豆腐プリンは期待していいからな」


≪はい! 楽しみにしています! 湯葉は作らないのですか?≫


「ああ、この量だと湯葉までは作れないかな。次は湯葉と木綿豆腐を作ろうな」


 クロの言葉に顔を縦に振るアイリーンは床に着地をし、椅子で舟を漕いでいる白亜の背を優しく撫でる。


 青臭さがなくなるともう一つの大きな大鍋を用意しアイリーンが魔力で生成した糸が一瞬にして布に変わり、それに柄杓を使ってこしながら滴り落ちる豆乳。湯気を上げているうちに包み込み絞り上げるのを見つめ、アイリーンの魔糸の魔力操作の腕が上がっている事に努力しているのだろうと思うクロ。


≪これ以上は豆乳が出ないですね≫


 絞り終わったものはものをザルの上に移動させ、魔力が四散するとザルの上には湯気を上げるオカラが姿を見せる。


「よし、それじゃあ豆乳の味見だな」


 柄杓でカップに注ぎアイリーンへと手渡すクロ。自身でも味見をすると豆乳らしいまろやかな味わいと仄かな甘みを感じ表情を溶かすアイリーン。


「これなら砂糖は少しでいいな」


 人数分用意したカップに砂糖を少量入れると湯気を上げる豆乳にニガリを入れて混ぜ、豆乳プリンに注ぎ、残りは用意していた容器に注ぎ入れ、蒸し器を用意すると並べて蒸してゆく。


≪こんな蒸し器も用意していたのですね≫


「ああ、この前にキッチンを完成させた後にエルフの皆さんに作ってもらったよ。キュロットさんは手先が器用で祭壇も完璧に作ってくれたしな」


 竹のような木材を編み込み蒸気が上へと向かう形に作られた蒸し器は五段に重ねられ、一度に多くの蒸し料理を作ることができ歓喜したクロ。


「あとは十分ぐらい蒸せば完成だな。黒蜜と黄粉は魔力創造で作って、オカラをどうするかだな……」


 オカラを前に腕を組み悩むクロ。後ろではアイリーンが小声でハンバーグと呟き発声練習と洗脳をしていた。


「何だかいい匂いがするわ!」


「本当にいい香りだね~クロが何か作っているのかな~」


「これは豆の香りでしょうか?」


 吹き抜けから顔を覗かせるビスチェとエルフェリーンにルビーの姿があり、上に登る豆乳の香りに鼻をスンスンとさせている。吹き抜け構造という事もあり料理の香りが広がると何か作っているのがバレバレになり、住民たちは匂いを嗅ぎながら一階へと足を進める事が多い。


「あまり美味しそうじゃないわね……」


 ザルで湯気を上げるオカラを見つめるクロの後ろから顔を出すビスチェ。他の二人も顔を出してオカラを見るとそのビジュアルに美味しそうとは思えなかったのか蒸し器の方へと視線を向ける。


≪開けさせません! この命が尽きるまで!≫


 アイリーンが悪乗りをして蒸し器の前に立ちはだかり、ニヤリと口角を上げるビスチェ。


「本当に火傷するから開けるなよ。取り敢えずオカラは炒ってからもっとゴリゴリしてハンバーグに使ってみるか」


 クロの注意にビスチェが顔を歪め、アイリーンはその場でジャンプして喜ぶ。


「ハンバーグって、あの肉汁がじゅわぁ~と出る肉を固めた料理ですよね!」


「クロのハンバーグは絶品だからね! 夕食が楽しみだよ~」


「ハンバーグは私も楽しみだけど……あの湯気を上げているのは何を作っているのよ! 私は開けて見たいわ!」


 ハンバーグは以前にも作り柔らかく肉汁溢れるその味に誰もが歓喜した料理であり乙女たちは期待するが、ビスチェだけは蒸し器の中身が気になるのか眉間に深いしわを作る。


「あれは豆腐だよ。それと豆腐プリンだな。黄粉と黒蜜をかけて食べる甘味でプリンは前に食べたから解るだろ?」


 その言葉に目を輝かせるビスチェ。エルフェリーンとルビーも目を輝かせ蒸し器へと視線を向ける。


「あれで蒸した後に冷やすからな。勝手に開けると失敗して美味しいものができないからな」


 一斉にクロへと振り向く乙女たち。アイリーンはその行動が面白かったのか肩を揺らし、椅子で寝ていた白亜は鼻を動かしキョロキョロとキッチンを見渡すとクロを見つけて胸に飛び込む。


「起きたか白亜」


「キュウキュウ」


「はは、白亜も匂いに誘われたんだね。この香りは心が休まるね~」


「キュウキュウ」


「あの湯気を上げる装置には近づくなよ。あれは熱くて危ないし、美味しい料理ができるまで待つんだぞ」


「キュウ!」


「良い返事だね~白亜はクロのいう事が聞ける立派な白竜だね~」


 白亜はクロの腕に抱かれながらも胸を張り尻尾を揺らす。美味しい料理という単語に心が躍っているのだろう。


「ううう、気になるわね! プリンと名のつく甘味は美味しいに決まっているわ! それなのに食べられないなんて……」


「身勝手な行動はキュロットさんと同じになるぞ。ねぇ師匠」


「あはは、そうだね。キュロットは僕が転移で強制的にエルフの村へ送り返したからねぇ~ビスチェはその辺は分かっているのだろう?」


 一気に顔を青ざめたビスチェは何度も首を縦に振り、蒸し器には興味がないと思わせたいのか椅子に座り外へと視線を向ける。


「ふふふ、やっぱりキュロットを強制的に帰らせたのは正解だったね」


 笑いながら話すエルフェリーンにクロは無言で頷きフライパンを用意するとオカラを炒り始めるのだった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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