塩の成功と豆腐の下準備
「おお、立派な塩ができたんだな!」
「ああ、クロのお陰だ!」
「是非とも使ってくれ!」
魔物の皮で作られた袋には真白な塩がパンパンに詰められ、その横には竹の筒に入れられたニガリが添えられている。
「家もいつの間にか新築が立ったのだな。これは何かお祝いを送らねば!」
中庭から新築の錬金工房草原の若葉を見つめるゴブリンたち。クロは塩とニガリを受け取るとその味を確かめ顔を顰める。
「うわ、苦いな……ここまで苦いとは……」
「あははは、俺たちも興味本位で舐めてみたが、毒の方が甘い気がするぞ」
「そういえば君たちの村では流行り病はどうだったのかな? いつもならそろそろ落ち着いて収束に向かうけど」
「エルフェリーン様のお陰で今年は誰一人発症しなかったぞ」
「ああ、マスクと手洗いを使うようになってから誰も熱を出さなかったな。鳥を獲ることもなかったし、竹を使った罠を使うようになって多くの魚が獲れているぞ」
「今日は干した魚やイカとタコを持ってきた! 良かったら炙って食べてくれ!」
ゴブリンたちが笑顔で渡す木箱にはカチカチに乾いたイカやタコと綺麗に開かれ乾燥した魚がルビーに渡され、苦みに悶絶したクロはお茶で口を濯ぎながらその箱を見て目を見開く。
「おお、イカにタコとタイみたいな赤い魚だな……うう、まだ苦い……」
「ゴブリンたちの村は海の近くだからね。新鮮な海鮮がいつでも食べられるのが羨ましいね~」
木箱を覗き込むエルフェリーン。隣ではビスチェが乾燥されたタコを見て眉間に深いしわを作る。
「ぷはっ、ニガリと海鮮のお返しにこれを持って行ってくれ」
お茶を飲み干しクロがアイテムボックスから日本酒を五本ほど出すと頭を傾げるゴブリンたち。ゴブリンたちはあまり酒を飲む習慣はないが自身たちが信じる神に酒を捧げ、祭りなどでは村で作った酒が振舞われる事があり数少ない楽しみの一つである。
「醤油かと思ったが、それはなんだ?」
「透明なガラスに入った……透明な液体だが……」
「これは俺の故郷で日本酒というものだ。最近じゃ神様にも奉納しているものだからめでたいものかな。この干したイカやタコとよく合うからみんなで飲んでくれ」
クロの言葉にゴブリンたちはニッカリと表情を変える。
「それなら次に来る時は多くのイカとタコを干して持って来よう!」
「おお、それがいい! ああ、そういや貝を干したものもあるがクロは食べるか?」
ヤギの魔物が引く荷台から一抱えある箱を取り出すと箱を開け覗き込む一同。
「おお、アワビにカキにサザエに似た貝殻もあるな! 師匠! これは凄いですよ!」
「ええ、貝殻は固くて食べられないよ~」
「師匠の言う通りですが、貝殻は磨くとアクセサリーに仕えますが……干した貝はちょっと……」
「何を言ってるんだか、干したアワビとか高級食材だぞ! 水に漬け戻して煮込めば最高のスープになるし、カキとか醤油に入れて煮込めば最高の調味料! 他の貝だって水で戻して炊き込みご飯にしたら絶対に美味いだろ!」
≪炊き込みご飯と聞いて≫
日本刀を腰に携えたアイリーンが屋敷から顔を出しクロに向け目を輝かせる。
「ああ、炊き込みご飯は美味しいよな! 干したタコとかでも作れるし、カキ醤油を少し垂らした玉子かけご飯とかも最高だよ! 出来る事なら全部買い取りたい!」
「いいぞ! 醤油と交換してほしい! 村では醤油が大流行りしているぞ!」
「クロに土下座してでも譲ってもらえとカカアに言われたぞ!」
「それなら醤油の瓶を十本じゃ少ないな、ちょっと待ってくれ。」
クロは魔力創造を使い醤油を創造し十本ほど想像すると、アイテムボックスに入れ常備している十本と合わせて二十本を荷台の空いている所へと置く。
「こ、こんなにいいのか!?」
「おお、これでカカアに殴られないぞ!」
歓喜するゴブリンたちにクロが笑顔を向けながらゆっくりとバランスを崩し、慌ててアイリーンが体を支える。
「おいっ! クロ!」
「魔力切れだね~クロはもう少し自身の魔力量に気を配らないとダメだよ~」
ゴブリンたちが心配し、エルフェリーンが呆れながらもアイテムボックスからマナポーションと呼ばれる魔力を回復させるポーションを取り出すと、アイリーンに支えられるクロの口へ強引に流し込む。
「ふごごごごご、ぷはっ!? し、師匠! そんな無理やり……うう、苦い……ニガリよりはましだが苦い……」
「ふははは、魔力切れになるまで醤油を出してくれた事には感謝だが、まわりを心配させるな!」
「そうよ! 魔力切れは一歩間違えると簡単に死ぬんだからね! いい加減自分の魔力量を把握しなさい! その指輪で魔力が増えているかもしれないけど危ないのよ!」
≪や~い、怒られてやんの~クロ先輩のバ~カ≫
言葉は悪いがみんなの心配する事を嬉しく思うクロは支えるアイリーンから離れると「悪かった」と言って頭を下げる。が、ビスチェは更に眉を吊り上げる。
「悪かったじゃない! 母さんが強制的に帰った時だって白ワインを増産して倒れたし、天界でも日本酒を量産して倒れたし、この前だって神様に奉納する時に倒れたじゃない! クロは自分の限界をもっと知るべきだわ! 一歩間違えばどうなっている! ネクロミノコンを使って腐ったクロとか見たくないからね! 臭そうだし……」
顔を赤くして説教するビスチェにクロは顔を引き攣らせ、自身が魔力切れで亡くなった後の事を言われてもと思い、まわりの者たちも死んだらそうなるのかと顔を引き攣らせる。
「なるほど! その手があったか!」
「あったか、じゃない! 師匠も勘弁して下さいよ……はぁ……」
クロのため息にゴブリンたちからは優しい瞳を向けられるのだった。
ゴブリンたちを見送るとクロはキッチンへと向かい大豆を魔力創造で作り出すと、それを水に浸し涼しい地下へと向かう。
地下室は年間を通して室温が安定しており、二部屋ある地下室の一室は冷凍庫として使われ大きな魔物など一度で食べきれない肉を凍らせて保存してあるのだ。そのおかげもありもう一部屋も冷えており十度へ届くことはない天然の冷蔵庫となっている。冷蔵庫もキッチンにあるのだが広さが桁違いで、普段は飲まないワインや野菜に薬草などもここに保存されている。
「アイテムボックスだと時間が経過しないからな~ここに置いて蓋をして明日にでも豆腐を作るぞ! そうなると絹ごしと木綿どちらにするか……はじめは絹ごしにして冷ややっこだな。黒蜜をかけてプリンみたいに食べても美味しいし……ああ、おからはひき肉と合わせてハンバーグに……さつま揚げにしても美味いかもな……」
ひとりでぶつぶつと呟きながら豆腐とそれに伴い残るオカラについて考えながらキッチンへ上がると、アイリーンがニコニコと笑顔を向けて来る。
「ん? どした? 何か用か?」
≪豆腐を作ると聞いて! 湯葉もするのですか?≫
ワクワクとした顔をするアイリーンに湯葉もあったかと思うクロ。
「湯葉もいいが最初だからな、絹ごし豆腐にするよ。もう夏らしい暑さを感じるし冷奴と、黄粉と黒蜜をかけた豆腐プリンだな」
≪やった! それも嬉しい!≫
「上手くいったらだからな。あんまり期待はするなよ」
≪大丈夫です! クロ先輩の魔力創造を使えば絹ごし豆腐も作れるはずです!≫
失敗も織り込み済みで発言するアイリーンに、確かにと思うクロ。
「それでもオーガの村で大豆作っているし、ゴブリンの村でニガリがあるから異世界豆腐が作れる! はず!」
≪異世界豆腐……こっちで作れば普通の豆腐では?≫
これまた確かにと思うクロであった。
第五章の始まりです。一週間ほど予約投稿できましたので十一時に毎日アップ予定です。
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