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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第四章 増えた仲間と建て直す家
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それぞれの仕事


 新築の錬金工房『草原の若葉』の庭ではクロがゴリゴリと薬草を潰し、ルビーが打つ鉄の音が鍛冶場からリズムを作り、アイリーンが白薔薇の庭園を振るう。初夏の日差しを浴びながら光の筋が通り、それを追うように汗の飛沫が光を乱反射させる。


 木陰でゴリゴリと薬草を潰しながら心地のよい風に吹かれるクロは、刃を鞘に収めたアイリーンを労うべく魔力創造でスポーツ飲料を二本創造すると一本の封を開け口に入れる。


「ぷはぁ、今日は暑くなりそうだな」


 そういいながら未開封のペットボトルを投げるクロ。


≪わ~い、助かります≫


 魔力で生成した糸を飛ばすアイリーンは受け取り封を開けると勢いよく喉を潤す。


「見ていたが凄いな。何度か太刀筋が見えなかったぞ」


≪ぷはぁ~凄い日本刀ですからね。私もそれに見合う剣士にならないと!≫


 白薔薇の庭園を受け取ったアイリーンは刀の稽古に時間を費やしている。本来の仕事である猟師としての魔物狩りも並行して行っており、罠に反応したら即時移動しては糸で仕留め回収して食卓に貢献している。


「抜刀術とかはやらないのか?」


 興味本位で聞くクロにアイリーンは首を振る。


≪私はまだ剣士として歩き始めたばかりです。抜刀術はある意味剣術の最高峰。私にはまだまだ無理ですね≫


 総文字を浮かべながらもペットボトルを置くと、体制を低くしてそれっぽい構えを取り白薔薇の庭園を抜くがその速度はゆっくりでとてもじゃないが抜刀術と呼べるものではない。


≪やっぱり難しいですね~≫


 舌を出し笑いながら文字を飛ばすアイリーンに、クロは微笑みを浮かべ残りを喉に流し込むとゴリゴリと薬草潰しの作業に戻る。


「俺もまだまだゴリゴリ係の初心者だからな。頑張って薬草潰して頑張らないと」


 ふふ、クロ先輩は優しいですねぇ~態々聞こえるように初心者って言わなくても……よし、もう少し頑張って白薔薇の庭園の持ち主だと胸を張れるようになるぞ!


 アイリーンもペットボトルを飲み干すと素振り再開し汗を流すのだった。





 一方、ビスチェとキュロットは祭壇の製作を進めていた。ノートパソコンほどの大きさの神殿を作り中には女神ベステルを象った木造を建て、その前には供物を置く祭壇を設置する。祭壇には細かな細工が施され女神ベルカの奥に掘り込み民衆がそれを見て手を合わせる描写が彫り込まれ、側面には七大竜王の白夜が叫びを上げている。神殿にも細かな彫り物が入れられ豊穣を司る女神や愛を司る女神などが聖杯を傾け流れ落ちる新酒。


「あとはニスを塗って完成ね!」


「ええ、我ながら良いものができたと思うわ。これから白ワインの百本や二百本クロも気前よく貢いでくれるわね!」


 キュロットの言葉に娘であるビスチェは苦笑いを浮かべ、同じように苦笑いを浮かべるフランとクラン。他のエルフたちは自身の村に多くの白ワインが運べると笑顔を浮かべる。


「あんまり無理させるとクロがまた倒れるわよ。この前だって精霊が見えるほど魔力が増えた事を良いことに無理言って白ワインをいっぱい創造させて、次の日には寝込んで大変だったじゃない!」


「一日寝たら治ったし大丈夫よ! 私は村の長として白ワインを持ち帰ることが使命なんだからね!」 


 胸を張りツンデレ口調で話す母親の姿と言い分に頭痛を覚えるビスチェ。フランとクランも両手で顔を覆う。


「これは言いたくなかったけど、あんまり法弱武人に振舞うのなら師匠にお願いして出入り禁止にするからね! クロの魔力創造のお陰で美味しい料理やお酒を飲み食いできるの! 無理強いするようなら本当に村に送り返してもらうからね!」


 ビシッと指差し声を荒げるビスチェに崩れ落ちるキュロット。


「それだけは、それだけは勘弁して~~~~~」


 素早く土下座の姿勢を取るキュロットに、母の土下座を目の前で見せつけられたビスチェは眉間を手で押さえながら顔を左右に振り、一切のプライドを捨てるその姿にため息を吐く。


「次期村長はビスチェさまに決まり……」


「現役村長に土下座させた……」


「ある意味村は安泰ですね……」


 連れのエルフたちはビスチェの姿に未来の村長を見るのだった。





 リズムよく鉄を叩くルビーの横で赤く輝くナイフの形になった鉄を見守るエルフェリーン。


「いや~上手いものだね。鉄を打つ技術は僕よりも高いよ~これならすぐにでもエンチャントを教えてもいいかなぁ」


 そんな言葉を口にするエルフェリーンだが、集中したルビーの耳には届いていないのか一心不乱にナイフを叩き続ける。


 ダンジョンのゴーレムからドロップした鉄のインゴットだった物をエルフェリーンがナイフに必要な量を魔剣で斬り出し、半分になった鉄のインゴットを炉で熱し形を整えたのだ。本来ならインゴットを鉄板してからナイフの形に斬り出し、叩き研磨して作るナイフ。鉄のインゴットを鉄板に加工する工場が王都にあるのだが、一から作りたいというルビーの希望を聞き入れたエルフェリーンが嬉しそうな笑顔で承諾し鉄を叩きナイフの形に変えている。

 ナイフとしてはやや大ぶりな二十センチほどの刃渡りに、なかごと呼ばれるグリップ部分を入れると三十五センチほどあり、形状は真直ぐに伸びた片刃である。


「ふぅ~あとは刃を付けて磨きと研ぎですかね……」


 赤く熱を持ったそれが次第に熱を放出し黒く変色したナイフを見つめるルビー。


「うんうん、立派なナイフだね。これはクロに送るのかい?」


 その言葉に頬を染めるルビー。


「はい……クロ先輩には色々と教わりましたし、初めて打ったナイフは是非ともクロ先輩に使ってほしいです……」


「そっか、そっか~それならエンチャントは耐久性を上げて、炎が飛び出るようなギミックを入れようか! シールドが得意なクロは攻撃の手段が限られるからね。クロの戦力アップに丁度いいよ~」


「それって炎のナイフにするという事ですよね!」


「ああ、炎の魔石を使い魔力を通せばファイヤーボールが飛び出して相手が丸焼きだぜ~刀身に付与すれば相手は焼き切れるぜ~」


 エルフェリーンの言葉にキラキラとした瞳を向けるルビー。

 

「刀身が赤く燃え上がり振ることで更に空気に触れ……そうなるとグリップに熱が……手も一緒に燃えませんか?」


「そこは問題ないよ~炎耐性のあるサラマンダー牙で柄を作り更に皮を巻けば持ちやすくもなるからね~ふふふ、これでクロも一流冒険者だ!」


「本人はゴリゴリ係だといいそうですが……」


「あははは、そうだね! クロならそういうね! ビスチェもそうだけどクロはゴリゴリ係だね!」


 次第に冷めて行くナイフを見つめ笑い合うエルフェリーンとルビーは、エンチャントの作業に入るのだった。





 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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