王宮で目覚め朝食を
予定外の王宮での宿泊だったが王家の者たちと寿司を囲みフレンドリーに過ごした翌日。目が覚めると豪華なベッドと天井に王宮のゲストルームに宿泊した事を思い出すクロ。ふかふかなベッドは寝心地が良く、目を開けて一番に飛び込んできた天井にはシャンデリアが吊るされ、カーテンの隙間から射す太陽光を乱反射させていた。
「ふわぁ~」
体を起こし伸びをしながら大きな欠伸をすると立ち上がり隣のベッドで寝息を立てるエルフェリーンの姿を確認すると、今日は窓ガラスを付け替えようと心に刻む。
「白亜が寂しがってないといいが……」
そう呟きながら大きな窓の前へ移動するとカーテンを軽く開け外へと視線を向ける。見晴らしの良い眼下には庭園が広がり多くの花々が咲き乱れ、季節ごとに植え替えられているのか夏に向けて咲き誇り花弁は朝露を浴びて輝きを放つ。
「おお、凄い庭だな……ん?」
庭を見下ろしていたクロだったがガラス越し見える太いロープに頭の中には大きなハテナが浮かび、その珍事に一瞬だが意味が解らなくなるも、目の前でロープにぶら下がり寝息を立てている黒装束を着た少女を冷静に観察する。
「猫耳? ケットシーか?」
黒いショートヘアーには白い猫耳が生え、整った顔立ちの少女はロープに揺られながらも気持ち良さそうに寝息を立てている。
「賊にしては堂々と寝ているし……警備だとしたら斬新すぎだよな……」
クロは見なかった事にして窓から離れるとノックの音が部屋に響く。
「ん? 来客……は俺たちか」
自身がこのお城の来客であることを思い出し呟きながらドアを開くと、満面の笑みを浮かべるアリル王女とお付きのメイドが立っており「おはよ~」と明るい挨拶を貰うクロ。
「昨日は大変失礼致しました」
「神さまがいっぱいで楽しかったね!」
メイドが昨晩の事を気にしてか頭を下げ、対照的にアリル王女は笑顔で天界へ行った事を喜ぶ。
「ここではあれですから中へどうぞ。ああ、ひとつ聞きたいのですが窓の外にぶら下がっている忍者? 猫耳の少女はいったい……」
忍者が異世界で通じるか分からず猫耳の少女と言い直すクロにアリル王女は走り出しメイドはその後を追う。
「ふわぁ~猫耳さんが寝ていますよ~」
「これは……重ね重ね申し訳ございません。この者は隠密部隊の者でして……高貴な身分の方が宿泊する際には警備を厳しく致します。内部はもちろんの事、外部にも警備を増やしているのですが……隠密部隊は屋根の上や屋上を警備しているのですが……」
アリル王女がぶら下がる猫耳少女を指差し、メイドは深く頭を下げながら所属と警備体制を説明するとエルフェリーンも起きたようで、眠い目を擦りながらベッドから降り猫耳少女へと視線を向けた。
「ケットシーがぶら下がっているね~まだ夢の中なのかな?」
「それは師匠がですか? それとも少女がですか?」
「ははは、どっちもだよ~ふわぁぁぁ、もう僕は起きたかな~クロ、甘いコーヒーをくれないか」
「はい、メイドさんも飲みますか?」
魔力創造で甘めなコーヒーを創造してエルフェリーンへ手渡すと、アリル王女はキラキラとした瞳でペットボトルを見つめクロはオレンジジュースを創造して渡す。
「コーヒーはもう少し大人になってからですね。オレンジジュースで我慢して下さい」
「はい!」
昨晩飲んだオレンジジュースを覚えていたようで蓋を自分で開けると口を付けるアリル王女。メイドにはエルフェリーンと同じ甘めなコーヒーを渡すと丁寧な礼を受け、クロは自分が飲む無糖のコーヒーを創造し口にする。
「クロとエルフェリーンさまの飲み物は色が違う!」
アリル王女が交互に指差し指摘するのを微笑みながら頷くクロ。
「師匠のものは甘くて飲みやすいんだよ。俺のは苦くて目が覚めるものかな。毎朝これを飲むのが習慣なんだよ」
「苦いのですか?」
「飲みなれると美味しいけど、俺以外に飲んで美味しいという人はいなかったな。ビスチェなんて泥水を飲んでいると今でも思っているだろうし……」
「泥水ですか?」
「そんな色だろ。師匠も飲んでいるのに酷いよな~」
ブラックコーヒーのペットボトルをひらひらさせながらアリル王女に見せると嬉しそうに顔を振って動きを合わせ笑い合う二人。エルフェリーンとメイドも笑い出し和やかな雰囲気を楽しむ四人。
外ではゆっくりと引き上げられる隠密猫耳少女。同僚の隠密が上から少女を引き上げ回収するのだった。
「どうですか! 料理長の考案したマヨ料理の数々! 昨晩から私と一緒に朝食のメニューを考えたのです! マヨの伝道師であるクロさん! どうか評価のほどを宜しくお願いします!」
王家用のサロンには多くの料理が並びどれもマヨネーズを使っているのか油ギッシュな照りが輝く。
「こちらはマヨネーズをシンプルに使ったサラダで、こちらはマヨとチーズを合わせ焼いたトーストです。パスタにもマヨを使いサラダ仕立てにし、ステーキにもマヨを掛けオーブンで焼き上げました。そして、メイン料理のチキン南蛮! ハミル王女さまに作り方を聞き再現いたしました! さぁ、マヨの伝道師としての食べ比べを!」
テーブルを埋め尽くすマヨネーズを使った料理の数々にげんなりとした顔を浮かべるエルフェリーン。アリル王女はキラキラした瞳を向けるが、ダリル王子や国王陛下もエルフェリーンと同じようにげんなりとした顔を浮かべており、朝から重い朝食に表情が重くクロも朝から油っこい料理は遠慮したいのか、それともあまりにもグイグイくる調理長とハミル王女に引いているか表情は暗い。
「朝からマヨ料理ばかりは重いですね……」
代表して口に出すダリル王子。他の物たちも頷き口をあんぐりと開けショックを受ける料理長。ハミル王女とアリル王女は席に付きチキン南蛮を口に入れ表情を蕩けさせるが、王妃二人は紅茶を口にするが料理に手を出そうとはしなかった。
「ク~ロ~昨日は少し飲み過ぎてマヨ料理は重いよ~アッサリとした料理を出しておくれよ~」
隣に座るエルフェリーンからの言葉に困りながらも国王へ視線を向けると無言で頷き、両隣に座る王妃もまた頷く。
「それじゃあ、失礼して……」
魔力創造を使い目の前に現れる大きな丼。中には白く煮えた米が入り溶き卵が浮きネギが散らされている。
「これは玉子粥です。鶏ガラで取った出汁で米を煮たものです。あっさりしているので飲み過ぎの次の日には軽く食べられます。王家の皆様も食べますか?」
昨晩寿司を食べた事もあり米に抵抗がないのか国王が頷き他の王族たちも頭を縦に振り、近くに重なっていた深めな皿に取り分けるクロ。
「お手伝いいたします」
メイドがお粥を運び王族へと配られるお粥たち。エルフェリーンはクロから受け取り熱々のお粥を匙ですくいふぅふぅと息を吹きかける。
「あの、良かったら料理長もどうぞ。お酒を多く飲んだ次の日には胃に優しい料理というものありだと思うので……」
クロの言葉に訝しげな顔を浮かべつつも、お粥を受け取り立ったまま匙を運ぶ料理長。
「うっ……これは……優しい塩味の奥に鳥の風味が広がるな……確かに飲みすぎた翌日にマヨ料理は重く感じられる……またひとつ教えられました……」
自身のコック帽を手に取り頭を下げる料理長に面倒くさいと思いながらもクロは頭を下げ、匙を持ったところで満面の笑みを浮かべるハミル王女の視線に気が付き匙を置き、フォークを持ちチキン南蛮に手を伸ばすと笑顔が加速する王女。
「これならあっさりとしていて食べられるな」
「昨晩頂いた寿司と同じ米料理。ふんわりとした玉子が美味しくするすると食べられますわ」
「うん、昨日は僕も飲み過ぎたので、この料理は助かります。何だか元気が出ますね」
国王や王妃にダリル王子には好評なようでおかわりを申し出る者も現れる中、クロはチキン南蛮を口に入れる。
適度な酸味とタルタルソースのマリアージュに揚げられた鳥の肉が合わないわけはなく美味しいのだが、朝からは胃に重い。が、目の前でキラキラとした瞳を向けて来るハミル王女と、あどけない微笑みを浮かべサラダスパを口にするアリル王女の前では多少の無理をしてでも目の前のマヨ料理に立ち向かう事を決意するクロ。
アリル王女の思いで胃を重くしたクロが食後に状態異常ポーションを口にするのは仕方のない事だろう。
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