オーガの村とクロの過去
「こっちが第二王子でそのお付きのメイドと騎士たちだ」
エルフェリーンから簡単に説明されながらもダリル一行は丁寧に頭を下げオーガの村長であるナナイに頭を下げる。
「五年前にもこちらにきた者がいたが、お前の方が遥かに優秀に見える。前に来た者はここまで歩く事もできずに連れの兵士に背負われていた。まあ、今回はエルフェリーンさまが背負われてきたがな」
「純魔族の素材が手に入ったのが昨日だったんだから仕方がないよ! 寝ずに色々と作ったし、楽しかったなぁ~」
昨晩の錬金作業を思い出し笑顔を浮かべるエルフェリーンに対してナナイは顔を青冷める。
「純魔族ですか……よくご無事で……」
「ははは、僕がいてビスチェもいるしクロもいるんだ。負ける要素が見つからないね! そうそう、この村のシャーマンにこれを送るよ。魔力を底上げするメガネだよ。魔力を流せば老眼鏡の効果もあるから使うといいよ」
エルフェリーンがマジックボックスから取り出した金で作られ細々とした魔石がフレームに使われた逸品をナナイへと手を伸ばし渡す。
「手を伸ばすぐらいなら降りて下さいよ……」
呆れながら言葉にするクロだったがエルフェリーンはころころと笑いながらも顔を横に振る。
「嫌だよ~クロの背中は温かいし、何だか落ち着く匂いがするぜ~」
「それは今朝使った木苺の匂いが付いているからですよ」
「どれどれ……ほんとだ! 木苺の匂いがする~」
ラライもクロに抱きつきクンクンと鼻を動かし、クロは両手を上げてされるがままになり、横に座るビスチェはばれない様に鼻で息を吸い込むとふわりと木苺の香りが鼻腔を刺激し、確かにと思う。
「それにしても王家の試練か……白百合の花の採取でいいのだな」
「はい、それを枯らさずに持ち帰る事が王位を継ぐ試練になります」
やや幼さの残る顔ではあるが芯の通った瞳を向ける第二王子ダリルにナナイは静かに頷いた。
「咲いている場所は私も解る。今からでも問題なく帰って来れようが、その前に昼食はこちらで用意しようか?」
「ああ、それなら問題ないです。お弁当を持ってきまし……」
クロがラライのキラキラした期待に満ちた瞳に気が付き、その頭を優しく撫でると目を細めるラライ。
「俺のを分けてやるよ」
「やったぁ! クロの手料理~~~」
満面の笑みを浮かべ立ち上がり踊り出すラライにため息を吐くナナイ。
「まったくうちの娘は……いや、クロを落としてくれればこちらで生活をさせて……」
「クロはあげないよ! クロは僕の暇潰しの玩具だからね! 誰にも譲らないからね!」
後ろからクロを抱きしめるエルフェリーンに、クロ自身はそれなりに嬉しいらしく鼻を指で掻く。
「確かにクロさまがいれば何かと便利ですし、毎日あんなにも美味しい料理が食べられると思えば傍に置いておきたいですね……」
「そうでしょう! クロの料理が優秀なのは私が一番理解しているもの」
「何でお前がドヤ顔なんだよ……」
胸を張り鼻高々に語るビスチェの態度にため息を漏らすクロだったが、アイテムボックスのスキルを使い人数分のお弁当を入れた籠を取り出し立ち上がる。
「昨日取れたフォークボアが三頭いるので村の皆さんにもお裾分けしてきますね。ついでに欲しがっていた解毒のポーションとアメを渡して来る。先に食べていてくれ」
「それなら私も行こう。エルフェリーンさまも行きますか?」
「僕はここに残るよ。クロのお弁当が気になるからね!」
頭に手を置き飛び降りるエルフェリーンは着地を決めると、メイドが籠を開け歓声を上げる。
「おにぎりだ~中身が気になるが僕は大好きだよ~」
そんな声を背に受けながら外へと向かうと子供たちが屋敷の陰からこちらを見ているのに気が付き手招きをするクロ。
わぁーと集まる子供たちに囲まれたクロはアイテムボックスの中からアメの乗った木皿を出すと更に歓声が大きくなり、子供たちの中でもまとめ役の少年に木皿を渡す。
「みんなで仲良くな」
「はい!」
まとめ役の少年の返事に続きお礼を言われながら去って行く子供たちを見つめ歩きだすクロとナナイ。
「いつもすまないな」
「いえ、子供に元気があってこの村は好きですよ。それに必要とされるのは嬉しい事ですから」
「まったくお前は底抜けにお人好しだな……最初にあった時はギラギラしたナイフみたいだったが、今では丸みを帯びたナイフの様に優しい目をするようになったな」
クロの頭をグリグリ撫でるナナイに「痛いですよ」と軽く返し歩みを進める。
ナナイが言うようにこの世界に来た当初、クロは荒れていた。巻き込まれながらも勇者としての資質がない事で何度か暗殺されかけ、ダンジョンに荷物持ちとして参加しながらも転移の罠にはまり、こちらの王国のダンジョンへと飛ばされたのだ。
ダンジョンの奥深くから死に物狂いで上へと逃れながらもスキルを開花させる事に成功する。魔力創造のスキルにより異世界の物を構築できる事や、シールド魔法による防御方法や結界の構築に属性付与。他にも細々としたものを見に付けながら地上を目指した先に待ちうけていたのは冒険者の洗礼である。
屈強な冒険者に騙され襲われそうになった所をエルフェリーンに助けられたのだ。
言葉が通じない事に驚くエルフェリーンはクロを魔術で拘束し、錬金工房へと連れて来ると食事を与え言葉を教える日々が始まり、その間にもビスチェに薬草をすり潰す仕事を押しつけられたり、あまりにも手が入っていない食事を改良したり、魔力変換によって生み出される調味料や甘味に笑顔を見せる二人と接し、この村にも連れて来られ紹介された時はまだギラついた瞳を見せていたが、村に現れた虫の魔物から子供たちをシールドで守る事で打ち解け、助けられたラライを筆頭に子供たちからお礼を言われ亜人ではあるが人間関係の大切さを知る事となったのだ。
「お~い、解毒ポーションを持ってきました~」
多くの弓の手入れをしていた青年のオーガに声をかけると振り向き手を止めクロの元へと駆けより、十本ほどの解毒ポーションを受け取るとお礼をいって走り出し狩りの道具の管理をしている小屋へと入り、すぐに戻って来る青年。手には革製の袋が握られ、それをクロに渡すと嬉しそうに中身を語る。
「クロとエルフェリーンさまの好物を干しておいた。今年のキノコはどれも育ちが良いから味は保証するぞ!」
嬉しそうに語る青年にお礼をいうとフォークボアを三頭アイテムボックスから出現させ腰を抜かす青年。
「まだ血抜きもしていないからそこら辺はみんなで頼む。魔石は取り出しているから、みんなで食べてくれ」
腰を抜かした青年に手を差し伸べ立ち上がらせたナナイは村の者を呼びに行かせ、小屋の近くにある血抜き専用の台座に力任せに置くと、携帯しているナイフで首に切り込みを入れ血と出して行く。
その光景に異世界にもだいぶ慣れたと思いながら視界に入れ血の匂いに顔を歪めていると、村の男たちが集まり残り二体も同じ様に台に乗せ血を抜いて行き魔術の得意な者が水を生成し内臓を洗い出し、器用な者は太い血管に水を流し入れ血抜き作業を進める。
「血抜きができたら皮を剥げ! フォークボアの皮は耐水性にも優れているから色々と加工し甲斐があるぞ!」
「一頭は頭が潰れてるな! こいつを先に解体するぞ!」
「今夜はこれを使ってエルフェリーンさまやビスチェさまを歓迎するぞ!」
「もちろんクロもだ!」
わいわいと盛り上がりながらも血まみれになりフォークボアを解体する光景に、クロは顔色を悪くしながらも持って来て良かったと思うのであった。
今日はここまでです。
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