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161. 沈む。一人。
◇
沈む。
沈む。
沈む。
深い深層に、沈む。
遠くの方で声が聞こえた気がした。
聞こえるはずのない声を聞いた気がした。
魔物を殺すという一つの目標に人々が合わせた声だった。
それは俺の望んだ声だった。
ずっと、待ち望んでいた声だった。
俺という阿呆がちょっかいをかけたおかげで、多くの人の胸に火が灯っていく。小さな小火が、災害かと思うくらいの大火事を巻き起こす。
俺はここで死ぬ。
でも。
俺は、そこにいる。
誰かの火種として、あるいは、憎むべき焔として。
望む未来だ。
誰にも見てもらえなかった俺が、誰しもに見てもらえる。
俺の人生は決して無駄なんかじゃない。いてよかったんだと心から思うことができる。
そうしてようやく、俺は人として認められた気がした。
世界に受け入れられているような気がした。
どうせ錯覚だろうけど、それが、何よりも嬉しかった。
ここにあったのだ。
欲しかったものが。
望んでいた未来が。
だから、もう、いいんだ。
多くを救う事ができた。
何よりも、素敵なことだと思う。
後悔なく、地獄に向かうとしよう。