135.
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宵闇を染めるは真紅。
炎と黒煙ばかりが黒い世界を彩る。
王都が燃えていた。
多くの建物から火の手が上がり、人々が逃げ惑っている。
その間を、漆黒の存在が駆ける。
強靭な牙と爪を有した”魔物”は、
通りすがった少年を切りつけた。
立ち止まった少女の腕に噛みついた。
大男の太い腕の肉を噛み千切った。
ふくよかな女性の指を切り裂いた。
人は倒れ、崩れ、壊れていく。
焔と血とで、世界は真っ赤に染まる。
悲鳴と怒号と慟哭とが世界を揺らす。
絶望が、そこにはあった。
「――なんで」
隣に立つマリーの小さな声はこの喧騒の中でもよく聞こえた。
王城から覗く王都の景色は地獄絵図といって差し支えなかった。
「なんで、まだ、一年あったはずじゃない……」
彼女が女王となって、四年が経った。
それまで人類は一歩一歩、魔物に対する備えを進めていた。
魔物の襲来まであと一年あったはずなのに。
あともう少しで守りは盤石だったのに。
茫然は当然。
俺だって同じ状況だ。
こんなことは前回では起こりえなかった。
アイビーだって、スカビオサだって、マーガレットだって、過去を知る全員が魔物の襲来時期だけは変わらないと言っていたのに。
「何が、誰が……」
意味が分からない。
状況も何も掴めない。
この世には本当は魔王なんかいないはずなのに。
俺が動いたことで、誰かが何かが変わってしまったのだろうか。
なんでだよ。
もう少しで全てが上手くいくはずだったのに。
過去は確かに、あと一年の猶予があったはずなのに。俺は確かに、逐一時間を確認していたはずなのに。
なのにばかりが積み重なって、手に負えない。
「……リンク。アイビーとスカビオサとマーガレット――事情を知る人を全員呼んで」
「……ああ」
「早く対策を立てないと……。人類が、終わってしまう!」
突如現れた魔物たちに、俺たちはただ立ち尽くすだけだった。
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