ジサツだなんて嘘だったんだ
死にたい
そう願うやつはこの世に腐るほどいるもんだ。
我はそんな奴らを呼びかけた。あらゆる手段を使って。
たくさんの奴らが集まった、皆我の周りに集まった。
死にたいと願った奴らは皆我を崇め奉った。
導く者であるこの我を。
頭がイカれてると言われた。
そんな言葉は耳に入らなかった。
我は、我の道を進んでいくだけだから。
止まらない、止まれない。
終焉ノ日、月がその身を隠す刻に奴らを導く。
それまでに、我は信者を増やさないといけない。
この世界は終わりを迎える、月がその身を隠す時全てが終わる。
我は神の代弁者、神の代わりに導く者。
終焉ノ日がやってきた後、生命達は路頭に迷う。
我はそいつらを、導かなければならないのだ。
「………幻か、仕事はしなくていいのか」
「世界が終わるなら仕事なんてしなくていいじゃない」
その時、なぜか我の胸が痛くなった。
「あぁ、そうだな」
「大丈夫、誰が何と言おうと私は貴方を信じるよ」
「優しいな、君は」
この子といると、不思議と落ち着く。
「信者はどれだけ集まった?」
「ざっと二百…それ以上かも」
「十分だな」
それだけ居れば、十分だ。
我の使命はできるだけの人外達を導くことだ。
どこに?
「ぐっ……」
「大丈夫?」
幻が心配する。
「大丈夫だ」
しかしまぁ、自分を殺してから幾分と経ったものだ。
本当に殺したのか?
「ぐぅっ……」
さっきからなんなんだ、鬱陶しい。頭痛がする。
我は導く者だ、こんなところで体調を崩してたまるか。
「今から遊びに行かない?」
「あ?」
「もう、信者の数は十分なんだよね?だったら…終焉ノ日が来るまでたくさん遊ぼうよ!」
「………」
「だめ……かな?」
そんな顔をされたら断れるわけがなく
「行くか……」
「わーい、やったぁ!」
幻は笑顔で跳ねた。
……それから、いろんな所に行った。まるで、恋人のように。
そういえば、どうして幻はこんなにも我についてくるのだろう?
代弁者だから?導く者だから?
我にはわからなかった、幻の考えていることが。
まぁ、気にせず遊ぶことに専念しよう。
久しぶりに、心の底から遊び尽くしたような気がする。
これも、幻が居てくれたおかげ。
終焉ノ日まであとわずかだ。
終焉ノ日って何だよ?
我は導く者として
導く者って何だよ?
………どうでも良い話だが、この日は胸の痛みか止まなかった。
……色んな奴らが盛り上がっていた、小さな宴を開いていたり、踊っていたり、そんな光景を我は遠くから見ていた。
「たくさん居るね」
「ああ」
「ざっと百人は集まったかな。さっきはすごいモテモテだったね!」
「……………」
別に、我は崇められたいからこんなことをしているわけじゃない。
皆を導くためにやっているのだ。
「少し、外に出ない?」
「外?」
「うん、みんなが居ない場所に」
我は辺りを見回す。皆心残りを残さないように楽しくやっている。
「………行こうか」
最後の想い出を、作りに。
「…………はぁ」
「わぁ!息が白くなってる!」
「そろそろ、冬ってわけか」
「冬………かぁ。貴方はこの人生どうだった?」
「……ゴミみたいな人生だったな」
苦笑いをしつつ
「抵抗しなかった我も悪いかもな、でも最大の原因はあの残滓共だ」
「あー、一理あるねぇ」
「……………」
わかっていた、虐めなんてものはどの世界でも無くなるわけないことだなんて。
「ところで、幻はどうだったんだ?」
「それ聞いちゃうかぁ」
「駄目なのか」
「…………楽しくは、なかったかな。どこに居ても、虐められるんだもん」
きっと、幻は我よりも酷い目に遭っていたのだろう。だのに……どうしてそんな笑顔で居られるんだ?
「………どうして、そんな笑顔で生きていられるんだ?」
たまらず我は尋ねた。
「……とある人のおかげ!」
「とある人?」
「そう、私と似た境遇で今にでも潰れてしまいそうな人。そんな人が居たんだ、見ていられなくて思わず私は話しかけた。それでね、話していくうちにだんだん好きになっちゃって、その人の前だと強くなれた気がしたの。その人といる時は、楽しもうって、笑おうって決めたんだ」
「へぇ………そうなのか」
「うん。 あ、ごめんちょっと席外すね」
逃げるように幻は去っていった。
「……………とある人」
考えなくてもわかる、きっとそれは我だ。こんなにも近くに、我を理解してくれる人が居た。
その理解者を………我は………
「何を考えているんだ………」
我は皆を導くためにここにいる、そのために産まれたのだ。
導いて、死ぬのだ。…………だのに
「どうして、こんなにも胸が痛いんだ……」
その痛みは全然止まない、むしろ酷くなっている気がする。
「我は……何がしたいんだ!!!」
空を見る、月が呑まれ始めている。
……もうすぐで、終焉ノ日が来る。
…崖上、たくさんの人外が集まった。皆我の信者だ。
「………」
導く者として、言わなければ。
「みんなぁ!準備はいいかなぁ!!」
幻が大きく叫んだ。
「終焉ノ日がやってきたらもうこの世界は終わりを迎えてしまいます!その瞬間、私たちは無になります!何も残りません!しかし、私たちは違う!ちゃんと導く者が居る!ここから飛び降りるのは怖いかもしれませんが、きっと次の世界へと導いてくれることでしょう!信じましょう、導く者を、神を、その道を!進みましょう!その足を動かしましょう!他の人達には未来はありませんが、私たちには未来はある!さぁ、その勇気を振り絞って!」
幻の声に、人外達は崖際までやってくる。
誰かが落ちた、それを弾みにどんどん落ちていった。
幻の言葉を、明日を信じて。
「…………落ちていっちゃったね」
「…そうだな」
気がつけば、そこに居たのは我と幻だけ。
呆気ないものだな。
「それじゃ、次は私の番だね!」
「………………えっ」
「それじゃあね、信じてるからね!逝ってきます!」
そうして、崖下へと飛び込もうとする幻。
これでいいはずだ、これで皆は明日へと導かれる
いいわけがないだろ!!!
「ま、待ってくれ!!!」
「ん?」
「待ってくれ…幻!!!」
「どうして?」
「行かないでくれ……頼むから行かないでくれ!! 『俺』は………君に逝ってほしくない!!!」
「どうして…? 終焉ノ日はもう…」
「そんな日あるわけがないんだ!!全部俺の嘘だよ!!!俺は…馬鹿だった……自分を殺したんじゃなかった……殺した気でいたんだ………終焉ノ日なんてもの……信者を……自分を騙すための手段なだけだった!俺は、人外の現状を人間共に教えてやりたかった、でも一匹だけの命じゃ振り向いてはくれない。そこから俺は集団自殺を考えた、それなら誰も知らんふりはできないはずだと考えた……そうして俺は皆を…自分を騙した……でも、たった今思い出したんだ……君を死なせたくなかったから……君だけには死んでほしくないから!!」
「…………」
「幻、君は逝かないで!!君に死んでほしくないんだ!!無意味に死んでほしくないんだよ!!!結局俺は雑魚のままだった、それでも……君だけは守りたかった!!!」
「………駄目だよ、そういうのは」
「…………なに?」
「私だけ特別扱いはだーめっ、貴方は導く者なんだから。ね?」
「だから、それは全部嘘っぱちで…!」
「貴方は、この嘘を吐き続けなきゃいけない。この嘘を捻じ曲げちゃいけないんだよ、わかる?」
「わかんねぇよ…!」
「貴方は導く者として、皆を落とした。なら、信者全員が落ちるまで嘘を吐き続けなきゃならないんだ」
「ぐっ……」
「あのね、私…貴方には感謝しているんだ。貴方の前なら、笑っていられた、強くいられた。えへへ、ありがとう」
幻はにっこりと笑う、ひとときも皆を騙した俺を咎めずに!
胸がずきりと悲鳴をあげる。
………そうか、この痛みは罪悪感だ。幻を騙した、罪悪感だ……
「それじゃあ、私はそろそろ行くね」
…幻は、嘘を吐き続けろと言った。
「……早くしろ、終焉ノ日が来てしまう」
「わかった!それじゃあね、エルドラド!」
幻は崖下へ落ちていった、まるでアトラクションを楽しむ子供のように。
「…………ふざけんなよ……どうして最後の最後で俺の名前を呼ぶんだよ………何で…今更………卑怯じゃねぇか!!!」
そこで、俺はようやく察した。
俺は彼女のことが大好きだった、愛していたんだ。
だから今こうして泣いているんだ。死んでほしくないと言ったんだ。
背後から声がしてきた。きっと、この異変を発見した奴らだろう。
俺は湿った顔を拭う。
嘘を吐いたのならば、責任を持って最後まで吐き続けよう。
次は、真実を塗り替えよう。
ここで死んだ人外達は、全員この世に絶望した奴らだったのだ。
そういう真実に塗り替えるのだ。
「まぁ、すぐバレるだろうけどな」
そうして、俺は最後の嘘を吐いた。
君は、自分を殺したことがありますか。