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彼はジブンをコロした


まだ、肌寒い季節だった。俺は高い崖から夜空を見上げいた。しばらくすると後ろから声がした。


「な、何をやってるの!?貴方までああなる必要ないんだよ!!」


ああなる、この崖の下にある惨劇のことを指しているのだろう。下の方にいけばいくほどさまざまな色の血液に染まっている。


それを俺は穢らわしいとは思わなかった、むしろ綺麗だと思った。あれは彼らが選んだ道、俺がとやかく言う筋合いはない。


俺は、崖の端まで進む。


「ま、待って!!」


「貴方まで自殺するつもりなのか!!」


…そう、この下の血溜まりの原因は…自殺した人外達だ。つい先ほど、ここから落ちて血の海を作り上げた。


自殺、したんだ。


「やめろ!!!」


その言葉に俺は


「………どうして?」


そう答えた。


「この集団自殺の原因を教えてやろうか、自分達のことしか考えない人間共のせいだ。人間共と同じ空気を吸うくらいなら、死んでやる。人間共がもっとマシな生き物だったなら、こうはならなかった。もっと共存を望む生き物だったなら、こうはならなかった。この悲劇を見せつけてやる、あのクソッタレ共にな!!」


その右目に憎悪を籠らせる。


「この惨劇を人間共に伝えろ、忘れるなと刻ませておけ」



……そうして、俺は崖下にダイブした。たくさんの骸の中にあった、とある一つの骸を見つけて俺は微笑んで…


「今、行くから」


そう、呟いた。










……人間達が自分勝手な奴らだと理解したのは一、二年くらい前のことだ。


俺は人間達から疎まれていた、平気で石やら何やら投げられた。おまけに嫌がらせの罠を置いていく。お陰で身体中に傷ができた。


「……痛い」


俺は痛めた身体で川岸に横たわる。自分が情けない、人間を殺せるほどの実力があるはずなのに、抵抗しない。やられるがまま。きっと、抵抗した後が怖いと思っているんだろう。あの人間達だ、なにをしてくるのか考えられたものじゃない。


「……死にてぇ」


何百回とこの言葉を口にしただろうか。そうしてぼーっとしていると。


「…あ」


「やっほー」


友達の幻だ。


「今日もこっぴどくやられた感じ?」


「幻の方はどんな感じなのさ?」


「大きめの石を投げられた!おかげでおでこから血が出ちゃった!」


「笑顔で言えることではない」


幻も何人かから虐めを受けているらしい。俺はご愁傷様としか言えなかった。


「ああいうことして何が楽しいんだろうね」


「ネジ外れたあいつらの脳みそじゃ、あれが娯楽なんだろうよ」


「貴方なら少し虐めたくなるかも」


「君も人間と同類じゃないか」


「冗談だよ冗談」


冗談に聞こえないんだけど。


「それにしても、貴方は変わらないんだね」


「どういうことだ?」


「やり返さないんだなって、貴方ならそれなりのパワーがあるし」


「やり返しても、何されるかわかったもんじゃないからな」


「……そうかなぁ?」


意味深な表情をする幻。


「な、何が言いたいんだよ……」


幻は俺の瞳を見て言う。


「……貴方は、変わりたいって思ったことないの?」


「変わりたい…だと?」


「変化は……時には大事なことなんだよ、知らない?」



俺が変化したのは、きっとこの言葉が原因だったのだろう。





崖上。


「ぐはっ……!」


俺は地面に座っていた、見上げればそこには邪悪な人間が居た。


「はっ、キモいドラゴンのくせにのうのうと人間様の住処の近くに居座ってるんじゃねぇよ」


何もしていないのに、ただそこにいるだけで罵倒され、暴力を振るわれる。腹に痣ができて痛い……


「やめ…て…くれ…」


「うるせぇ」


また、俺の腹に蹴りが入る。


「ぐあっ……」



………あれ?


攻撃を喰らっている時、ふと思った。


どうして、俺は生きることに執着しているんだ、と。


生きているだけで罵倒される。誰も俺を愛してはくれない。


そんな人生、生きる意味あるか?…ないよな?


生き続けても、苦痛しか感じられない気がする。


こんな底辺に罵倒されて、蹴られて、愛の一欠片も貰えなくて


……生きる必要ないんじゃないか?


ああ……それなら、自殺でもしようかな。


そうだ、そうしよう。自分を殺そう。こんな自分、要らねぇや。





「…………え?」


目の前の人間がそう喋った。


狼狽している、当たり前か。我は尻尾に付着した血を舐めとって


「反応はそれだけか、つまらねぇやつ」


尻尾を薙ぎ払う。


「それで、どうする?」


「お前…誰だよ…」


「キモいドラゴンですけど?」


「わけわかんねぇ……」


「そんな御託は並べるんじゃねぇ」


我は鋭い尻尾を人間に向ける。


「自分から死ぬか、我に殺されるか……どっちか選べ」


「は?」


状況が呑み込めないのか、しどろもどろしている。


「はっ!お前みたいな奴が殺人なんてできるわけがないだろ!」


「足、動かないよな?」


「え…?」


「悪いけどちょこまかされるのは嫌だから、足の神経を叩き切らせてもらった。まぁ、その傷じゃ立つことさえ難しいだろうよ。ほら、血の水溜まりが出来ちまってるぜ?」


「あひっ!?」


人間が後ずさり、崖側へと近づく。


「それで、どうする?自分か死ぬか、我に殺されるか。好きな方…選べよ。慎重に選べよ?膨大な恨みを持った我がお前に―――」


我の言葉は最後まで紡がれなかった。人間は後ずさりしすぎて、そのまま崖下に落ちていった。ぐしゃりと音がした。


我は悪魔か、それとも魔王か。


違う、言うなれば我は……



「……新世界の、神だ」




あの人間は死んだ、我はその場から離れた。


これは人間の自殺だ、我が殺したわけじゃない。


あいつが自分で自分を殺したのだ。


足の傷も、落ちた際にできたことにしておけばいい。


「…これで、終わりなわけないからな」


そう我は低く吼える。





「わわわ」


家に帰ろうときた時、幻に会った。


「奇遇だねー」


「奇遇…………か」


「せっかくだし、ゆっくりお話しようよー」


「………そうだな、たまにはな」


「むっ!」


「…どうした?」


幻が訝しげに我を見る。


「…変わったね、貴方」


「そうか?」


当たり前だ、とうに昔の我は消えた、自殺したのだから。


「まぁ、貴方には変わりないけどさ!」





「それで、貴方は誰かな?」


「我?」


「なんだか、貴方なんだけど貴方ではないような気がしてね」


「我は、神だ」


「神だとぅ!?」


「正確には、神の弁明者だ。神の言葉を受けた選ばれし者」


「すごいや!何ができるの!?」


「神の言葉を聞いて、それをみんなに伝える」


「はえぇ……」


「信じるのか」


「逆に、信じないと思った?」


「…え?」


「貴方の言うことならなんでも信じるよ、たとえそれがどんなに胡散臭いことでも、私は信じるよ」


「………」


「それで、貴方のやりたいことって?」


「?」


「どうして、そんなに変わったの?何か理由があるんじゃない?」


「我は……我は、導きたい」


「みんなを?」


「ああ」


「どこに?」


「それは……」


「……言いにくいことなんだね」


「ああ」


「それでさ」


「何だ」


「私も入っていい?」


「え?」


「誰かと一緒にやった方がやりやすいよ、それに…私も貴方に導かれたいな」


「我が……幻を…導く?」


「そう。えへへ…だめかな?」


「え、あぁ…大丈夫だよ」


「わぁ、ありがとう!」


「………君といると、戻りそうになる」


「何が戻るの?」


「いや、なんでもない」


「気になるんだけど!」


「ともかく……よろしくな、幻」


「うん!よろしく、神様!」


「いや、いつも通りでいいからな」


そうして、我は幻とハイタッチをする。




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